小田急が自然体験型観光を実践 箱根登山鉄道「箱根湯本駅」近隣に新施設まもなくオープン(神奈川県箱根町)【コラム】

ハコネイチャーベースのフォトセッションでパネルを持つ星野小田急社長(右から3人目)と勝俣浩行箱根町長(左隣)(筆者撮影)

小田急電鉄が神奈川県箱根で、新しいスタイルの観光振興に乗り出します。来訪者や地域住民に豊かな自然を知ってもらうことでリピーター化する、自然体験型観光を目指します。観光の新ブランドが「ハコネイチャー」。箱根登山鉄道箱根湯本駅近隣には、4月28日に観光施設「HAKONATURE BASE(ハコネイチャーベース)」をオープンします。

ネイチャーベースでは、地域を知るガイドが案内するアウトドアツアーなどを連続開催。施設オープンを前にした4月20日の内覧会では、小田急の星野晃司社長が「地域の皆さんに、小田急の〝本気度〟を感じてもらいたい。普段着で楽しめる箱根の新しい体験を定着させていく」と決意表明しました。

新観光ブランド「ハコネイチャー」

箱根の交通を一手に引き受ける小田急。新宿から箱根湯本へは小田急ロマンスカーが直行します。ロマンスカーから乗り継ぐ箱根登山鉄道、箱根登山ケーブルカー、箱根ロープウェイ、箱根海賊船(箱根観光船)、箱根登山バスはすべて小田急グループです。

箱根周遊コースは、人呼んで「箱根ゴールデンルート」。定番ルートは便利は便利ですが、多くの来訪者は大涌谷、芦ノ湖といったお決まりのスポットを訪れるだけで、本当の箱根を知るかどうかには疑問も残ります。

小田急は、従来の物見遊山型と視点を変えた自然体験型観光に乗り出すことを決め、環境省、箱根町、箱根町観光協会(箱根DMO)、ゴールドウインの官民4者と一緒に、観光ブランド「ハコネイチャー」を立ち上げました。

小田急と箱根町など関係4者が一致結束

それぞれの役割を紹介すれば、富士箱根伊豆国立公園を管轄するのが環境省。最近は環境を守るだけでなく、「国立公園満喫プロジェクト」など自然を地域振興に役立てる取り組みに力を入れます。

観光協会の箱根DMOは、日本語では「観光地域づくり法人」。観光庁による観光地域振興策で、DMOは小田急をはじめとする関係者をまとめて、魅力ある観光地づくりを主導します。

ゴールドウインはノースフェイス、スピードといったブランド名で知られるスポーツ用品メーカー。箱根町とは2022年3月、「地域活性化に関する包括連携協定」を結び、自然・スポーツ体験を通じて子どもたちの豊かな心を育む活動に取り組みます。

歴代ロマンスカーが箱根のブランドイメージ確立

箱根の観光ブランドを確立した3000形(SE、右)、3100形(NSE、左)の小田急ロマンスカーは小田原線海老名駅に隣接した「ロマンスカーミュージアム」に展示されます(筆者撮影)

ここまで鉄道から離れ過ぎました。ちょっと一服。小田急と箱根の関係をたどります。小田急(開業時の社名は小田原急行鉄道)は、時代が昭和に変わって2年目の1927年、新宿―小田原間を一気に開業しました。箱根登山鉄道とは別会社(現在はグループ企業)で、箱根湯本への旅行には小田原での乗り換えが必要でした。箱根登山鉄道の開業は、小田急より早い1919年です。

小田急が、箱根登山鉄道への乗り入れを始めたのは戦後の1950年から。登山鉄道は標準軌の1435ミリ、小田急は狭軌の1067ミリで線路幅が違いますが、箱根登山鉄道は小田原―箱根湯本間を三線軌条にして小田急の電車が箱根湯本まで直通運転できるようにして、箱根アクセスを大きく改善しました。

現在、小田原―箱根湯本間はロマンスカーを含む小田急の電車だけが走り、まるで小田急の支線のようになっています。

小田急は、1957年にデビューした軽量高性能の初代ロマンスカー・3000形(SE)や1963年登場の前面展望車・3100形(NSE)に始まり、現役の60000形(MSE)や70000形(GSE)まで、魅力あふれる特急ロマンスカーを投入。その点では、箱根の観光ブランドイメージを確立させた主役の一角を占めるのが小田急といえるでしょう。

ラウンジ、アウトドアショップ……

ハコネイチャーベースに戻ります。場所は箱根湯本駅の300メートルほど西側。2018年まで北原照久さんのコレクションを集めた「北原おもちゃミュージアム」があり今回、施設を改装しました。

建物は2階建てで、約450平方メートル。1階のラウンジでは、コーヒーやオリジナルのクラフトビールを販売。絵本を中心にしたライブラリーも開設します。パートナー企業のゴールドウインは、アウトドアショップ「ザ・ノースフェイス箱根」を開店。箱根限定商品も取り扱います。

「THE NORTH FACE箱根」(写真:USD)

2階は、ワーケーション(リモートワーク)対応のメンバーズラウンジや多目的スペースのスタジオ。講座形式などのワークショップやセミナーを開催します。

さらに、ハコネイチャーベースには屋外イベントを開催できるガーデンも。詳細はこれからですが、担当の小田急まちづくり事業本部は、セミナー参加者など年間2000人程度の来館を期待します。

「人生に、ホームフォレストを」

春の観光シーズンに合わせ、小田急からは箱根エリアでのニュース発信が続きます。ハコネイチャーベースに近い小田急箱根グループの日帰り温泉「箱根湯寮」は2023年4月20日、2013年3月27日の開業以来の来館者数延べ200万人を達成してセレモニー。200万人目になった埼玉県飯能市の夫婦に「箱根湯寮年間パスポート」が贈られました。

さらに小田急は同日、オリジナル飲料「箱根の森から 天然水」と「箱根の森から 緑茶」の2022年度1年間の売り上げの一部379万8624円を箱根町に寄贈。町は、自然環境保全や旧街道杉並木などの歴史資源保護に活用します。

小田急の自然体験型観光の紹介は以上ですが、最後にハコネイチャーの資料からワンフレーズ、「人生に、ホームフォレストを」。都会の生活に疲れた時、ロマンスカーで訪れる箱根が「すべての人がいつでも帰れる森」であってほしいと願います。

記事:上里夏生

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