グランドスラムJr.ダブルスで2冠!ナダルアカデミーの秘蔵っ子、コールマン・ウォンに聞くジュニアとプロの大きな違い「ナダルはプレッシャーの扱い方が違う」

ナダルアカデミーの秘蔵っ子が語るジュニアとプロの違い「ラファとプレーするのは特別」

2021年の全米オープンジュニアのダブルスと2022年の全豪オープンダブルスで優勝した香港出身のコールマン・ウォン。今年プロ転向を果たし、現在はスペインのラファ・ナダルアカデミーに在籍している。ジュニア時代は基本的に香港を拠点としながら活動しており、今回はジュニア時代から香港においてコールマン・ウォンの活躍に注目してきた筆者が、ジュニアとプロの違い、プロとして成功するために必要なメンタル面の要素などをインタビューした。

身長191センチ、体重80キロとアジア人としては非常に恵まれた体格の持ち主であるコールマン・ウォン。だが、それ以上に彼のテニスへの情熱や姿勢からプロとして活躍する選手として十分な資質をうかがわせる。

2018年に世界中のトップジュニアが出場するジュニアオレンジボウル14歳以下シングルス で優勝すると、翌年には15歳の時点でプロを含めた多くの選手が出場する香港の「CRCオープン」でタイトルを獲得。その後、2021年の全米オープンジュニア、2022年の全豪オープンジュニアのダブルスで優勝し、着実にステップアップを刻んで、ジュニア時代にはITFランキングで最高11位となっている。以下、コールマン・ウォンへのインタビューである。

2022年全豪オープンJr.ではブルーノ・クズハラ(アメリカ/写真右)とのコンビでグランドスラムジュニアで2つ目のタイトルを獲得したコールマン・ウォン(写真=田沼武男 Photo by Takeo Tanuma)

――何歳の時にどのようにテニスを始めましたか?

5歳の時にビクトリアパーク(※香港において国際試合も開催される最も有名なテニスコート)でテニスをしたのが最初です。姉のエレーナがテニスをしていたのですが、彼女が風邪で練習に出られず代わりに参加したのがきっかけでした。その際とても楽しかったのでその後もテニスを続けることにしました。

――現在、ラファ・ナダルアカデミーに在籍していらっしゃいますね。アカデミーでの一日のスケジュールを教えてください。

試合がない日の一日のスケジュールはこのような感じですね。

8時~10時45分:テニス

軽食

11時~13時:ジムでフィットネス

ランチ

15時半~17時:テニス

その後はリカバリーのためにフィジオやストレッチング、アイスバスなどを利用します。

毎日長いトレーニングを行いますが、とても楽しんでいます。テニスが好きですし戦うことが大好きなのでトレーニングも苦になりません。

――スペインに拠点を移してから最も大きなチャレンジはどのようなことでしたか?

ずっとハードコートで練習していたので、当初はクレーコートに適応するのがとても難しかったです。(※香港ではハードコートが主流でクレーコートを使える場所は非常に限られている)

今、戦っている相手選手の多くは幼いころからクレーコートに慣れているプレーヤーばかりです。彼らは正しいタイミングで何をすべきかを把握しています。多くの時間を使って、彼らと戦えるように練習していますが、昨年は正直あまり良かったとは言えません。

とはいえ、クレーコートでの戦い方を覚えることは僕にとっても非常に大切なのでもっとうまくできるように日々努力しています。

――ハードコートとクレーコートの大きな違いを教えてください。

ハードコートよりクレーコートではボールの速度が落ちるので、よりラリーが長くなります。その分、弱点を見抜かれやすいんですね。長いラリーの中でコントロールを失ってしまったり、忍耐強くいることが難しいものです。ハードコートではサーブから1回か2回のショットでポイントにつながりますが、クレーコートではそうはいかない。長いラリーの中でいかにミスをせずかつ的確に攻める必要があります。(※コールマンはフォアハンドの強打が非常に得意なプレーヤー)

――好きなショットやポイントの取り方を教えてください。

サーブ側の時は、サーブでポイントを狙うのが好きですね。リターンの時はフォアハンドを起点にポイントを組み立てます。インサイドアウト等を使ってフォアハンドを中心に攻めます。また、ネットに出てポイントを取るプレーも好きです。

――今年の末までの短期的な目標を教えてください。

現在600位台のランキングを年末までに300位台まで上げたいと思っています。そのためにチャレンジャーやフューチャーズに多く出場し多くのポイントを取りたいですね。目標を達成するために必要なことを常に考え、それに向かって試合や練習を続けています。

最近はチャレンジャーでも200位台のランキングの高い選手に勝つことができているので、プロとしての戦い方に少しずつ慣れてきていると感じます。

――ラファ・ナダルアカデミーのインスタグラムで、実際にラファエル・ナダルと一緒に練習されているのを拝見しました。ナダルから学んだ大切なことがあれば教えていただけますか?

ラファとプレーするのはとても特別なものです。彼はとても素晴らしいメンターです。彼は僕と話すことを楽しんでくれていて、それが嬉しいです。僕もたくさん質問をします。彼はクレーコートでのティップスをたくさん教えてくれます。彼は手の動きやスキルよりもフットワークが何より重要だと教えてくれました。彼のような素晴らしいプレーヤーが僕の近くにいてくれることに感謝しています。

――プロとしての生活は簡単なものではないと思います。世界中を転戦しながらコートでは一人で戦い、結果も一人で受け止めなければなりませんよね。その中でリラックスしたり、ストレスを発散したりする方法を教えてください。

誰もが知っていることですが、テニスプレーヤーとして生きることは簡単ではありません。テニスプレーヤーはいつもテニスのことを考えます。そのためリフレッシュする際はテニスのことを全く考えないようにします。

友達と出かけて映画を見たり、僕は食べることが大好きなのでおいしいレストランを見つけて訪れたりするのが良いリラックスになります。それからスペインには美しいビーチがたくさんあるので、ビーチに行くのも好きです。僕の良いところは、オフの時はとことんテニスのことを考えないでいられるという特性があることですね。

――無類の寿司好きと記憶していますが、ラファ・ナダルアカデミーのあるマヨルカでも寿司を食べますか?

寿司は食べられますが、残念ながら日本や香港で食べていたのとは少し違います。でも美味しいですよ!

――プロになって感じた一番のチャレンジは何ですか?

ジュニアとプロは完全に異なります。プロは人生の全てをテニスにかけています。その点、プロはテニスの捉え方が異なるように思います。彼らにとっては生活の中心にテニスがあり、僕もそれを学んでいるところ。

それからプロは1ポイントも簡単に相手に与えない。そして、苦しい場面こそ絶対にポイントを相手に渡さないので、プロとして試合に勝つのはとても大変です。でもこのような素晴らしいプロと高い緊張感の中で試合をするのが僕は大好きです。

――プロとして生活するにあたり大きな犠牲というものはあったのでしょうか。

常に転戦しているので、当然普通の生活は送れません。テニスに全てを捧げなければいけないからね。僕にとっては、数年にわたるコロナ禍で家族に会えなかったのがとてもつらかったです。最長1年2ヵ月も家族に会うことができませんでした。僕にとっては、家で家族と一緒にいる生活を送れないというのが一番の犠牲だと言えますね。

――プロとして成功するために最も大切な精神とはどんなものですか?

テニスプレーヤーは、たくさんの試合をしますがいつも勝てるわけではないのでメンタル面の強さは必須です。負けが続いても諦めないこと、連敗中でも自分を信じ続けること、テニスを信じ続けることが何より大切だと思います。

たくさんの負けが続くことでバーンアウトしてしまう選手もいます。自分への信頼を失うことがプロとして一番してはいけないことなので、自分を信じることが何より大切だと思います。

――あなたにとって良いプレーヤーと最高のプレーヤーの違いは何ですか?

良いプレーヤーは、苦しい局面でパニックになったり、恐れを感じて本来のプレーができなくなったりすることがある。一方、ラファのように本当に素晴らしいプレーヤーというのは、苦しい局面でさらにレベルアップする。そこが大きな違いで、プレッシャーの扱い方が大きく異なりますね。

――最後にテニスの最も好きな点を教えてください。

勝つ瞬間が明らかに一番好きですね。とはいえ、負けたとしても新しい発見や次へのチャレンジがあります。そしてまた世界中の選手と戦うことができます。素晴らしい選手たちとたくさんの試合をできることがテニスの魅力です。これからも世界中の素晴らしいプレーヤーと試合がしたいですし、それができるのがテニスの一番の魅力だと感じています。

終始とてもフレンドリーにインタビューに答えてくれたコールマン・ウォン。プロとして戦うことを心から楽しむことができる根っからのファイターだと改めて感じたインタビューとなった。短期的な目標としてATPランキングで300位、そしてその後は更なる高みを目指して邁進する同選手の活躍に引き続き注目していきたい。

文/山根ゆずか

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