本当に「AIが仕事を奪う」のか(下)ポスト・コロナの「働き方」について その4

林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録

【まとめ】

・超高齢化社会とハイテク普及により働き方も変化せざるを得ない。

・警備員やドライバーは「誰でもできる仕事」と見なされているが異なる。

・技術の進化は労働環境を改善する福音である。

前回の冒頭、日本国内の601職種のうち49%が、将来的にAIやロボットで代替可能になる、との研究結果が発表されたと述べた。

単純計算で300にも及ぶ職種が「AIに仕事を奪われる危機」に直面しているわけで、一般事務職から建設労働者に至るまで、分野も幅広い。

念のため述べておかなければならないが、この研究報告において、多くの仕事を「AIやロボットに置き換えて行くべきだ」との主張はなされていない。ただ、日本人なら誰もが知る通り、今後10~20年間に起きるのは、超高齢化社会の到来とAIに代表されるハイテクの普及が同時進行するということであり、その中で日本人の働き方も大きく変化せざるを得ない、という話なのである。

一方で、ある種の偏見と言うべきか、警備員やドライバーなどは「誰でも出来る仕事」と見なされ、一番先にロボットに置き換えられそうなイメージで捉えられている。

しかし、本当にそうだろうか。

まず警備員から見ると、実は単一の職種ではなく1号(施設警備)、2号(雑踏警備)、3号(輸送警備)、4号(身辺警備)に分類されており、それぞれ異なる研修カリキュラムや資格が存在する。

ざっくり説明すると、1号は読んで字のごとく会社や銀行、博物館などにいる、もっとも一般的にイメージされる警備員で、2号は工事現場や駐車場の交通整理、3号は代表的なものが現金輸送車で、4号は俗に言うボディガードだ。

ベテランになると複数の業務をこなせる人も多いのだが、1号なら1号に限っても、人の出入りのチェックから巡回、クレーム対応まで、仕事内容は結構幅広い。

受付くらいならば、ロボットで代替することも不可能でないと思うが、もっとも重要な、緊急事態への対応はどうするのか。

SFアニメの世界では、しばしば警備ロボットが登場するが、現実的に考えるとコストの問題があるので、そこまで高度なロボットを多数揃えるよりは、相応の時給を払っても人を雇った方が安い、ということになりそうだ。

多数と述べたのも実は結構重要な点で、警備員は全国で60万人近くいるとされており、警察官(30万人弱)の2倍近い。にもかかわらず人手不足は深刻で、いつでもどこでも募集している観がある。

このことを踏まえ、大手警備会社のセコムなどは、多数の監視カメラや防犯センサーを集中管理し、常時警備員を配置していなくとも非常事態には対応できる、という態勢を売り物にしている。

警察との連携については、都道府県ごとの警察によって異なるようで、機器の誤作動や操作ミスでないことを確認した上で通報して欲しい、というケースが多いようだが、神奈川県警などは、発報した場合にはすぐに通報するよう要請していると聞く。

今後10~20年というスパンで見るのであれば、緊急時の避難誘導から自衛消防までこなせるロボットを、比較的安価に導入できるようになる、という可能性も否定できないので、早計には言われないことだが、たとえ現在の機械警備からさらに進んだ「AI警備」が現実になったとしても、それは警備員が不要になったのではなく、人手不足の解決策が見つかったのだと、前向きに捉えた方がよいのではないだろうか。

ドライバーの場合は、より迅速な対応が求められる。なんと言っても2024年問題があるからだ。

すでに残り1年を切ったということになるが、来年4月1日より、いわゆる「働き方改革関連法案」に基づき、主として時間外労働に上限規制が設けられる。

まず現状を見ると、物流を支えるトラック・ドライバーの所定内勤務時間は、大型・中小型ともに176時間を超え、全産業平均の165時間よりだいぶ多い。

時間外労働を見たならば、大型の場合平均35時間、中小型で31時間となっており、全産業平均が10時間だから、実に3倍以上である(いずれも厚生労働省調べ)。

このように長時間労働が常態化している仕事だけに、求人をかけても人が集まりにくい。業界団体などによれば、全事業者の7割がドライバー不足に悩まされているという。

しかしその一方では、残業(=時間外労働)が多いことから、「体はきついけど稼ぎは悪くない」と考える人も多かった。昨今では、若い女性も増えており「トラガール」などと呼ばれていると聞く。阪神タイガースを応援する女性ではなく「トラック野郎」の女性版らしい。

ここで問題になるのは、読者ご賢察の通り、時間外労働が規制の対象となるということは、まず間違いなくドライバーの収入減に直結し、人手不足に拍車がかかると見られることだ。

実際問題として、業界団体などの試算によれば、有効な解決手段が講じられない場合は、「最悪、宅配便の36%について、指定時間の配達ができなくなる」可能性さえあるという。

業界の側でも、もちろん手をこまねいているわけではなく、ヤマト運輸などは「翌日14時までの配達」を「翌々日午前中以降」にするなどの対策を公表している。不在などで「再配達」となることが、ドライバーにとって最大の負担なので、それを軽減する目的だとのことだ。日本TVなどが報じた。

料金についても、今後見直しが進むとされている。言い方は悪いが、語るに落ちたとはこのことで、これまでドライバーが過酷な労働環境に甘んじていたから、世界一とまで言われる宅配システムが機能していたのだと、認めたようなものではないか。

さらに言うなら、業者の社員ではないドライバーの処遇はどうなるのだろうか。彼らは「個人事業主」で、労働時間についての労使協定などない環境(世に言うゼロ時間契約)で輸送や配達を引き受けている。彼らの収入減は労働時間単位ではなく、運んだ荷物の数量でもって決まる。

個人的な感想ながら、私などには身につまされる話で、何時から何時まで働く、というノルマも課せられないが、その代わり、たとえ徹夜してでも締め切りまでに所定の字数を書き上げなければならない。

前回、英国ではトラック運転手の多くが移民労働者である、と述べたのも、この話題と無関係ではない。

すでに前述の「トラガール」について、物流業界の人手不足解消に一役買ってくれるのでは、などという声が聞かれる。

女性ドライバーが増えるのは、別に問題はないと思うが、今後、より安く働いてもらわないと、という論理でもって「ゼロ時間ガール」が増えたり、移民労働者を増やせばよい、という議論にならないか、という心配は残る。

単なる儀以前であろうとは思うが、ちょうど昨今、自動運転の車が注目されているが、これもまた、ドライバーの仕事を奪う、と言うようには捉えず、ドライバーの労働環境を改善するための福音と考えることはできないものだろうか。

技術の進歩とは本来、人を幸せにするためのものなのだから。

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トップ写真:サイバーシティのスカイラインとのメタバースでのチームワーク

出典 :XH4D/Gatty Images

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