兵庫県明石市のダブル選挙 統一地方選挙2023後半戦の注目選挙区で今、起きていることは?(オフィス・シュンキ)

(編集部注:画像を一部加工しています)

統一地方選後半戦、全国的にも注目されているのが「子育てのまち・明石」として全国に「明石市」を知らしめた現職の泉房穂市長(以下、泉氏)退任後。明石市長選挙には3人の無所属候補が立候補しています。届け出順に元加西市長の中川暢三氏、自由民主党・公明党推薦の元明石市議会議員の林健太氏、同じく元明石市議会議員の丸谷聡子氏です。私は告示日の4月16日、3候補の第一声の現場にまず立ち会いました。

明石市長選の3陣営第一声 「分断」か「対話」か

「泉さんを軸にして市民の分断が起きている」

JR明石駅の南東の一角でマイクを握った中川氏は、自らの政策を話す前に「泉さん(現市長)を軸にして市民の分断が起きています」と力を込めました。その上で「『子ども支援』で人口が増えたといっても、泉さんの政策で増えたのではないです。出生率が上がったのでなく、外からの転入が増えただけです」と、泉市政への批判からスタートしました。

また、JR大久保駅で第一声となった林氏は「子ども支援はどこでもやっています。これからは教育が大切。道路も、水道も、公共施設がこれではだめです」と、子育て世代への施策が目立つ泉市政で足りないと思われているものを指摘しました。また、林氏は後日、「コピー市長、コピー議員」と今回、泉氏が後継指名した市長候補、擁立した市議会候補のすべてを一刀両断するような演説も行い、対決姿勢をより鮮明に打ち出していました。

明石市を走る国道2号線沿いにある、泉氏が立ち上げた地域政党「明石市民の会」事務所で第一声となった丸谷氏は、横に泉氏を置きながら「私は泉派ではありません」と宣言して、話し始めました。2期8年の市議会議員の時の市長はすべて泉氏。丸谷氏に先立って、丸谷氏の経歴などを話した泉氏も「議会で私に厳しいことも言ってこられた。しかし、苦労されてきた人。(立候補を)お願いした」と、自らの信奉者としての後継者指名でないことを出陣式で明言しました。そして、丸谷氏は「私は泉さんのようなトップダウンでなく、ボトムアップでやります」と対話路線を掲げ、「頑張ろう、はやらないです。まる(円)、でやります」と、両手を広げて頭の上で「まる」を作るポーズで、対決しない姿勢を丸谷氏は訴えました。

泉市長退任後の市政がポイント

今でこそ、「子育て施策」を中心に泉氏の手腕は全国に知れ渡っていますが、2011年に最初の当選を果たした当時はそうではありませんでした。当時、明石の観光資源のひとつにもなっていた「明石淡路フェリー(愛称・たこフェリー)が休止中。存続を訴える市民の声は小さくありませんでした。しかし、泉氏は2012年に財政上の援助が難しいとの判断で廃止を決断しています。

以前は、たこフェリー乗り場だった場所

それとほぼ同時期に計画されていた明石駅前の再開発で、広報誌を使って取った市民アンケートでの希望1位だった「図書館」と「子育て支援施設」を中心に据え、市役所機能も持たせたビルを見直し案として作成。公共サービスの窓口の一元化と子どもの遊び場、そして「本のまち」明石の図書館を実現させ2016年にオープンしています。

「こども総合支援条例」など、ソフト面での斬新な施策が注目されがちな明石市ですが、受け入れるハード面の整備も泉市長の時代に行っている、というのは、今回、明石の玄関口・JR明石駅での取材の合間に、まさにそこにある件の商業施設「パピオスあかし」に入ってみて実感しました。

まさに、本と子ども支援と行政がすべて一体としてそこにはあったのです。

「たこフェリー」廃止で街のシンボルの一つを失った明石ですが、市の中心地である明石駅前を「子育て」と「本」を核に再生させたことで見事に別のランドマークとなるシンボルを得ました。それも全国トップレベルの「子育てのまち」という評価とともに。それを現地で目の当たりにした私は、泉氏が市民から大きな信頼を得ている理由が分かる気がしたのも事実なのです。

市議選で、協力会派「16議席」を確保する意味

今回は、市長選とともに「市議選」も明石市では行われます。30人を選ぶのに43人が立候補する厳しい選挙ですが、ここでも注目は「明石市民の会」所属の候補者です。いずれも無所属で5人が立候補していますが、これは「今の政治を継続させる議員を増やしたい」という泉氏の狙いからのものです。選挙前の議会構成(3月20日現在)をみると、自民党と公明党系の会派議員が合わせて16人。今回の泉氏は「優生保護法等被害者支援条例」(2021年12月)の可決までの紆余曲折などで議会に対する不信が爆発しての暴言による退任。それだけに、この「16人」というちょうど議会の「半数超」を争う熾烈な選挙戦になっているのです。

明石市以外の関西では、「統一地方選」前半から「日本維新の会」「大阪維新の会」(以下「維新」)の旋風が吹き荒れました。明石市でも5人の市議候補を立てています。9日の県議選明石選挙区では、県内で当選した議員の中でトップ票数の3万2060票を集めた「明石市民の会」所属の橋本けいご氏などに次いで、橋本氏の約半分の票数ながら3位で1議席を確保しています。明石市議会では、維新系会派は、これまで泉氏に近い立場で活動してきましたが、今回は違うようです。公示日当日、私はある「維新」の候補に「(明石市民の会などと)対立でなく対話、柔らかい路線ではだめなのですか?」と聞いてみました。その答えは「このやり方(対決路線)でやると決めて、やっています。変えるつもりはありません」でした。

泉市長の狙い通り、従来の会派構成で「16議席」がこの選挙で確保できたとしても、この「維新」の動きは、選挙後に影響を及ぼしそうにみえます。また、無所属での有力候補とされている方の中にも「(当選すれば)是々非々で議会に臨む」を明言している方もおられます。

「明石のまちからはじめる」選挙になりえるか

泉氏は2011年の初当選の際、なんの後ろ盾もなく69票の薄氷を踏む差で市長に当選しています。しかし、それ以後、支持母体は「市民」と言い続けています。今回の明石市での市長選・市議選。泉氏が自身の施策に関していう「明石のまちからはじめる」あるいは「明石のまちから広げる」に、選挙もなっていくのか、ならないのか。結果はもうすぐ出ます。

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