舘ひろし × 柴田恭兵の名作「あぶない刑事」が起こしたテレビドラマの音楽革命!  聴けば思い浮かぶ!? タカとユージが繰り広げた “新しい刑事ドラマ”

30年以上も断続的に続くスーパーヒット作「あぶない刑事」

『あぶない刑事』シリーズは、『あぶない刑事』(日本テレビ系:1986年10月~1987年9月)、『もっとあぶない刑事』(日本テレビ系:1988年10月~1989年3月)という2つのテレビドラマから、映画にフィールドを移して30年以上も断続的に続くスーパーヒット作である。どうやら2023年には新作公開の予定もあるようだ。

このシリーズの根強い人気は、コンセプトワークを徹底した作品としての完成度の高さによるところが大きいだろう。ひたすらスタイリッシュながら、どこかコミカルでもある。軽妙でありつつハードボイルドな要素も強い。このような作品のコンセプトと、キャスティング、脚本、演出、アクション、ファッション、そして音楽などあらゆるパーツが完璧にハマり、絶大なる相乗効果を生んだのである。

本来、メインキャラクターのはずの松村課長(木の実ナナ)がテレビシリーズにあまり出演しないことを除けば、これほどツッコミどころのない作品も珍しい。

舘ひろし&柴田恭兵の曲もいいが、実は挿入歌が凄いサウンドトラック

そんな稀有な刑事ドラマに関連した2枚組CD『あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック スペシャル・エディション』が2023年4月19日にリリースされる。Disc1は第一作『あぶない刑事』の放送当時のサントラ盤「あぶない刑事オリジナル・サウンドトラック」&「あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック総集編」を新編集&全曲収録したもので、Disc2には関連音源とTV用BGMがセレクト収録されている。

ここでは、同CDの発売にちなみ、刑事ドラマとして―― いや、日本のテレビドラマとして極めて画期的だった『あぶない刑事』の音楽についてクローズアップしてみたい。

テレビドラマ『あぶない刑事』、『もっとあぶない刑事』は、舘ひろし作曲によるオープニングテーマで始まる。そして、見せ場であるアクションシーンを柴田恭兵が歌う「RUNNING SHOT」、「WAR」、「TRASH」などアップテンポな曲が盛り上げる。

さらにエンディングに舘ひろしが歌うマイナーコードの「冷たい太陽」、「翼を拡げて~open your heart〜」が流れるのがルーティンだ。ただし、『あぶない刑事』の音楽はそれだけに留まらない。主演2人の楽曲やインストゥルメンタルのBGMとともに欠かすことができないのが、作品コンセプトに沿って作られたオリジナル挿入歌の数々である。

たとえば、『Gメン'75』(TBS系)にしても、『特捜最前線』(テレビ朝日系)にしても、それまでの刑事ドラマの劇中で流れるのは、オープニング曲もしくはエンディング曲をアレンジしたBGM、いわゆる “劇伴” がほとんどだった。劇中のテレビやラジオからヒット曲が流れるようなことはあるが、決まった挿入歌が設定される例はあまりなかった。

『西部警察』シリーズ(テレビ朝日系)には挿入歌があったが、それは刑事たちが集うスナックで女性歌手がギターを爪弾きながら歌う演歌調、歌謡曲調の曲だ。『西部警察』のカーアクション、ガンアクションに憧れる若年層の指向性とは必ずしも一致していなかった。

『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)では、若手刑事役の俳優がリリースしたシングル曲が挿入歌として流れることが稀にあったが、演出上の必然性は希薄だった。『あぶない刑事』の挿入歌はそれらとはまったく違っている。

80年代、ハリウッドでは『フラッシュダンス』(1983年)、『フットルース』(1984年)、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)、『トップガン』(1986年)など、様々なミュージシャンがサントラに参加するMTV感覚の映画がひとつのトレンドになっていた。また、テレビの世界では、ポリスアクションドラマ『マイアミ・バイス』も同様のスタイルを踏襲し全米で大ヒットを記録していた。何を隠そう『あぶない刑事』もそれに近いことをやっていたのだ。

小比類巻かほる、鈴木聖美、鈴木雅之らが歌うオリジナル挿入歌

『あぶない刑事』の音楽スタッフは、番組がヒットするか否かが分からない放送スタートの時点で、作品のコンセプトに沿ったスタイリッシュなオリジナル挿入歌を多数制作している。

それをソニー系のレーベルに属していた平塚文子、松木美和子、大滝裕子(AMAZONS)、小比類巻かほる、鈴木聖美、MAYUMI(麗美の姉)、鈴木雅之、トミー・スナイダー(ゴダイゴ)といったヴォーカリストたちが歌っているのである。当時、日本のテレビドラマで、音楽に関してそんなに手間のかかる作業をやっていたのは『あぶない刑事』だけだろう。

高速道路をドライブしながら聴きたいハイスピードな曲から、横浜の夜景が似合いそうなムーディなバラードまで、今回のアルバムに収録されているオリジナル挿入歌たちは、『あぶない刑事』の世界を形成する名脇役だ。

たとえば、「Hold On Me」を大ヒットさせる直前の小比類巻かほるが歌う「長く熱い夜」、「Cops And Robbers」は、タイトルにピンと来なくても、テレビシリーズを観ていた人が聴けば「あ、この曲か」と思えるだろう。鈴木聖美の「Wait And See(ラブ・ソング)」を耳にすればドラマの1シーンがぼんやりと頭に浮かぶに違いない。

『あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック スペシャル・エディション』はこうしたオリジナル挿入歌の存在により、単に人気刑事ドラマのサントラという位置づけだけではなく、80年代後期の風を感じられるコンピレーションアルバムのような捉え方もできる。

80年代のポピュラー音楽の発掘作業をしている若い世代には、“お宝発見” の感覚が味わえるオススメ作である。

カタリベ: ミゾロギ・ダイスケ

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