使った製品が同じものに生まれ変わる、「水平リサイクル」に熱視線 花王やライオン、ライバル企業が手を携え…着実に技術向上

生活協同組合コープこうべ「コープ六甲」の売り場。住居用洗剤コーナーには本体ボトルより詰め替えパック製品が多く並んでいた=2月、神戸市灘区

 使用済みの製品を同じ製品に再生する「水平リサイクル」が注目されている。例えばペットボトルは回収後、工場で繊維や食品トレーなどに再生されることが多かったが、多くの飲料メーカーが再びペットボトルに作り替える取り組みに力を入れる。水平リサイクルを目指す動きは、日用品の詰め替えパックや食品トレー、プラスチックキャップのほか、紙おむつやタイヤまで多くの分野に広がっている。製品が資源として回り続け、持続可能な循環型社会の実現につながるためだ。企業や行政が資源の再活用に工夫をこらす現場を訪ねた。(共同通信=板井和也)
 ▽ライバル企業が「協業」
 神戸市は2021年10月から日用品メーカー、小売業者、再資源化事業者の計16社(現在は18社)とともに、市内75カ所(同78カ所)の小売店舗などで洗剤やシャンプーなど日用品の詰め替えパックを回収し、新たなパックに再生することを目指すプロジェクト「神戸プラスチックネクスト」を始めた。参加メーカーには花王やライオンなどが名を連ねる。ライバル企業が手を携え、業種の垣根も越えた「協働」の枠組みだ。
 詰め替えパックのフィルム容器は、本体ボトルに比べプラスチック使用量が70~80%削減されている。日本は世界に例がないほど詰め替えパックが浸透しており、プラスチックごみの発生を抑えてきた。
 日本石鹸洗剤工業会によると、詰め替えパックは今や日用品出荷量全体の約8割を占める。しかしパックに使われているフィルムは複合素材による多層構造でリサイクルが難しく、燃えるごみとして処分されるケースが多い。

 ▽「パックは悪」に危機感
 こうした中、神戸市は、地球環境の新たな課題である海洋プラスチックごみの問題解決に向けて設立された団体「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)」にオブザーバー参加したことをきっかけに、詰め替えパックを何とかリサイクルできないかと考えた。
 CLOMAの会員でもある花王と協議をする中で「同じ物に返る、レベルの高い水平リサイクルを目指すことにした」(神戸市環境局業務課の清水充則担当係長)という。
 詰め替えパック製品を多く販売する花王も「せっかくプラスチック削減に貢献してきたパックが循環に向かないとなると規制がかかったり、『パックは悪』ということになったりしかねない」(研究開発部門の瀬戸啓二プロジェクトリーダー)との危機感からプロジェクトに参加。瀬戸氏は「使い終わって集めたものが元に戻るという分かりやすさも大きい」と水平リサイクルの意義を強調する。

詰め替えパックをリサイクルした試作品(左奥)などを前に、取材に応じる花王研究開発部門の瀬戸啓二プロジェクトリーダー=2月、東京都墨田区

 プロジェクトには同業他社も多く参加するが、瀬戸氏は「リサイクルを推進しようという気持ちは一緒。そこでは競うことはない。一緒にやるのが自然」と話し、抵抗はないという。
 花王は、和歌山市にある研究所で、回収したパックを粉砕してペレットにした後にフィルム化し、パックに作り替える技術の研究開発を進めている。瀬戸氏によると「全参加社の製品で再生パックに使うフィルムを作れることが分かった」といい、花王は2025年までの再生パック実用化を目指す。

花王が詰め替えパックをリサイクルした試作品(左上)やごみ袋など=2月、東京都墨田区

 ▽回収量は「予想以上」
 神戸市では1年間で1・13トンの詰め替えパックを回収。店頭に回収ボックスを設置する生活協同組合コープこうべSDGs推進部の松井清武氏は「店舗によっては予想以上の回収量があり、ニーズがある。きちんと中を洗った上で出してくれるケースが多い」と話し、手応えを感じているという。
 神戸市環境局の清水担当係長も「神戸では海岸清掃に参加する市民も多く、海洋プラスチック問題への関心やリサイクル意識が強いのかもしれない」と推測する。
 プロジェクトは早期の水平リサイクル実現に向け、今後年間5トンの回収を目指す。開発コストを下げるにはより多くの使用済みパックを効率的に集めることが欠かせない。神戸市や花王には各自治体などからの問い合わせも相次ぎ、全国的に活動が広がることを期待しているという。

生活協同組合コープこうべ「コープ六甲」店頭に設置された詰め替えパックの回収ボックス=2月、神戸市灘区

 ▽難しかった紙おむつも
 水平リサイクルは、これまで難しいとされ進んでこなかった製品分野にも着実に広がりを見せている。ユニ・チャームは2016年から鹿児島県志布志市で使用済み紙おむつを回収し、パルプ部分を滅菌処理して再利用する実証実験を進めている。
 少子高齢化により、国内の紙おむつ市場は子供用が縮小する一方、大人用の国内生産枚数はほぼ毎年増加。日本衛生材料工業連合会によると、2021年は約89億枚に達した。大半が焼却処分され、環境省の推計によると、2030年度に紙おむつ全体の処理量は245万~261万トンとなり、一般廃棄物の排出量に占める割合は2015年の4・3~4・8%から6・6~7・1%に増加する見通し。
 紙おむつも詰め替えパックと同様、複数の素材で構成されている上、使用済み製品から排せつ物を完全に取り除くことが難しく、リサイクルは進んで来なかったが、ユニ・チャームは使用済み製品を破砕した後、取り出したパルプをオゾンで滅菌し、新品のパルプと同等の品質に戻す技術を開発した。リサイクルされたパルプから細菌類は「検出限界以下」で衛生面をクリア。既に再生製品が鹿児島県内の介護施設などで使われている。

ユニ・チャームの施設でオゾンにより滅菌処理される紙おむつのパルプ=2019年7月、鹿児島県志布志市(同社提供)

 ▽水平リサイクルで技術革新を
 ブリヂストンは、使用済みタイヤの水平リサイクルを目指すプロジェクトを立ち上げた。同社によると、日本での使用済みタイヤの回収率は約94%でリサイクル率も高いながら、多くは廃棄物を焼却する際に発生する熱エネルギーを回収する「サーマルリカバリー(熱回収)」として利用されている。
 回収された熱エネルギーを温水プールや発電などに活用するサーマルリカバリーは日本ではリサイクルの主流だが、廃棄物を再利用する方法でないため海外ではリサイクルとみなさないことが多く、焼却の際に二酸化炭素(CO2)を排出するのが難点。ブリヂストンは「(使用済みタイヤという)価値の高い資源を価値の高い状態で活用したい」と、水平リサイクル技術の開発に乗り出した。
 タイヤはゴムや鋼材、補強繊維などから成り、それぞれの原材料に分離し再利用することが難しいが、ブリヂストンはタイヤの熱分解技術の確立に向け、実証プラントを建設するなど、資源循環システムの早期構築を目指す。
 リサイクル問題に詳しい叡啓大(広島市)の石川雅紀特任教授は「水平リサイクルは法律で義務付けられているものではないが、(温室効果ガス排出量を実質的にゼロにする)2050年のネットゼロ社会では現行のリサイクル技術は通用しない。リサイクルシステムにイノベーション(技術革新)を起こすためには水平リサイクルの推進が有効だ」と話している。

ユニ・チャームの施設で再生された紙おむつのパルプ=2019年7月、鹿児島県志布志市(同社提供)

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