<社説>学術会議法今国会断念 国民の前で真摯に協議を

 政府が日本学術会議法改正案の今国会への提出を断念した。政府から示された改正案に学術会議は猛反発し、提出を思いとどまるよう求める勧告を総会で決定していた。勧告と同時に公表した声明の通り、「一方的な」法改正ではなく、開かれた場で真摯(しんし)な対話によって必要な改革をすべきである。 政府や自民党の主張は会員選考の「透明性」の確保だ。「仲間内で決めており不公正」だとか、予算は政府が支出しているから「第三者機関が関与すべきだ」などと言うが、学術会議の役割は何か、なぜ独立性が必要なのかということへの理解が全くない。

 学術会議は2021年、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を発表し、5要件を提示した。(1)学術的に国を代表する機関としての地位(2)そのための公的資格の付与(3)国家財政支出による安定した財政基盤(4)活動面での政府からの独立(5)会員選考における自主性・独立性―である。5項目の取り組みの一つとして「会員選考プロセスの透明性の向上」も掲げた。

 会員は「優れた研究または業績がある科学者」であることが前提だ。選考方法は、時代と共に変遷してきた。当初は選挙だったが、研究者の少ない分野が代表されない弊害があった。学会による推薦制度では、個別学会の利益代表となってしまい、学術全体の代表、総合的・俯瞰(ふかん)的見地という点で課題が生じた。そこで現在は海外でも主流となっている方法をとり、会員や関係学会から推薦を受け、選考委員会、幹事会、総会を経て決定してきた。直近では105人の改選枠に約1300人の推薦があった。

 透明性を向上させる取り組みとして(1)次期の課題と必要な人材像を明確にした選考方針の公表(2)その際に学会、大学、産業界、NPOなど第三者の意見を聞く(3)選考過程、候補ごとの選考理由、業績、抱負を公表―などを示した。独立性を担保しながら透明性を向上させることは可能だ。

 では、政府案はどうか。新設する第三者の「選考諮問委員会」の委員は、首相が議長を務める「総合科学技術・イノベーション会議」で選ばれた有識者委員や日本学士院院長で選ぶとしている。総合科学技術・イノベーション会議とは政府の「重要政策に関する会議」の一つで、首相を議長に閣僚6人、産業界を含む有識者7人と学術会議会長の14人が議員だ。閣僚が半数を占める組織が選ぶ委員会が独立性を担保できるだろうか。

 事の発端は20年の菅義偉前首相による新会員候補6人の任命拒否だ。岸田文雄首相に代わっても理由を明らかにしない。そんな政府が透明性を主張しても説得力はない。当事者である学術会議が改革方針を示しているのに、一方的に改正案を出すのは乱暴すぎる。学術会議の方針を基に、オープンな場での協議を始めるべきである。

© 株式会社琉球新報社