【大分】国東半島の奇祭・修正鬼会とは? 周辺の見どころも紹介

修正鬼会とは?

2021年に大ヒットしたアニメ『鬼滅の刃』に登場するように、日本では、悪の化身とされることの多い

その一方で、独自の宗教文化が残る大分県国東半島では、鬼は、邪悪なものを追い払い、幸をもたらす仏の化身と考えられています。

そして、鬼が活躍する地域最大の祭りが「修正鬼会(しゅじょうおにえ)」です。本記事では、日本でも特にユニークな祭り「修正鬼会」の体験レポートや、国東半島の文化、見どころを紹介します。

目次

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独自の宗教文化が残る国東半島と修正鬼会

国東半島は、大分県の北東部にあり、中心部には険しい山が広がっています。この山々を中心に「六郷満山(ろくごうまんざん)」と呼ばれる独自の仏教文化が今も息づいています。

国東半島は、日本古来の神道と中国由来の仏教が融合する「神仏習合」の宗教文化が初めて生まれた場所と言われています。ここには、2つのエピソードが関連しています。

まずひとつは、「八幡」(※)の生まれ変わりとされる仏教僧・仁聞(にんもん)が718年、28の寺院を開基したという伝説。

もうひとつは、725年に開創された宇佐神宮に関するエピソード。宇佐神宮にまつられていた八幡は、朝廷への反乱を鎮める際、多くの人を殺生したことを悔い、仏教に救いを求めました。こうした経緯から宇佐神宮内に仏教寺院が築かれ、そこから多くの仏教僧が修行地を求めて山々へ入っていったと言われています。

こうした伝説が残る国東半島では、山々で修行した仏教僧たちの足跡があちこちに残っています。

たとえば、修行僧たちが岩に掘った仏像である「磨崖仏」。国東半島は、日本で一番多くの磨崖仏 がある場所です。さらに、この地の仏教僧たちは、10年に1度、約160kmの巡礼路を歩く修行「峯入行(みねいりぎょう)」を今も行っています。

こんな国東半島での最大の祭りが、修正鬼会です。ここでは、裸で水に飛び込んで身を清めたり、鬼に扮する僧が松明を手に踊ったりしながら、無病息災や五穀豊穣を祈ります。

「修正鬼会」は、平安時代の正月行事と、国東半島で行われていた仏教の修行法が結びつき誕生したと言われており、江戸時代初期から盛んに行われていました。なぜ、鬼が善なる存在として登場するかは分かっていませんが、この地域の神仏習合の文化が関わっている可能性が考えられます。

修正鬼会は、1977年に国指定重要無形民俗文化財に認定され、今も大切に続けられています。

修正鬼会の開催場所・日程

開催場所天念寺岩戸寺成佛寺の3寺で開催(岩戸寺・成佛寺は隔年で交互に開催)
開催日時:旧暦1月7日(現在は主に1月末~2月頃。年によって変更の場合あり)
参加方法修正鬼会の公式HPをご覧ください。

修正鬼会の体験レポート

筆者は2023年1月28日(土)に開催された岩戸寺の「修正鬼会」に参加しました。当日は雪が降る寒い日でしたが、祭りは、それに負けないくらい熱気に満ちたものでした!

「修正鬼会」は15時頃から深夜まで行われる長い行事ですが、ここでは、そのハイライトをお届けします。

ハイライト1.垢離取り

「修正鬼会」最初のハイライトは、夕方18:00頃に行われる「垢離取り(こうりとり)」。

時間になると、本堂から、ふんどしを身に付けた裸の男性たちが出てきます。彼らは「タイレシ」と呼ばれる地域住民で、祭りの中でさまざまな役割を果たします。

タイレシたちは境内を駆け、境内の端にある淵で立ち止まり、合掌します。彼らは、これから水の中に飛び込み、心と体を清めるのです。

雪の降る真冬の夜、冷たい水に飛び込むには勇気がいります。

「父ちゃん、頑張れ!」。家族や他の参拝者から、そんな応援の声が上がります。

意を決したタイレシが、とうとう水の中に飛び込みました!

「意外と温かい」。見ているだけでこちらも寒くなってきそうですが、飛び込んだ男性たちからは、そんな感想も。

昔の仏教僧たちの修行の厳しさを思わせる「垢離取り」ですが、やり遂げたタイレシたちの顔は、晴れやかでした。

ハイライト2.タイアゲ

「垢離取り」の後は、本堂で僧侶とタイレシが盃を交わし、「修正鬼会」が無事に行われることを祈願します。

その後、タイレシたちは外へ駆け出します!

次に行われるのは、地域住民の協力で製作された巨大松明に火を灯す儀式「タイアゲ」です。

「タイアゲ」で使う松明は、長さ3~4メートルにもなる巨大なものです。

「あっちを持って!」「もっとこっちに寄せろ!」タイレシたちは声を掛け合い、協力しながらこの重たい松明を焚火にくべます。

松明に火がつくと、彼らは本堂の近くに運んでいきます。

そして、そこにある仏像に対して、松明を左に3回、右に3回回し、上下に3回振ります。これは「三々九度の法(さんさんくどのほう)」と言って、3回を3セット繰り返すことが縁起の良いこととされています。

火の粉が飛び散る中、「せーの!」と掛け声をかけながらタイレシたちが松明を回す様子は、迫力満点です!

三々九度の法が終わると、松明は空に向かってかざされます。

ハイライト3.立役

タイアゲが終わると、講堂で夜の読経が行われます。

続いて、「香水棒(こうすいぼう)」と呼ばれる棒を持った僧侶たちが舞う「立役(たちやく)」が行われます。

「立役」には、足踏みをするように舞いながら五穀豊穣を祈る「米華(まいけ)」、松明の火の安全を祈願する「開白(かいびゃく)」と呼ばれる踊りなどがあります。

一連の舞が終わった後は、岩戸寺の住職と長老僧が、呪文を唱えながら魔除けの結界をはる儀式「四方固め(しほうがため)」が行われます。

「立役」の最後に行われるのは、「鈴鬼」と呼ばれる踊り。ここでは2人の僧侶が、鈴と神道の祭礼道具・御幣(ごへい)を持って舞い、次のハイライト「鬼走り」の主役となる荒鬼(あらおに)を招きます。

ハイライト4.鬼走り

立役が終わると、「修正鬼会」最大のクライマックス「鬼走り」が始まります!

ここではまず、2人の僧侶が、特殊な仮面を被った「荒鬼」として登場します。そして「オーニハヨー、ライショハヨー」という囃子をかけながら、タイレシの人々とともに、松明を手に講堂の中を飛び回ります。

その最中には、講堂の柱に松明がぶつかり、火の粉が飛び散ることも!

続いて、タイレシと鬼は手を取り合って輪となり、その中に参拝者を招き入れます。

参拝者が中に入ると、タイレシと鬼は、般若心経を唱えながらぐるぐると回り始めます。松明が燃え盛る中、「かんじーざいぼーさつ」というお経を聞いていると、まるで熱に酔ったような気分になってきます!

般若心経を読み終わると、鬼たちは立ち止まり、松明で参拝者の肩や背中を叩きます。これは、参拝者の無病息災を祈る加持祈祷なのだとか。

参拝者はほぼ全員、これを受けることができます。

参拝者への加持祈祷が終わると、鬼とタイレシは講堂を飛び出し、境内を走り回ります(※)。その後、彼らが講堂に戻ってきて、2023年の「修正鬼会」は終了となりました。

雪の中、祭りは深夜まで続きましたが、生きるエネルギーをもらったような充実感に満ちた体験で、筆者は「また参加したい」と思いました。

鬼会の里 歴史資料館

「修正鬼会」が行われるのは1年に1度だけですが、国東半島には、年間を通じて「修正鬼会」の文化に触れられる「鬼会の里 歴史資料館」があります。

ここでは、「修正鬼会」で使われる道具の展示のほか、「修正鬼会」を映像と音で楽しめるシアタールームや、「六郷満山」の修行の風景を感じられるVR映像などが楽しめます。

国東半島の見どころ

国東半島には「修正鬼会」以外にも、「六郷満山」に関連する寺や神社など、見どころが多くあります。ここでは、特に人気のスポットを紹介します。

宇佐神宮

日本には約11万の神社があります。そのうち、約4万社が八幡神をまつる神社ですが、宇佐神宮はその総本宮となります。

もともと、皇室から伊勢神宮に次ぐ第二の宗廟(祖先の霊をまつる場所)と考えられており、重視されてきました。国東半島の多くの地域も、かつて宇佐神宮の所領でした。

国宝に指定されている本殿をはじめ、建築的にも多くの見どころがあります。

文殊仙寺

文殊仙寺は、山岳修行を行う仏教の一派・修験道の開祖である役行者(えんのぎょうじゃ)によって、648年に開基されたと言われるお寺です。

智慧を司る仏・文殊菩薩をまつる特に有名な3つのお寺のひとつとして、「日本三文殊」と呼ばれており、12年に1度しか見ることができない秘仏があります。

文殊仙寺は険しい岩壁や、ケヤキ・スギなどの巨木が立ち並ぶ自然林に囲まれており、国指定名勝に指定されています。このような場所に寺を開き修行をしていた僧侶の厳しさがしのばれます。

両子寺

両子寺(ふたごじ)は718年、仁聞により開かれたといわれており、「六郷満山」における中心的なお寺として、江戸時代から国東半島のお寺を統括してきました。

広大な境内は「全国森林浴の森百選」にも選ばれるほど豊かな自然に恵まれています。また、渡ると信仰心がわくと言われる「無明橋(むみょうばし)」、干ばつ時も枯れることなく湧き水が足元から出る「走水(はしりみず)観音」など、7つの不思議なスポットがあります。

熊野磨崖仏

国の重要文化財に指定された、日本最大級の磨崖仏です。右側に引き締まった表情の「大日如来」、左手に微笑むような「不動明王」が刻まれてます。鳥居から磨崖仏までは、昔、鬼が一夜で築いたと言われる99段の石段があります。

富貴寺

国東半島屈指の紅葉スポットとして知られる富貴寺(ふきじ)。

阿弥陀如来をまつった富貴寺大堂(ふきじおおどう)は、現存する九州最古の木造建築物で、国宝指定されているほか、京都の宇治平等院鳳凰堂、岩手県の平泉中尊寺金色堂と並ぶ「日本三阿弥陀堂」のひとつにも数えられています。

国東半島のアクセス

東京、大阪、名古屋の近辺から国東半島へ行く場合は、飛行機で大分空港に行くのがオススメです。大分空港は国東市内にあり、空港に降り立てば、もうそこが国東半島です! また、空港周辺には、ホテルやレンタカーショップが複数あります。

九州内から向かうときは、福岡県の北九州市や、大分市などでレンタカーを借りていくとよいでしょう。

国東半島は、電車やバスが通ってないエリアが多いため、半島内を周遊する際はレンタカーがオススメです。

なお、国東半島では、峯入行の巡礼路をベースにロングトレイルが整備されています。こちらは歩いて回ることもできます。ただし、国東半島内には宿泊施設が少ないため、ご注意ください。

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