<ライブレポート>The 1975、アーティスティックな演出と裏をかくプレイで既成概念を覆した来日公演初日

The 1975が昨年8月の【サマーソニック】のヘッドライナー以来となるジャパン・ツアー【THE 1975 AT THEIR VERY BEST JAPAN 2023】を4月24日よりスタートした。

単独では2016年1月以来の日本公演でもあり、今回はバンド史上最大規模だ。神奈川(横浜)2回、愛知、大阪の全公演がソールドアウトしたのを受けて、この日(4月24日)は急遽追加された東京公演。初日というのもあって、会場の東京ガーデンシアターには、程よい緊張感と期待が漲っていた。

予定の19時半きっかりに、エルヴィス・プレスリーの「ラヴ・ミー・テンダー」が流れ始めると、ステージ後方の特大ヴィジョンに、会場の搬入口と思われるモノクロ映像が映し出される。そこに佇むフロントマンのマシュー(・ヒーリー)。彼がステージに歩み入る瞬間からカメラが追いかけるという寸法だ。自ら持ち込んだスツールに座って、エレピ演奏者だけをバックにマシューが「オー・キャロライン」を歌い始めると、そのまま数曲が続けられる。ロックバンドにありがちな大仰なオープニングの裏をかく、素朴で寛いだムードのソロタイムで始まった。マイクを握るマシューの周囲では、スタッフが絨毯を敷き、椅子やライトや観葉植物を運び込み、居間のような空間を作り上げていく。やがて他のメンバーもパラパラと登場。まるでインスタレーション・アートを観ているかのような小粋な演出で、予定調和に揺さぶりを掛けるのだった。

最新アルバム『外国語での言葉遊び(Being Funny In A Foreign Language)』に収録の「ルッキング・フォー・サムバディ(トゥ・ラヴ)」からは、フルバンド演奏へとシフト。4人のオリジナル・メンバーに加えて、ギター、キーボード、パーカッション、サックス奏者など計4人の男女がバックを務め、曲によって楽器を持ち替えながら多彩なサウンドスケープを生み出していく。フルバンドで再演された「オー・キャロライン」の美しいピアノの旋律、「イフ・ユーア・トゥー・シャイ(レット・ミー・ノウ)」の重厚な80’s調シンセ、「シーズ・アメリカン」のシャカシャカしたギターのカッティングなど、曲ごとに音色の主役が違っている。中でもラグジュアリー感溢れるサックスのソロには、ひと際大きな拍手と歓声が湧き起こっていた。しかも、ひとつひとつの楽器のサウンドがきちんとクリアに聞こえていながら、ぶつかり合ったり干渉したりしない見事なアンサンブルなのにも唸らされる。綿密に計算されている。

そんなバックの的確な演奏とは対照的なのがマシューの言動だ。おちょこを片手に飲みながら、フラスコからは一気飲み。時折フラついたりするのもご愛嬌。今時珍しいロックスターぶりを振り撒いてくれた。突然曲を止めたり、ステージ前方のファンと会話を始めたり、他公演のチケットをプレゼントする一幕も(!)。「この日がずっと待ちきれなかった。僕たちが日本でこんなに人気があるってことは、火星で人気があるぐらい、すごいことなんだよ」と突飛な例えで笑わせる。ステージ上でこれほど生き生きと、水を得た魚のように振るまえるアーティストというのも珍しい。バンドの手堅い演奏を混ぜ返すかのように、無鉄砲なエネルギーを発してヒートアップしてくれた。

終盤には「チョコレート」、「ザ・サウンド」、「セックス」といったお馴染みの初期ヒットが並んだが、最新アルバムからの楽曲も大いに盛り上がった。小気味良い「ハピネス」、ずっと聞いていたい多幸感に包まれた「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・ユー」などでは、既に彼らの代表曲かと思うほどの大合唱が巻き起こっていた。バックバンドの女性とメランコリックなデュエットを聞かせた「アバウト・ユー」では、もっと盛大に、スペクタクルな感動巨編にもできたはずだが、あえてそれをやらないのが彼ら。ますますスマートに、ソフィスティケートされたという印象だ。実験性やアートな感性を交えながら、ロックとポップの垣根をヒョイとすり抜けるThe 1975 。たっぷり2時間、既成概念を押しのけるエンターテイナーぶりを発揮してくれた。

Text by 村上ひさし
Photos by Jordan Curtis Hughes

◎セットリスト
【THE 1975 AT THEIR VERY BEST JAPAN 2023】
※4月24日公演
1. Oh Caroline / I Couldn’t Be More In Love / Be My Mistake
2. Looking For Somebody (To Love)
3. Happiness
4. UGH!
5. Me & You Together Song
6. All I Need To Hear
7. If You’re Too Shy (Let Me Know)
8. I’m In Love With You
9. Fallingforyou
10. About You
11. Robbers
12. She’s American
13. Somebody Else
14. It’s Not Living (If It’s Not With You)
15. Sincerity Is Scary
16. Paris
17. Chocolate
18. Love It If We Made It
19. I Always Wanna Die (Sometimes)
20. The Sound
21. Sex
22. Give Yourself A Try

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