「いまだに自分の感情が説明できない」横浜流星と黒木華が明かす『ヴィレッジ』に反映された迷いと恐れ、そして共感

横浜流星 黒木華

映画『青の帰り道』『DIVOC-12/名もなき一篇・アンナ』や、Netflixシリーズ『新聞記者』にテレビドラマ『インフォーマ』――多くの作品を共に創り上げてきた盟友・藤井道人監督と横浜流星。両者の最新タッグ作『ヴィレッジ』が、2023年4月21日(金)に劇場公開を迎える。

『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』等で知られる映画製作・配給会社スターサンズにより制作された本作は、辺境の村が舞台。能が盛んなその村は、ゴミ処理施設が建設されたことで住民同士のいざこざが発生。その結果、父親が犯罪者になってしまった優(横浜流星)は村中から虐げられ、さらに母親の借金を返済しなければならず村から出られずにいた。そんな折、東京で働いていた美咲(黒木華)が帰郷し、優の運命は大きく動き始める……。

骨太な世界観とストーリー、横浜をはじめとする力演が評判を呼んでいる本作。横浜と黒木に、作品の舞台裏を教えていただいた。

「言語化できない感情」を引き出された

―横浜さんは初号試写(完成した本編を初めて観る機会)の際に「くらってしまった」とおっしゃっていましたが、いま現在はいかがですか?

横浜:初号の後のインタビューは、なかなか言葉が出てこなくて大変でした(笑)。ようやく、少しずつ気持ちが整理できてきました。

―藤井監督の「能面のように、泣いているようにも笑っているようにも見せたい」という演出にもつながるかと思いますが、横浜さんご自身も言語化できない感情を表出されたと思います。その結果「くらってしまった」という感想が出たんじゃないかなと。

横浜:本当にそう思います。「能面のように」という演出の部分も、いまだにあの時どういう感情だったのかうまく説明できないんですよね。色々なパターンを撮りましたし、自分でもいまだにわからないという、これまでにない経験でした。『ヴィレッジ』でしか味わえなかった経験だからこそ大事にしたいのですが、じゃああれをまた別の作品で出せるのか? というのは現時点ではなんともいえなくて、難しいです。

―今回だと、藤井監督から「現場でコミュニケーションが取れなくなるから、入り込みすぎないように」というリクエストもありましたもんね。黒木さんには、事前に藤井監督から何かしらリクエストはあったのでしょうか。

黒木:いえ、私のほうには特別「こうしてほしい」というのはなかったかなと思います。ただ、美咲を演じるうえで、優を受け入れる・包み込むようにいられたら、とは考えていました。

「横浜さんの“作り物じゃない”お芝居に本気で心配になってしまった」

―藤井組はキャラクターシート(キャラクターの設定が細かく書かれた資料)が配られるかと思います。美咲については、どのような記載がありましたか?

黒木:こういう職業に就いていて、でも会社の中でうまくいかなくて故郷に戻ってきて……といったような美咲の歩みが詳細に書かれていました。ただ、藤井監督からは「それを前面に押し出すことはしない」と伺っていました。ですので「そういうことがあった」と自分の中にとどめて演じていました。

―黒木さんは今回、いわゆる“受け”の芝居を求められる瞬間も多かったかなと思います。

黒木:受けの芝居は相手が出してくれないと成立しないものですが、美咲の前で優が嗚咽するシーンなど、横浜さんが作り物じゃないお芝居をされていたから、本気で心配になってしまって。そういった意味では、すごくお芝居がやりやすかったです。

先ほどの「くらってしまった」というお話ではないですが、完成した作品を観たときに、優が布団の中で絶叫するシーンが突き刺さりました。撮影中は、優のそうした部分を解放できる存在でありたいと思って演じていました。

朝5時まで撮影した渾身のアクションシーン

―おふたりの共演シーンですと、一ノ瀬ワタルさん演じる透との格闘シーンも凄まじい迫力でした。

黒木:あのシーンは凄かったですよね。

―横浜さんと一ノ瀬さんが戦う後ろで、黒木さんが相当長い時間泣き続けていたのも圧倒されました。

横浜:本当に。あのシーンの撮影は朝5時くらいまでかかりました。

黒木:陽が出るからもう撮れないというギリギリまでやりました。あのシーンは本当に怖かったです。おふたりともアクションが得意だし私もそのことはわかっているのですが、吹っ飛ばされた優を見ていると「やめて、怪我しないで」という気持ちになって涙が止まらなかったです。暴力というものが怖くて、早く止めてほしくて、優も透もどっちも哀しくて……。でも男性って、本気でやるのが好きじゃないですか(笑)。

横浜:そうですね(笑)。

黒木:だからこそいいシーンになりましたよね。

―こちらのシーンもそうですが、『ヴィレッジ』のキーワードの一つに、実は“におい”があるんじゃないかと思いました。ゴミ、風、火、雨など観ている僕たちには直接的にはにおわないけど、演技に作用した部分は大きかったのではないでしょうか。

横浜:すごく味方になってくれました。もともと雨の予定じゃなかったけど、雨が降っちゃったシーンもありましたが、それでより良くなりましたし。台本で予想していたものより、もっと深いところまで行けた感覚があります。

―茅葺(かやぶき)の部屋のにおい等、空間から吸い上げるものもあったでしょうね。

黒木:夏のにおいがしました。それってきっと、そこに住んでいる人が日々感じているものだと思うんです。私は関西出身なので、地元に帰ると地元のにおいを感じますし、そういったものが演技に無意識的に作用した部分はあったと思っていて。撮影監督の川上智之さんが「ゴミ処理場のにおいが取れなくて困った」とおっしゃっていましたが、「そういった環境で生活している人々」という説得力は画面に映り込んでいると思います。

先ほどおっしゃっていたように直接的にはにおわないけれど、『ヴィレッジ』はそれでも想像して感じ取ることができる、すごく素敵な映画です。

俳優としての“転落する恐怖”が注入された脚本

―今回の特徴でいうと、横浜さんがロケハンに同行されたり脚本がブラッシュアップされていく工程を見てきた、ということもあるかと思います。

横浜:ゴミ処理場が爆発したり、優が原始人というバージョンもありました(笑)。

―「ゴミ処理場の爆発」は、故・河村光庸プロデューサーの当初のアイデアでしたね。優のキャラクターも変遷していったかと思いますが、美咲も同様だったのでしょうか。

横浜:そうですね。美咲が村への復讐心に燃えて爆発を仕掛けていたバージョンもありました(笑)。

黒木:そうだったんだ!(笑)

横浜:あとは、完成した本編にも少しその要素はありますが、すべてが優の夢だった、というパターンもありました。本当に色々なパターンを藤井さんが悩んで悩んで作っていきました。

黒木:私は「重い話だな」と思って読んでいました(笑)。でも、人生の中で生きづらい瞬間や同調しなければならないときってなにかしらあるものですし、そこに光を当てた作品は興味深いですよね。「能」が組み込まれた物語も新鮮でしたし、藤井監督が映像化したときにどんな作品になるんだろう? と感じました。

―優には「邯鄲(かんたん)」、美咲には「羽衣(はごろも)」という能の演目が呼応するものとしてあてがわれていますが、さらに優には横浜さんの“分身”的な要素も盛り込まれていると伺いました。

横浜:脚本執筆前に、藤井さんと本作について話す機会がありましたが、そのときに役者をやっていくうえでの迷いや怖れを伝えました。完成した台本には、それが反映されています。優は村中から蔑まれて、感情を捨ててゾンビのように過ごしてきて美咲と出会い、一度は村のみんなにもてはやされて祭り上げられるものの、ある事件によって運命の波にのまれていきます。

僕たち俳優も何か一つ失敗すれば転落していきますし、実際にそういう事例も見てきました。失敗が許されない立場ゆえの恐怖を常に感じていて、もてはやし祭り上げる人間も怖い。これは芸能界に限定した話ではなく、組織に属している人たちはみな共感できるものかと思います。

黒木:私も学校や組織に馴染めないタイプの人間だったので、生きづらさに共感しました。美咲でいうと、都会で頑張っていたんだけど頑張り切れず地元に戻ってきて、でも村にも落ち着ける場所がない。きっと美咲も優も、同じく欠けているものがあったから惹かれあったのだと思います。

取材・文:SYO

撮影:落合由佳

『ヴィレッジ』は2023年4月21日(金)より全国公開

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