相続することになった”負動産”を手放せる、いよいよ始まる相続土地国庫帰属制度!その利用方法と注意点を解説

相続が発生したとき、相続人が引き継ぐことになる財産には、現金や銀行預金などの資産性の高いものもあれば、借金のほか、処分に困るような遺品など、負債といわれる財産もあります。

その中で、不動産はその資産性の有無が極端に分かれる財産の一つと言われています。都市部の一等地であれば、その資産価値は相当に高いものになる一方、雑草だらけの空き地、崩壊しかけている空き家などは、一般的に負債に近しい資産として、”負動産”とも呼ばれるようになってきました。

そして、この負動産は、新たな引き受け手が見つからない限り、放棄することはできず、一度所有したら最後、自分自身の相続として子供の代へ強制的に引き継ぐまで、一生手放せないものとされてきました。

しかし、いよいよ今年から、「不要な土地を、国が引き取ってくれる制度」が始まります。これが相続土地国庫帰属制度です。

昨年もこの制度に関する記事を公開していますが、制度開始を目前に、詳細がより明らかになってきたため、今回はその利用方法を中心に紹介します。

前回記事:不要な不動産を相続してしまったひとの希望の光…要らない土地を国が引き取る「相続土地国庫帰属制度」の解説と注意点


相続土地国庫帰属制度の手続きは?

この制度の主な流れは、以下のとおりです。

【手続きの流れ】

(1)承認申請

(2)審査

(3)負担金の納付

(4)国庫帰属

一つずつその詳細を見ていきましょう。

(1)承認申請
まずは、相続や遺贈により不動産を取得した所有者から、法務局に対して申請をします。
なお、複数人で所有している場合は、そのうち1人でも相続等により取得していれば、通常の売買で取得した人がいた場合でも申請が可能です(ただし、申請の際は、共有者全員で申請する必要があります)。

このとき、土地1筆あたり14,000円の審査手数料を納付する必要があります。ただし、審査が通らず、「引き取りできない」という回答になった場合でも、審査手数料は返還されませんので注意が必要です。

もし、審査通過の見込みも分からないまま、いきなり申請するのは不安という方は、法務局にて無料で相談することができます(1回30分/予約制)。相談は、所有者だけでなく、所有者の家族や親族にあたる人でも可能です。


参考情報(1):申請時の資料
申請書(単独申請の場合)
・申請時の必要書類例
・ 登記事項証明書又は登記簿謄本
・ 法務局で取得した地図又は公図
・ 法務局で取得した地積測量図
・ その他土地の測量図面
・ 土地の現況・全体が分かる画像又は写真

参考情報(2):相談時の資料
チェックシート
相談票


(2)審査
この制度では、どんな不動産でも引き取ってもらえるわけではなく、建物がある場合、境界がある場合は引き取れないといった”NG物件“があります。そのため、法務局では、申請のあった不動産について、引取ができるか審査をして引取可否を判断します。
この段階では、良い結果報告があることをひたすら待つのみとなります。

(3)負担金の納付
無事に審査を通過すると、国に引き取ってもらう為の負担金を納める必要があります。負担金の金額は20万円~とされていますが、不動産の種類によって、これよりも大幅に高額になるケースもありますので、あらかじめ法務省の相続土地国庫帰属制度のページを確認しておきましょう。

(4)国庫帰属
負担金を納付すれば、不動産が無事に国所有の土地となり、処分完了となります。

相続土地国庫帰属制度を利用する際に気をつけるべきポイント

この申請にあたっては、考えておくべきポイントが幾つかあります。

【申請時のポイント】

(1)引取NGの条件をよく調べておく

(2)現地写真を添付する必要がある

(3)コストを意識するか、手間を意識するか

ひとつずつ細かく見ていきましょう。

(1)引取NGの条件をよく調べておく
前述のとおり、この制度はあらゆる不動産を引き取る制度ではありません。例えば、建物はNG対象となるため、空き家の実家を申請するような場合は、予め自費で解体をしておく必要があり、その分だけ費用が膨らみます。

また、境界が無い場合にもNGとされる場合があるため、その土地によっては、測量や隣地との境界確定が必要になる場合もあります。「審査手数料と負担金の納付だけで済むと思っていたら、結果的にとんでもない支出になってしまった」という可能性もあり得ますので、念入りに引取条件や費用等を見積もっておくようにしましょう。

(2)現地写真を添付する必要がある
申請時には、現地写真を添付する必要があります。対象不動産が近所であればいいですが、もしも遠方の場合、撮影のために、わざわざ足を運ぶ必要が出てきます。

申請前に、一度は足を運ぶ計画を練るか、これが難しければ、申請手続きを含め、地元の司法書士や行政書士など、専門家に依頼することも念頭に検討しましょう。

(3)コストを意識するか、手間を意識するか
この制度の申請には、作成書類や取得書類がそれなりに多く、現地写真を添付する必要があるなど、結構な重労働になります。

もちろん、自力でそれらを済ませれば、審査手数料や負担金の実費など、最も安く抑えられます。しかし、書類の不備で出し直しが生じたり、仕事の休みをやりくりしながら、書類を集めたり申請をしたりといった負担を考えると、専門家に依頼することも有効でしょう。

引取業者に依頼するのも一案

最近は、この制度と同様のサービス形態をとる、引取業者と呼ばれる会社も増えてきています。負担金を支払うことで、その会社が引き取ってくれるのです。なかには、国に引き取ってもらう場合の負担金よりも少ない支出で引き取って貰えるケースもあるようですので、一度検討してみる価値はあるでしょう。

ただし、業界として認知度がまだ低いこともあり、なかには詐欺まがいの会社が紛れているとして、消費者庁から注意喚起も出されています。負担金額もさることながら、契約内容にリスクがないか、慎重に確認しながら検討しましょう。

© 株式会社マネーフォワード