【イベントレポート】茨城DX支援コミュニティ『DX推進事業 成果報告会』10社が参加した「伴走型支援」の具体的な内容とは?

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DXは単なるデジタル化ではなく、企業のビジネスモデルや提供価値自体の「変革」である──。

2023年に入り、このような認識は徐々に広まってきています(詳しく知りたい方は『DXとデジタル化の違いとは? デジタライゼーションとともに具体的な事例でわかりやすく解説!』のご一読を!)。

しかし、実際にどのような「変革」を起こせばいいのか?

特に地方・中小規模の企業における先行事例や、具体的な取り組み内容を知りたいというニーズはまだまだ十分に満たされていないはずです。

2023年3月2日(木)13:00~15:00に茨城県産業会館 研修室で行われた『DX推進事業 成果報告会』では、特定非営利法人ITコーディネータ協会主導のもと行われたDX伴走支援の活動報告と、ITコーディネータの支援を受けた県内企業2社の事例報告が行われました。

本記事では、実際に支援を受けた経営者自らによる事例紹介のレポートを中心に、リアルなDX支援事業の価値とそこから得られる知見をご紹介します!

ITコーディネータとは? 伴走支援者から見たDX支援の価値と活動内容

今回のセミナーの主催は特定非営利法人ITコーディネータ協会(ITCA)です。ITコーディネータとは、経営に役立つIT利活用を促進する人材であり、全国で100を超えるコミュニティが存在(2022年12月時点)。中小企業の頼れる味方として、競争力強化とIT利活用を支援します。

2022年に20周年を迎えたNPO法人ITコーディネータ茨城では、2022年7月~2023年3月にかけてDX推進事業を実施。県内で10社が同事業に参画しました。その成果報告の場として用意されたのが、今回の『DX推進事業 成果報告会』です。なお、ITコーディネータ協会は経産省から事業を受託しており、その事業を茨城で実践しているのがITコーディネータ茨城になります。そして、茨城では「茨城経営者協会」「常陽銀行」「いばらき中小企業グローバル推進機構」「ITコーディネータ茨城」が支援コミュニティを形成して地域の企業の支援を行っています。

開会のあいさつに登壇したITコーディネータ協会事務局長の比留間 貴士氏は、早速「今時、販路拡大や効率化のためのマーケティングや改革にあたってデータ化やデジタル化」は不可欠と断言。DXは特別なことではなく、単に経営改革の取り組みの一種でしかないと語ります。

さらに、今回の取り組みを遂行したことで感じたこととして、ピックアップされたのが以下の2ポイント。

1.社員の自発的な改革への取り組みは会社を強くする
2.まずやってみることの大切さ

プロジェクトチームの一因として社員の方々が参加し、自分事として意見を戦わせることで、企業のポテンシャルが高まることを感じた比留間氏。そのような自発的な雰囲気をつくることが経営者の役割でもあるといいます。

また、2023年現在においてもDXに着手している国内企業はまだまだ少ないのが現状。「業務遂行能力よりも着手するスピードで差が生まれる」という比留間氏は、小さなことから一歩踏み出すことの大切さを語り、「ぜひ地元のITコーディネータやITコーディネータ協会に声をかけてみてください」とあいさつを結びました。

ITコーディネータ茨城 後藤 雅俊氏

あいさつに続いて行われたのが「ITコーディネータ茨城」の活動報告。

登壇したITコーディネータ茨城の後藤雅俊氏は、DXには以下の3つのステージが存在することに言及。

ステージ1:DXに興味があるが・・・DXが何かを理解していない/まだはじめられない
ステージ2:DXを理解しているが・・・DXの進め方がわからない
ステージ3:DX計画を進めているが・・・デジタルツールがわからない

ITコーディネータ茨城では、それぞれのステージごとにセミナー、DX診断、伴走型支援、マッチング支援といった支援策を実施し、その集大成として設けられたのが今回の成果報告会なのです。

今回は10社が参加した「伴走型支援」のステップは以下の全10回。

(1)経営理念・ミッション確認
(2)DX構想の検討
(3)DX構想の裏付け
(4)目標値の設定
(5)DXシステム構成検討
(6)現状分析
(7)実施項目の抽出
(8)スケジュール検討
(9)体制検討
(10)DX計画書まとめ・社内レビュー

なかでも「(2)DX構想の検討」は最も重要なフェーズであり、「”業務効率化” ではなく”新たな付加価値創造による競争力強化”を目的とした」と後藤氏は語ります。とはいえ、企業のフェーズによってはデジタル化をテーマに据える場合もあるなど臨機応変な対応が行われたとのこと。

それでは、伴走型支援に参加した2社『株式会社ダイイチ・ファブ・テック』(テーマ:準量産自動化のスペシャリスト、ロボット)と『関東道路株式会社』(テーマ:SRPによる環境DX)の成果報告を詳しく見ていきましょう!

事例1:多能工化×デジタル化で「考える」ものづくりを標榜する『株式会社ダイイチ・ファブ・テック』

株式会社ダイイチ・ファブ・テック 門脇 大樹社長

1社目の株式会社ダイイチ・ファブ・テックは創業1965年、水戸市で昇降機部品やトラックフレーム部品、空調機の板金、製缶部品などを取り扱う16名規模の精密板金加工企業です。

同社が何よりも大切にしているのは「ものづくりの感度・センス」。そのベースをもとに設定されたのが”アナログの感覚があるからこそのDX”というコンセプトでした。

昨年就任した3代目の門脇 大樹社長は同社の経営理念を「『考える』もの作りに徹し、全社員の幸福と社会への貢献をめざす」と設定。5年後に目指す姿として、以下のようなミッションを掲げました。

・売上倍増
・時間あたり付加価値額倍増
・社員数30名
・毎年新卒採用
・3D非量産加工地域ナンバーワン

さて、DX構想の策定にあたって欠かせないのが「現在の事業価値(As-Is)」「将来の事業価値(To-Be)」の検討です。ダイイチ・ファブ・テックの「Ai-Is」「To-Be」を見てみましょう。

・As-Is:3次元モデルを使用した高能率一貫生産サービス
・To-Be:なんでも自動化しちゃう会社~加工機の性能/特徴をフルに使いこなせる技術者集団~

3次元CADを用いたものづくりに長じている同社。8000Wファイバーレーザーなど複雑な形状の加工も可能な利点も生かし、初品や特急品、板金、製缶、切削の一貫加工など多様なニーズに応える技術を有しています。また、社内教育訓練にも力を入れており、半年に一回のローテーションによる多能工化や全員MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)合格にも取り組んでいるとのこと。

こうした強みにデジタル技術を掛け合わせることで可能になるのが、より柔軟な「考える」ものづくり。たとえばロボットは通常月数千~数万ロットの大量生産でなければ割に合わないと考えられがち。しかし、「多能工化×デジタル化」を進めることでロボットに向いている/向いていないの判断を個人ごとで行えるようになるため、数十~数百単位の準量産もロボット化することで他社との差別化につながると門脇社長は語ります。

つくり方が決まっていない単一品では、柔軟に素早くつくることが大切とのこと。そして、適切に見積もりを行えば、利益にもつながりやすいといいます。今後はロボットの部品をつくるポジションから、ロボットをつくるSIer側としてのビジネスの創出も見据えていると門脇社長。

今後3カ年の目標や体制についても詳しく語られ、「DXだからといってデジタル技術ありきでなくても良い」「自分たちで検討することで戦略につながる」「デジタル化はビジネスの共通言語」といった教訓とともに、事例紹介は閉じられました。

事例2:ソーラーパネルリサイクルプラットフォームで日本全体の環境の保全と改善を実現する『関東道路株式会社』

関東道路株式会社代表取締役 武藤 正浩社長

2社目の関東道路株式会社は1972年創業。筑西市で道路舗装や造園、建築、産業廃棄物処分などの業務により組んでおり、可燃性ごみを原料とする溶融スラグを再利用したアスファルト合材(エコファルト)の開発、利用といった実績により国土交通大臣賞、環境大臣賞を受賞したエコロジー先進企業です。

早速、同社の「現在の事業価値(As-Is)」「将来の事業価値(To-Be)」を見てみましょう。

・As-Is:未来の社会環境を捉えた地域の環境企業
・To-Be:未来の社会環境とエネルギー環境の構築を目指すプラットフォーマー

関東道路株式会社代表取締役、武藤正浩社長は同社が手掛ける「SRP(ソーラーパネルリサイクルプラットフォーム)」自体にそもそもDXの考えがあったと話します。

関東道路株式会社の経営理念は”全世界共有の課題である地球環境の保全と改善を通じて社会に貢献する”。そのための基盤となるのがSRPであり、その先に描かれているのが「日本全体の環境の保全と改善を目指す」というビジョンです。

世の中の変化として、クラウド技術の普及による大規模プラットフォーム構築の可能性とFIT法の契約満了に伴うソーラーパネル廃棄問題の発生を指摘する武藤社長。

環境省の試算によると、2038年には何と現在の80倍の廃棄ソーラーパネルが発生します。太陽光発電事業の継続にあたり、ソーラーパネルの安全かつ確実なリサイクル、廃棄は避けては通れません。

そこで同社が提案するのが太陽光パネルの適切な解体や分別、リサイクルや最終処分を実現するためのプラットフォーム「SRP」なのです。工場・解体業者、電気設備業者、証券会社・相場取引業者、不動産コンサルタント、ニューソーラー電力売電業者、最終処分場保有業者、鉄・銅等金属処理業者、金融期間、ソーラー売電企業、各廃材の処理業者などソーラー発電事業関連のあらゆるステークホルダーがSRPを中心に情報共有することで、廃棄パネルのトレーサビリティ向上や新ビジネス創出の活発化が可能となるとのこと。

特許取得済みの同システムをもとに、「再生可能エネルギー普及事業」「ソーラーの廃棄問題解決&災害防止」「ソーラー事業終了に伴う土地の有効利用」「ソーラー電力の集積事業&第2次売電事業」に取り組み、‟環境情報のネットワーク化&ビッグデータ化”を実現。持続可能な循環型社会の形成を目指すというビジョンを武藤社長、ひいては関東道路株式会社は描いているそうです。

セミナーでは2032年までの長期計画や事業内容分析、体制などについても「DX推進計画書」を用いつつ具体的に紹介されました。

終わりに

2社の事例紹介後も、『DX推進事業 成果報告会』は続きます。

口頭にて「株式会社大曽根建設」「株式会社かつら設計」の2社により事例報告がなされ、また「いばらき中小企業グローバル推進機構」「茨城経営者協会」「常陽銀行」といった支援コミュニティにより、本支援事業の感想がフィードバックされました。

次年度の活動予定として、ITコーディネータ茨城の大久保賢二理事長は「支援コミュニティのさらなる拡充」と「自走運用での費用負担」を掲げます。

DX推進事業が目指す姿として、「DX推進→新ビジネス創出→売上拡大」あるいは「デジタル化推進→生産性向上→原価低減」による、儲かる企業への転換を示した大久保理事長。さらにその先には「賃上げ」「雇用促進」「新たなチャレンジ」といった目標が生まれると話します。

必ずしもDXだけを目指す必要はなく、デジタル化による課題解決も企業の成長に欠かせません。大切なのは自社の状況に合わせて、その両方を推進することです。進め方がわからない・不安があるという方は、早速地域のITコーディネータやITCコミュニティに相談してみてはいかがでしょうか。

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