1983年のアイドルテクノ3部作《早見優と松田聖子と小泉今日子》が歌った夏ソング!  デジタルサウンドはアイドルポップスとも相性バッチリ!

4月リリース「夏色のナンシー」、季節感を先取りしたアイドルポップス

テレビでは『おしん』や『キン肉マン』『オールナイトフジ』が始まり、東京ディズニーランドが開園した1983年春。アイドル界は活況を呈していた。1980年にデビューした松田聖子、田原俊彦、近藤真彦らの活躍に加え、前年の新人で “花の82年組” と呼ばれた小泉今日子、中森明菜、石川秀美、早見優、シブがき隊らが目覚ましい活躍を遂げて、歌番組やバラエティで見ない日はなかった。

季節感を先取りしたアイドルポップスは、ようやく暖かくなる春を迎える頃になると、既に夏向けの曲が用意される。この年の4月から5月にかけての新譜も例外ではなく、4月1日にはデビュー2年目の早見優が「夏色のナンシー」をリリースした。事務所の先輩、松田聖子のデビュー曲を手がけた三浦徳子の作詞で、作曲が筒美京平、編曲が茂木由多加の布陣。茂木はプログレッシヴロックバンドとして知られる四人囃子の元キーボード奏者で、シンセサイザーの妙手であった。この曲が大ヒットして早見優の代表作と成り得たのは、明るく華やかな三浦の詞と筒美メロディはもちろんのこと、デジタル音満載の茂木アレンジの魅力も大切な要素だったはずだ。

この年は、1980年にヤマハが開発した新様式のデジタルキーボードの普及版が発売されてベストセラーとなり、世界的なデジタル旋風が巻き起こっていた時期にあたる。金属的でシャープな響きを特徴としたデジタルサウンドはアイドルポップスとも相性が良く、多くの作品に採り入れられている。いわば、アイドルデジポップ。

細野晴臣が作曲・編曲に起用された「天国のキッス」

松田聖子の13枚目のシングル「天国のキッス」もそれに該当する。主演映画『プルメリアの伝説 天国のキッス』の主題歌として4月27日にリリースされた。作詞の松本隆の指名により、はっぴいえんど時代からの盟友である細野晴臣が作曲・編曲に起用され、シンセを多用したアレンジが展開されている。

細野は前年の松田のアルバム『Candy』に「ブルージュの鐘」と「黄色いカーディガン」を提供していたが、いずれも編曲は大村雅朗で、アレンジも共に手がけたのは初だった。高橋幸宏、坂本龍一と共にイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成して、テクノポップに取り組んでいた細野の手腕が発揮された作品。

転調が繰り返される半ば実験的なメロディは、前年に細野自身が出演した日立製作所の企業CM用に作られたインスト曲がモチーフとされたものであった。

筒美京平がテクノポップに開眼した、「まっ赤な女の子」

松本×細野コンビはこの直前にも元キャンディーズの藤村美樹「夢・恋・人。」を手がけており、その後も松本伊代「月下美人」などのコンビ作品がある。「月下美人」のアレンジは鷺巣詩郎が担当したが、シンセ独特の浮遊感が神秘的なメロディと絶妙な調和を見せたアイドルデジポップの傑作だと思う。

そして、5月5日の子供の日にリリースされたのが、小泉今日子「まっ赤な女の子」であった。作詞:康珍化、作曲:筒美京平、編曲:佐久間正英。元プラスチックスの佐久間は、共に四人囃子に参加し、その後にまた一緒にバンドを組んだ茂木由多加の盟友でもあった。シンセ鳴りっぱなしのアレンジで、テクノ歌謡を代表する1曲に挙げられる。ショートカットになったキョンキョンが弾けたキャラへのイメチェンを成功させ、ターニングポイントとなった曲としても有名だろう。「夏色のナンシー」と共に、筒美京平がテクノポップに開眼した作品である。

シンセサイザーが多用されたアイドルの作品はこの時期に量産されて、後に評価されるテクノ歌謡の最大勢力となってゆく。その象徴ともいうべき本家のYMOが最も歌謡曲に寄せた一種のパロディ作「君に、胸キュン。」も、同年の3月25日のリリースだった。それもシャレの一環だったであろうチャート1位を狙うと宣言されたが、結果的に細野が手がけた「天国のキッス」に阻まれて最高位2位に留まったのは、テクノ版 “ちょっといい話”。

ちなみに “胸キュン” は山下久美子が流行らせたワードであったが、それをデジタル音の “キュン” とかけてYMOの歌詞にしたためた松本隆のセンスは流石としか言えない。

カタリベ: 鈴木啓之

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