100万円EVで世界市場に挑戦、台湾メーカー鴻海に渡った元日産ナンバー3が描く戦略 関潤氏、日本への警告「対策遅れると取り残される」

 鴻海精密工業が公開したEV試作車(鴻海提供)

 電気自動車(EV)開発に各国メーカーがしのぎを削る中、日産自動車出身でニデック(旧日本電産)社長も務めた関潤さんが今年2月、台湾の鴻海精密工業のEV事業最高戦略責任者(CSO)に就任した。日本ではなかなか普及が進まないEVだが、中国や欧州ではEVシフトが加速している。自動車業界を熟知する関さんが描く戦略は何か。日本に帰国中の4月に取材すると、低価格化で顧客層を拡大していく展望を語った。(共同通信=山上高弘、渡辺光太、山口祐輝)

 ▽注目された去就、新天地は台湾・鴻海
 関さんは長年、日産の生産技術畑を歩み、中国の合弁会社総裁を務めた後、ナンバー3の副最高執行責任者(COO)に就いた。EV用モーターに注力するニデックの創業者で会長兼最高経営責任者(CEO)の永守重信氏に請われ、2020年4月に同社の社長に就任したが、路線対立などから昨年9月に退任。去就が注目された中で関さんが新天地に選んだのが、鴻海だった。

 鴻海は台湾の実業家である郭台銘氏が1974年に創業した電子機器の製造を請け負うサービス(EMS)の世界最大手で、昨年の売上高は約30兆円。2016年に業績が悪化したシャープを買収したことでも知られる。米アップルのiPhoneなどの受託生産を担うことで成長した。現在は事業の多角化を進めており、その柱に位置付けるのがEV事業だ。

 鴻海精密工業が公開したEV試作車(鴻海提供)

 ▽バッテリー対策と低価格化がカギ
 ―現在のEVを取り巻く状況をどう見ていますか。
 私は「人々はEVを嫌いなんだ」と考えています。価格が高い、充電で待たされて不便なのが嫌だ、と。でもこれが改善されればEVにシフトする。世界で車を買えるのは約20億人と言われていますが、現状EVを買える人はそのうちの約1億人です。まずは残りの19億人をターゲットに、EVの購入層を広げていく必要があります。日本では政府の補助金を差し引いた軽EVの実質購入価格は200万円前後ですが、普及にはさらなる低価格化が必要です。

 インタビューに応じる、台湾の鴻海精密工業のEV事業トップに就任した関潤氏=4月、横浜市

 ―普及に向けて価格をどのくらいに抑えられますか。
 100万~150万円なら消費者も手を出そうと思うはずです。EVのためにすべてを刷新しようと思うからコストがかかるんです。例えば、電動化に関わる以外の部分は極力従来品を使えばいいでしょう。

 重要なのはバッテリーをどうするか。病院やスーパーなど、あまり(遠くに)移動しない人たちがおり、思い切って小型化するのは手です。また交換式を採用することも考えられます。

 われわれは技術仕様を明らかにし、さまざまな企業に参加を呼びかける企業連合「MIH(モビリティー・イン・ハーモニー)」を立ち上げました。生徒会のような運営組織の中で、号令役として「この指止まれ」と参加を募りました。現在、車体から電子部品、自動運転まで約2600社が、出資ごとのランクに分かれて会員になっています。最新技術をオープンにすることでEV事業への参入障壁を低くし、開発コストの削減にもつなげたいと考えています。

 鴻海精密工業がEV開発に参加する企業を呼び込むために公開した「MIH」のプラットフォーム(鴻海提供)

 ▽途上国市場を視野「日本の動きは遅い」
 鴻海は2025年にEVの世界シェア5%を獲得することを目標に掲げている。早ければ年内にも台湾の自動車ブランド向けに納車が始まる。欧州や中国でEV化が加速する中、関さんには鴻海の旗振り役としての役割が期待されている。

 ―世界市場をどう攻めますか。
 展開を目指す具体的な地域は言えませんが、鴻海はEVでは後発組であり、ブランドが既にたくさん存在している欧州や中国での勝負は厳しいと考えています。東南アジアやインドなど、各国でEVを巡る意識や環境の変化は将来必ず起き、われわれはその日に向けて商品開発を進めます。ローカルブランドもEVに興味を持っており、生産拠点は一極集中させるのではなく、原則現地でやりたいと考えています。

 ―日本市場についてはいかがですか。
 日本市場ももちろん視野に入っていますが、冷静に見ると、日本でEVの機運が醸成されるにはもう少し時間がかかるでしょう。われわれは世界全体をフラットに見ています。日本は欧州などを見習い、内燃機関車への排出規制に真剣に取り組むべきであり、対策が遅れれば世界の趨勢から取り残されると思います。

 鴻海精密工業が公開したEVバス(鴻海提供)

 ▽鴻海では「指揮が執れる」と自信も
 関さんの就任は、鴻海の劉揚偉会長直々の依頼だった。

―鴻海でこれまでの経験をどう生かしますか。
 日産では商品企画や経営も経験し、中国ビジネスも学びました。幅広く経験してきたのが自分の強みです。開発から販売、資金回収まで、一連の過程の中で物事が見える。赴任経験から国ごとの特性も把握していますので、総合的にどう市場を攻めるかの指揮が執れると思います。鴻海は実行力が抜群にある会社です。精度の高い戦略を策定し、鴻海の機動力を最大限生かしていくのが私の役目です。
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 自動車メーカーのEV戦略に関する過去の記事をまとめました。

【トヨタ自動車】 https://nordot.app/999251342366277632?c=39546741839462401

【フォルクスワーゲン(VW)】 https://nordot.app/1025595050441555968?c=39546741839462401

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