<社説>軍港移設計画合意 基地負担軽減に逆行する

 美しい海を埋め立てて軍港を造る必要があるのか。移設条件を満たさなければ在沖米軍基地の返還は実現しないのか。これからも厳しく問い続けなければならない。 米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市移設に向け、日米合同委員会は軍港代替施設の形状や施設配置に関する計画について合意した。今後、環境影響評価など移設に向けた作業が動き出す。

 日米両政府が1974年、那覇軍港の返還に合意して約50年が経過した。埋め立て工事を含め、軍港返還が実現するのは早くても2030年代末になるとの見立てを県は示している。

 あまりにも時間がかかりすぎる。県内移設という条件が基地返還の障壁となっているのだ。辺野古新基地建設問題に象徴されるように、移設条件は政治的混乱を引き起こし、県民分断を招いた。県内移設条件を見直さない限り、沖縄の抜本的な基地負担軽減は前進しない。

 そもそも那覇軍港の代替施設が必要なのか検証するべきである。艦船の寄港は減少傾向にある。02年の寄港数は35回である。96回の寄港数があった87年の約3分の1程度まで減っている。03年以降は寄港回数は公表されなくなったが、軍港の遊休化が指摘されている。軍港移設は基地負担軽減に逆行する。両政府は計画の合理性を精査すべきだ。

 懸念されるのは基地機能強化の問題だ。今回の合意では移設後の施設は「現有機能を維持する」としている。しかし、現在の那覇軍港の機能が不明確なままでは「機能維持」の説明は意味をなさない。

 米軍基地の使用条件などを定めた「5.15メモ」は那覇軍港の使用主目的を「港湾施設と貯油所」と記している。しかし、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの発着に見られるように使用目的と異なる事態が頻発している。米軍機発着について県は「軍港機能に含まれない」との立場にあるのに対し、政府は「軍港機能に含む」という姿勢だ。

 那覇軍港の機能に関する県と政府の認識が食い違っている。このまま浦添移設に突き進むのは危険だ。日米両政府が推し進める軍備増強の延長で、基地機能強化を押し付けてくる可能性がある。

 稲嶺恵一知事以降の歴代県政は軍港浦添移設を容認してきた。玉城デニー知事も今回の日米合同委員会で合意した施設の位置や形状について了承している。しかし、今後の移設作業を追認し、機能強化を許してしまえば沖縄の将来に禍根を残す。玉城知事はそのことを認識してほしい。

 浦添市西海岸の美しい海を守ろうという声が広がりをみせている。県民有志が呼び掛けている西海岸埋め立てに反対するインターネット署名は3万人を超えた。この海を失うことは県益にそぐわない。自然保護の観点からも那覇軍港を浦添移設の条件を付けずに返還すべきだ。

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