多発するフロントからの転倒。日本メーカー復活の兆しは/MotoGPの御意見番に聞くアメリカズGP

 4月14~16日、2023年MotoGP第3戦アメリカズGPが行われました。土曜日のスプリントレースではドゥカティのフランセスコ・バニャイアが速さを見せましたが、日曜日はサバイバルレースとなり、ホンダのアレックス・リンスが移籍後3戦目で優勝を成し遂げました。

 そんな2023年のMotoGPについて、70年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム第3回目です。

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今回のレースはどんな印象ですか? 開幕戦と同じで転倒が多くて荒れたレースになりましたよね。

 今回は代理参戦があってフルグリッド22台の出走だったけど、完走はわずか13台だったから、いわゆる「サバイバルレース」って様相だったね。

 実力的に上位を狙えるライダーが次々に脱落するし、スプリントに続いてトップを快走するフランセスコ・バニャイア選手がまたしても呆気なく転倒するしで、いったいどうなってるのか理解に苦しむね。(※バニャイアは2戦続けてスプリント優勝、本戦リタイア)

 レースにアクシデントは付き物で、それがレースの結果を左右する重要なファクターというのは理解するとしても、ライダーとしては納得いかない部分があるんじゃないかな。もちろん、応援しているファンにとっても納得いかないよね。

転倒したジョアン・ミル(レプソル・ホンダ・チーム)/2023MotoGP第3戦アメリカズGP 決勝

ライダーが納得いかないっていうのはどういうことですか?

 スプリントレースでのファビオ・クアルタラロ選手の転倒もそうだったけど、今回のレースでもすべてのマシンがフロントから滑って転倒しているように見える。それもコーナー入り口でそれほどバンク角がついてない状態でグリップを失っているようなので、あのタイミングではライダーは為すすべなしで予兆すら感じていないだろうね。

 古い話で恐縮だけど、テストコースであるベテランのライダーが転倒して大怪我したので、病院に見舞いに行ったときに言われた言葉を思い出したよ。

「マシンに何か問題が無かったか、徹底的に調べてくれ。何か原因らしきものが見つからないと、次からあのコーナーをどうやって走ればいいのか分らんのだよ、俺は何もミスを冒してないからね。それこそフロントフォークのイニシャルが左右で1mm違っていました、でもいいんだよ」って言われて困ったものさ。でも、たしかに納得がいかないと次はどうしたらいいのか途方にくれるよな。バニャイア選手もマシンは絶好調と断言してるしね。

1コーナーが上り坂のサーキット・オブ・ジ・アメリカズ

フロントからの転倒が多発する原因で思い当たることはありますか?

 いくつ考えられるけどひとつ目はサーキット構造上の問題かな。

 とにかく高低差が激しいレイアウトに加えて、路面の凹凸もたびたび問題になっていることからちょっとした事でフロントのグリップを失いやすいのかな。それに予選の時はレコードラインを通るけどレースではそういう訳にはいかないしね。(※レコードラインはセッションが進むにつれてラバーがコーティングされてグリップが高まる傾向がある)

 ふたつ目は繰り返しになるけど、空力の問題も否定できないかな。

 今回のレースでは単独の転倒が多かったから、空力の相互作用みたいなものは関係なさそうだけど、当日は風がかなり強いようだったからその影響はかなりあったのではないかな。空力性能を高めた結果、風の影響を受けやすくなったとしても不思議ではないからね。

 3つめは……これは言ってもいいのかな~(笑)

というとやっぱりタイヤそのものに問題ありとか?

 あ~、言っちゃったね(笑) 確かにこれだけ転倒が多いと、そういう見方も当然出てくるね。

 そもそもレース用のタイヤは手作りに近い工程で作っているはずだから、量産タイヤと違ってどうしても性能にばらつきが出やすいと考える方が自然だね。

 これも古い話になるけれど、SBKの初期のころは、レースは当たりタイヤを引いたライダーの勝ちというのが公然の事実だったしね、本当かどうかは知らんけど(笑)

 少なくとも映像を見る限りでは、バニャイア選手の転倒は彼が何かしらミスをしたようにも見えないし、ピットでモニター見ていたダヴィデ・タルドッツィが膝から崩れ落ちる姿は見ていてつらかったね、元同業者としては。

アレックス・リンス(LCRホンダ・カストロール)

ところでアレックス・リンス選手の優勝は日本メーカー復活の兆しとみてよいのでしょうか?

 そうそう、上位陣の脱落があったとはいえ、クアルタラロ選手も3位に入ったので、日本メーカーのマシンに乗ったライダーがふたりも表彰台に立つのは本当に久しぶりだね。

 この結果から改めて強く思ったのは、バイクレースはオートスポーツというよりヒューマンスポーツだったという事だね。ライダーによるコースの得手・不得手って否定しがたい事実で、時としてそちらの要因の方がマシンの優劣を超越してしまう事があり得るってことが改めて分かったね。だから日本メーカー復活の兆しというのはまだ時期尚早かな。

 でもね、こういう流れはライダーやチームのモチベーションを高めてくれるから、復活のきっかけになってくれるといいね。

最後にレース全体を見て一言あれば

 アクシデントが多かったけれど、幸いにしてシリアスな怪我はなかったようで、それが一番良かった。それに表彰台の顔ぶれが、スペイン・イタリア・フランスとバラエティ豊かでマシンもそれぞれ違うし、そういう意味では、かつてのスペイン選手権みたいだと揶揄される状況からは良くなったのかなと。

 残念なのは、せっかくのアメリカズGPなのにアメリカ人ライダーが一人も居ないってのが、かつての黄金期を知る身としては少し寂しいね。

 まあ、アメリカ国内のレースで十分に良い収入が得られる環境にあるので、わざわざMotoGPで苦労する必要も無いのかもしれないけど。

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