地球の新たな準衛星「2023 FW13」を発見 西暦3700年まで存在する “月のような天体”

地球の自然衛星は「月」だけであると一般的に言われますが、小さな小惑星の中には短期間だけ地球の “第2の月” となった例が知られています。しかしながら、地球の重力に捕らわれていた、つまり真に地球中心の軌道にいたことのある小惑星はこれまでに4例 (※1) しか知られていません。

※1…人工物である可能性が高いものや流星を含まない。

【▲ 図1: 準衛星の例であるKamoʻoalewa(2016 HO3)の軌道。地球もKamoʻoalewaも太陽を中心とした軌道を公転しているが、地球から見たKamoʻoalewaは地球を公転する衛星のような軌道を描く(Credit: NASA / JPL-Caltech)】

一方で、見た目だけは自然衛星のように振る舞う小惑星も見つかっています。このようなタイプの小惑星を「準衛星」と呼びます。地球から観測した時に地球の周りをゆっくりと公転しているように見えることからそう呼ばれていますが、準衛星の重力的な中心は地球ではなく太陽であり、月のように地球の重力に捕らわれている真の衛星とは無関係であると言えます。

準衛星である小惑星が衛星のような動きをしているように見えるのは、こうした小惑星が地球の公転軌道とほとんど同じ軌道を公転していて、なおかつ地球と小惑星の軌道が交差しているからです。準衛星の公転軌道は遠日点 (太陽から最も遠くなる軌道上の点) が地球の公転軌道の外側に、近日点 (太陽に最も近くなる軌道上の点) は内側にあります。遠日点では小惑星の速度は地球よりも遅くなるので、地球が小惑星を追い抜きます。反対に、近日点では小惑星の速度は地球よりも速くなるので、今度は小惑星が地球を追い抜きます。遠日点と近日点で抜きつ抜かれつを繰り返すことで、まるで小惑星が地球の周りを公転しているように見えるのです。

準衛星となる小惑星の軌道は長期的には安定しておらず、準衛星になる期間は地球にかなり接近している時のみとなります。普段はそのようには見えない運動をしているものの、短期間だけ準衛星のように見えると予測される小惑星は複数見つかっています。

一方で、現在(2023年4月22日時点)準衛星となっている小惑星は5個見つかっていますが、軌道が最も安定していると推定されている469219番小惑星「Kamoʻoalewa」 (※2) でも、準衛星である期間は約300年と推定されてます。

※2…一般的なカタカナ表記は「カモオアレワ」であるが、発音に近づけると「カモ・オーレヴァ」と表記できる。

【▲ 図2: 2023 FW13の、2023年から2052年までの公転の軌跡(緑色)。見た目上は地球(水色)の周りを公転しているように見える(Credit: Tony Dunn)】

このような背景の中で、最近発見された「2023 FW13」はかなり特異な準衛星であることが判明しました。2023 FW13は地球から約2700万km離れた位置にあり、直径は10mから20mと推定されている、かなり小さな小惑星です。

2023年3月28日に初めて観測された2023 FW13は、その後の調査でより古い撮影記録(最古のものは2012年5月21日)にも写っていたことが判明。軌道が解析された結果、2023 FW13は現在地球の準衛星となっている6個目の小惑星であることが判明しました。

さらなる軌道解析の結果から、2023 FW13の準衛星としての軌道は相当安定していることが判明しました。この小惑星は遅くとも紀元前100年から準衛星の軌道に入っており、少なくとも西暦3700年までは現在の軌道を維持すると考えられています。約3800年という軌道の安定度は、準衛星では文字通り桁違いの長さです。

2023 FW13のような準衛星は真の衛星ではありませんが、地球の近くに留まり続けるという点は共通しています。このような地球からの距離が比較的近い小惑星には数ヶ月で到達可能であるという利点があり、小惑星探査の目標や、あるいは火星のような長期の有人宇宙探査の練習台として利用できる可能性があります。

【▲ 準衛星「2023 FW13」の想像図(Credit: NASA EYES)】

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文/彩恵りり

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