作詞家 松井五郎の世界を堪能!時代を超えた《女性アイドル・エールソング編》  松井五郎が手がけた作品をまとめたプレイリスト“G-ism”公開!

松井五郎がリリックで描く世界観とは?

作詞家・松井五郎が手がけた作品をまとめたプレイリスト『“G-ism”松井五郎セレクション〜女性アイドル編【おとラボ】』が、2023年4月より、各ストリーミングサービスで公開されている。“G-ism” とはつまり、松井五郎がリリックで描く世界観であり、この部分がそれぞれの歌い手により、どのように昇華されているかが一番の聴きどころだ。

松井は1981年、チャゲ&飛鳥(現:CHAGE and ASKA)のセカンドアルバム『熱風』で作詞家デビュー。表題曲を含む3曲に提供。その後、安全地帯の楽曲を数多く手掛け1980年代後半は「安全地帯6人目のメンバー」と囁かれる。

表題曲ともなった「熱風」では、

 逆巻く波は吼え
 船出の時がきた
 滅びゆく祖国を後に

―― と、時代を鼓舞するマッチョイズムと言える壮大な世界観を描いた松井だった。その一方、安全地帯のヒット曲「碧い瞳のエリス」では、

 泣きたい夜にひらく古い宝石箱
 少女でいれば叱られない

―― と、女性の心情の機微をなんともロマンティックに描く作詞家でもある。つまり、松井は人間の喜怒哀楽、心の奥底に潜んだ激情や、忘れてしまいたいほどの哀しみを短いフレーズの中に凝縮させ、聴き手の心にストンと落とし込む名手だ。

個性的な言い回しや、凝ったギミックを使うわけでもない。極めて平易な言葉で、聴き手の脳裏にクッキリとその世界観を浮かび上がらせる天才だと僕は思っている。

松井五郎の人間讃歌、人々に送るエール

また、氷室京介が絶大な信頼を寄せた作詞家であることからも、自身の分身として男性の視点から描くストーリーテラーという印象が強かったが、松井が女性歌手に提供している楽曲を改めて聴き直してみると、その手法は、性別云々ではなく、人としての気持ちの機微を巧みに表現できる作詞家だということを痛感した。

それは、うまく言葉に出来ないもどかしさや、誰かに伝えたい胸のときめき… そんな気持ちを持ち合わせた人たちのために綴った言葉をメロディに乗せる。つまり、松井の作品は人間賛歌であり、聴き手に送るエールのようなものだと僕は思う。

TPD、西田ひかる、田村英里子、90年代に送った珠玉のエールソング

時は90年代、バブルは崩壊していたが、煌びやかな時代は続いていた。そんな虚飾が溢れた時代だからこそ、心にぽっかりと空いた穴を埋めてくれるような珠玉のエールソングを松井はいくつも残している。

例えば、91年にデビューした東京パフォーマンスドール5枚目のシングル「CATCH!!」(作曲・編曲:NSR)では――

 そうよ過ぎゆく季節に
 さよならを告げる勇気
 瞳のどこかに
 まだ失くしてないよ

―― と、少女の成長物語ともとれる世界観の中、時の変化を織り交ぜながら、震えるような弱さと、それでも立ち上がらなくてはならない勇気をここまで的確に描写している。これこそが、当たり前の日常に潜んだ、誰もが経験しうる出来事を “物語” に昇華させた好例だと思う。

また、94年に公開された映画『首領を殺った男』の主題歌にも抜擢された田村英里子15枚目のシングル「悲しみでは終わらない」(作曲:玉置浩二 / 編曲:武部聡志)には、

 思い通りにゆく めぐり逢いなどない
 さみしさに泣いて でもふりむかない
 幸せは 必ずある… きっと

―― というフレーズがある。あきらめを匂わせながらも、心のどこかで自分を奮い立たせる優しさに溢れている名フレーズだ。

ひとりで傷つき、それでもひとりで立ち直らなくてはならないという女性の弱さと、これに相反する強さ… 一瞬の心情の変化が短いフレーズの中で的確に表現されている。

そして特筆すべきは、西田ひかるが92年にリリースした5枚目のオリジナルアルバム『19 Dreams』(作曲:財津和夫)に収録されている「ほほえみに約束」だ。

 上手にふれあえる言葉
 いつでも探してる

 だから涙にさよなら
 あきらめないで手をのばして

 まぶしい微笑み
 いつも信じていた

―― と、飾らない言葉をつないでいきながらも、決してありきたりの慰めにはならない魔法を忍ばせている。この曲にしてみれば、西田の透明感溢れる歌唱がこの世界観をより際立て、財津が手がけた「WAKE UP」(財津和夫)や「チェリーブラッサム」(松田聖子)にも相通じる、けれん味がない、希望に向かいまっすぐな心情を代弁するかのようなメロディに見事マッチしている。

虚飾が溢れた時代に人間讃歌とも言えるエールを送っていた松井五郎。当時の楽曲に潜む普遍性は今の時代も多くの人々の心の清涼剤になるはずである。

■ 松井五郎プロフィール
1981年CHAGE and ASKAで作詞家としてスタート。以後、安全地帯、氷室京介、工藤静香、郷ひろみ、田原俊彦、吉川晃司、V6、矢沢永吉、ビリーバンバン、五木ひろし、田村ゆかり、水樹奈々、平原綾香、森山良子、Kinki Kids、杉山清貴、岩崎宏美、沢田知可子、山内惠介、Sexy Zone、田村芽実、藤澤ノリマサ、竹島宏など(順不同)など幅広いジャンルのアーティスト、更にアニメや特撮、また、パク・ヨンハ、東方神起、など韓流アーティストにも多くの作品提供を行う。2023年現在までに3,500曲を越える数の作品を手がける。2009年「また君に恋してる」坂本冬美でレコード大賞優秀作品賞を受賞。2010年同曲で特別賞、JASRAC賞・銅賞を受賞。2018年「さらせ冬の嵐」山内惠介「恋町カウンター」竹島宏でレコード大賞作詩賞受賞など受賞。同年「さらせ冬の嵐」山内惠介で藤田まさと賞受賞。「はじめて好きになった人」2020年竹島宏で作詩大賞特別賞受賞。

カタリベ: 本田隆

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