マセラティの新しいSUVである「グレカーレ」は、名門ブランドらしいモデルだと感じると同時に、群雄割拠のプレミアムSUV市場にあって、このクルマのライバルはいないという気がする。
まず、モデル名のネーミングがマセラティの流儀だ。「ギブリ」(サハラ砂漠から吹く乾いた熱い風)、「ミストラル」(アルプス山脈から地中海に吹き下ろす風)、「ボーラ」(アドリア海で北東から吹く風)、「レヴァンテ」(地中海に吹く北東の風)と、このブランドは伝統的に風の名前をモデル名にすることが多い。グレカーレもギリシャから地中海に向けて吹く風を意味する。
タフさやヘビーデューティな雰囲気を押し出すのではなく、あくまでエレガントなエクステリアデザインもマセラティらしい。過剰に飾り立てるのではなく、美しいフォルムや繊細なラインで魅せる、正統派のハンサムだ。シュッとした見た目だからそれほど大きくは感じないけれど、全長は約4900mm、全幅は1950mmで、後席は広いし荷室にも余裕がある。
スイッチ類を極力排除してインターフェイスをタッチスクリーンに集約するインテリアは、イマ風だ。一方、レザーの質感やトリムとステッチの美しさ、クローム使いの上手さはイタリアンラグジュアリーの匠の技。このインテリアに囲まれていると、「クラシック・ミーツ・モダン」というフレーズが頭に浮かぶ。おもしろいのがダッシュボードの時計で、マセラティだけにアナログ時計にこだわるのかと思えば、スマートウォッチのように、方位計など、フェイスの表示を変えられる仕様になっている。これぞ「クラシック・ミーツ・モダン」な一面である。
日本仕様には、3種類のパワーユニットが用意されている。「GT」と「モデナ」は、2.0リッター・直列4気筒ターボとマイルドハイブリッドの組み合わせたエンジンを搭載。両者はチューンが異なり、GTが最高出力300ps、モデナが330psとなる。そしてスポーティ仕様の「トロフェオ」は最高出力530psを発生する3.0リッター・V型6気筒ツインターボを搭載している。今回試乗したのは、最もベーシックなGTグレードだ。走り出してすぐに感じるのが「ホントに2.0リッター?」と思えるほどのエンジンの力強さだった。極低速域からアクセル操作に対する反応が機敏で、バカっ速くはないけれど気持ちよく加速する。
その理由は最新のテクノロジーにあるようで、「eBooster」と呼ばれる電動コンプレッサーとマイルドハイブリッドシステムの「BSG」(ベルト駆動のスタータージェネレーター)が、エンジン回転の低い場面で駆動をアシストしている。エンジンの回転フィールは滑らかで、ちょっと物足りないかもと思うほど静粛性に優れている。だが、「GT」(デフォルト)「OFF-ROAD」「COMFORT」「SPORT」という4つのドライブモードから「SPORT」を選択し、窓を少し開けると、トゥルルルという朗らかなエキゾーストノートが耳に飛び込んできた。つまり、遮音はしっかりしているけれど、音を楽しみたい人のことも考えてチューニングされているのだろう。ハイブリッドであっても音を楽しめるあたりがイタリア車らしい。
乗り心地がいいことも、マセラティらしさを感じさせるポイントだ。スポーツカーであれスポーツセダンであれ、このブランドが造るハイパフォーマンスカーは、ゴリゴリに足を固めるのではなく、きれいにロールしながら曲がる美しいコーナリングフォームが特徴だ。その伝統は、グレカーレにも引き継がれていた。試乗車にはオプションのエアサスペンションが組み込まれていたので、マセラティの美点を余すところなく味わうことができた。たとえば「COMFORT」を選ぶと、路面からの突き上げは明らかにまろやかになり、高級SUVとして粛々と走ることができる。ヤル気のときは「SPORT」だ。前述したように、排気音が勇ましくなり、コーナーでも踏ん張るようになる。ただしコーナーで踏ん張るといっても、アルファロメオのSUV「ステルヴィオ」のようにキュッキュと曲がるのではなく、美しい弧を描くように曲がるのがマセラティらしく、グレカーレの特徴でもある。
タイムを競うスピードスケートの選手でもなければ、せわしなく順位が入れ替わるショートトラックの選手でもない、優雅に滑るアイスダンスの選手のようにグレカーレはエレガントに走る。内外装のデザインも、そうした性格にフィットしている。伊達とか艶っぽいという言葉が似合うこのクルマに、やはりライバルは存在しないように思える。
マセラティ グレカーレGT 車両本体価格: 896万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4846 X 全幅 1948 X 全高 1670 mm
- ホイールベース | 2901 mm
- 車両重量 | 1930 kg
- エンジン | 直列4気筒 ターボ MHEV BSG付
- 排気量 | 1995 cc
- 変速機 | 8速 AT
- 最高出力 | 300 ps(221 kW) / 5750 rpm
- 最大トルク | 450 N・m / 2000 - 4000 rpm
- 最高速度 | 240 km/h
- 0-100 km/h | 5.6 秒
Text : Takeshi Sato