パーパスは企業、社員、ステークホルダーにどんな変化をもたらすのか

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SB国際会議2023東京・丸の内 Day2 ブレイクアウト

近年、自社の存在意義や目的を明示した「パーパス」を策定する企業が増えている。では実際に策定することで、企業や社員、またステークホルダーとの関係にどのような変化が生まれるのか。策定までのプロセスも含め、グローバルに事業を展開する企業の代表3氏が率直に語り合った。(眞崎裕史)

ファシリテーター
足立直樹・SB国際会議サステナビリティ・プロデューサー
パネリスト
岩渕公祐・YKK AP 取締役副社長
里見陵・UCCホールディングス 執行役員 サステナビリティ担当
平野友輔・SOMPOホールディングス サステナブル経営推進部 部長

セッションはまず、パネリストの3氏が、各社のパーパスの内容やそれが策定された背景などをプレゼンテーションした。

建材事業を手掛けるYKK APは2021年にパーパスを策定し、『Architectural Productsで社会を幸せにする会社。』と掲げた。背景には、海外事業の拡大を図るに際し、企業メッセージをグローバルに浸透させる必要があったという。売上全体の35%を海外が占めるUCCも、2021年10月にパーパスとバリュー(価値観)を合わせて公表した。コロナ禍によるビジネス環境の変化などがきっかけとなり、約10カ月間、グループ経営陣で議論して完成した。29カ国の国と地域に展開するSOMPOも2021年にパーパスを策定。社員一人一人が策定する「MYパーパス」を起点とした、独自のパーパス経営を実践している。

3社とも同じ時期にパーパスを策定したわけだが、策定過程やその後にはそれぞれ苦労があったという。

SB国際会議2023東京・丸の内

YKK APはパーパスを英訳する際、日本語の「幸せ」をどう表現するか「非常に揉めた」という。

「なるべくシンプルで分かりやすいメッセージ」を目指し、米国の現地スタッフも交えて議論を重ね、最終的には『build a better society』に。「そうやって会話しないと海外の人(の腹)に落ちない」と振り返った岩渕公祐氏は、対話を通じて社内でパーパスの理解が進み、国内と海外社員のコミュニーケーションも良くなってきたと紹介した。

里見氏

UCCのパーパスは、里見陵氏によると、日本側が作成したパーパス案に対し、欧州のメンバーから「もっと未来的な意思を込めないとステークホルダーから共感されない」といった指摘がなされ、最終的に欧州案で決定したという。

英語から邦訳したパーパスは『より良い世界のために、コーヒーの力を解き放つ。(Unlocking the power of coffee for a better world.)』に。里見氏は「抽象度が高かったり、力強さが弱かったり、日本側はただ美しいものを作ろうとし過ぎた面があったかもしれない」と述べ、フラットな議論など、策定までのプロセスの重要性を強調した。

平野氏

SOMPOはパーパス策定に当たり、「会社を利用して自分のパーパスを達成することが本質だ」との「パラダイムシフト」をCEO自らが発信した。

社員の間には「なんでMYパーパスなんて作るの?」といった声もある一方、平野友輔氏は「これほど共感を得て、みんなが『いいね』と言っている施策は、自分としてはないぐらい」と手応えを語った。

試行錯誤して策定したパーパス。ではその“効果”はどうか。セッションの後半は、3氏がそれぞれの実感を述べた。

岩渕氏は「役員と社員が共通言語で話し合える」ようになったメリットのほか、取引先からも共感や好反応が得られていると紹介。その上で「新しい分野の人たちには、もっとパーパスで浸透していきたい」と意気込んだ。

UCCではパーパスをきっかけに協働や共創活動が生まれ、社員の誇りと自信にもつながっているという。また、取引先からは新しいコーヒーの飲み方など、パーパスと関連付けた提案を受けることが多くなった。里見氏は「(パーパスの)言葉が生きている感じがする」と笑顔を見せた。

社員のエンゲージメントの向上などを紹介した平野氏は、投資家の反応として「ナイスチャレンジ」との声の一方、「エンゲージが上がればいくら儲かるのか」といった指摘もあると説明。「進捗状況をトラッキングしていかないと、内外ともに支援してもらえない」として、“効果”を数字として定量化する努力を続ける考えを示した。

会場からは、「パーパスにアゲインストの人たちの巻き込み方」やイノベーションを起こす空気の作り方など、企業担当者や大学院生から質問が上がった。最後はファシリテーターの足立氏が「会社の意志が感じられるパーパスを作り、経営が一致していく。これがパーパスを生んでいくための鍵なのだろう」と感想を述べ、セッションを締め括った。

参加者の半数ほどは、自社でパーパス未策定とのことだった。パネリスト3氏の実感が込もった議論には、多くのヒントが詰まっていたに違いない。

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