【連載コラム】第9回:パイレーツの快進撃から考える捕手の重要性 カージナルス低迷の要因も捕手?

快進撃の「陰の立役者」パイレーツ・ヘッジス @Getty Images

2020年から3年連続勝率3割台と低迷が続いていたパイレーツが開幕から快進撃を見せています。敵地でのロッキーズ3連戦、本拠地でのレッズ4連戦をスイープして7連勝。この原稿を書いている日本時間4月25日はオフで試合がありませんでしたが、同日終了時点で16勝7敗、勝率.696は堂々のリーグトップの数字。これより高い勝率を記録しているのは、歴史的なスタートダッシュを見せたレイズだけとなっています。この快進撃の「陰の立役者」と言われているのが、今季年俸500万ドルの1年契約で加入したメジャー9年目、30歳の捕手オースティン・ヘッジスです。

ヘッジスは過去に2ケタ本塁打を4度記録しているものの、2019年から昨季まで4年連続で打率1割台。今季もここまで11試合にして打率.167、OPS.419とほとんど打てていません。パイレーツがこのヘッジスに年俸500万ドルの契約を与えたのは、「捕手」としての能力が極めて高いからです。ヘッジスはメジャーに定着した2017年から昨季までの6シーズンで守備防御点+71を記録。これは2位のロベルト・ペレス(+57)に大差をつけるダントツの数字です。しかし、ヘッジスの価値はこうした数値化された部分だけにとどまりません。実際、パイレーツのデレック・シェルトン監督は「彼は数値化できないようなことをたくさんやってくれている。だから、彼はとても重要だし、だから、我々は彼の獲得を狙ったんだ」と語り、数字には表れないヘッジスの重要性を強調しています。

ここで2つのエピソードを紹介しましょう。日本時間4月23日のレッズ戦に先発した43歳の大ベテラン左腕リッチ・ヒルは、立ち上がりからカーブが思うように決まらず、苦しんでいました。3回表先頭から二者連続四球を与え、タイラー・スティーブンソンへの初球、カーブが大きく外れたところでヘッジスはマウンドへ。ヘッジスはヒルのカーブ自体は悪くないものの、適切な位置でリリースできていないことにいち早く気付いていました。それを伝えられたヒルは自身のピッチングの修正に成功し、5回1失点の好投で勝利投手に。「彼がマウンドに来てくれたのが大きかった。今夜は捕手として大きな仕事をしてくれたよ」とヒルはバッテリーを組んだヘッジスのことを絶賛していました。

レッズ戦勝利後のヘッジスとベッドナー @Getty Images

また、前日の試合の8回裏にはこんなシーンがありました。2点リードのパイレーツは、守護神デービッド・ベッドナーがウォーミングアップを開始。ところが、先頭打者が2球、次打者が1球で凡退し、あっという間にイニングが終わりそうになりました。ここでヘッジスはゆっくりと打席に向かい、1打席に1回だけ認められているタイムアウトも要求して時間稼ぎを画策。結果的に凡退したものの、フルカウントまで粘り、ウォーミングアップの時間を確保することに成功しました。ベッドナーは「彼は心の余裕を持ち、広い視野で試合を見ている。彼が僕たちにもたらしてくれることの1つに過ぎないけれど、彼の獲得が本当に素晴らしかったということを表していると思う」と感心しきりでした。

ヘッジスはこうしてチームメイトから全幅の信頼を得ることに成功し、数字に表れない部分でチームに貢献する「縁の下の力持ち」となっています。なんでも数値化する時代になっていますが、数値化できない価値を持つ選手もいるということを我々は忘れてはいけません。個人的には、昨季限りで引退した名捕手ヤディアー・モリーナもそうした数値化できない価値を持っていた選手だと思います。今季のカージナルスは、ここまでなかなか波に乗れないでいますが、モリーナの「見えない価値」の穴を埋められていないことがチームの低迷につながっているのかもしれません。

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