アユモドキ 屋外人工繁殖に挑戦 瀬戸の「守る会」 取り組み5年目

人工池の様子を確認する瀬戸アユモドキを守る会のメンバーら。右側は産卵場所で、繁殖期には水を入れる=岡山市東区瀬戸町万富

 国天然記念物の淡水魚アユモドキを絶滅から守るため、生息地の岡山市東区瀬戸町地区で、住民の保護グループが屋外での人工繁殖に挑戦している。地元のキリンビール岡山工場(同瀬戸町万富)と連携し、構内のビオトープ(人工池)で産卵、ふ化を目指す。アユモドキは繁殖の条件が厳しい魚で、これまで環境の整った屋内の水槽での成功例しかない。難易度は高いとされるものの、より自然に近い屋外で稚魚が誕生すれば、種の保存に向けた大きな一歩になると期待されている。取り組みは5年目。6月の繁殖期に向け、関係者は「今年こそは成功を」と生育環境の改善に努めている。

 ◇

 水槽内でのアユモドキの人工繁殖はある程度技術が確立している。岡山市も20年近く前から取り組み、現在は千種小(同市東区瀬戸町鍛冶屋)、高島小(同市中区国府市場)の児童と連携して行っている。ただ、狭い飼育環境などの影響から、生まれた魚は小さめで、繁殖できる段階まで成長しにくい問題があるという。

 瀬戸町地区の生息地保護に当たってきた「瀬戸アユモドキを守る会」(約20人)は自然に近く広い飼育環境を求め、25メートルプール程度の500トンの水量と流れがあるキリンビール岡山工場の人工池に着目。2019年から人工繁殖に乗り出した。現在は約50匹を飼育している。

 アユモドキは普段、川や用水路で暮らし、6月の繁殖期になると洪水などで水に漬かる低地に移動して産卵する特殊な習性を持つ。生態には謎が多いことも響き、これまで産卵にまで至らず、失敗が続いてきた。

 守る会は岡山市教委や専門家の指導を受け、水の浄化や生育に邪魔な植物の撤去といった環境改善を進めてきた。昨年は体内に卵を抱えるまで成長した雌を確認できたという。今年は3月に池の一角に設けた産卵場所を広げたほか、移動しやすいよう溝を掘るなどして繁殖期に臨む。

 指導してきた日本魚類学会自然保護委員会委員の阿部司さん(41)は「繁殖の難しい魚だが、次第に条件が整い、今年は成果を期待できそう。屋外での繁殖がうまくいけば、将来の種の存続に役立つ」とエールを送る。天然記念物を所管する文化庁文化財第2課も「飼育環境での繁殖サイクルの確立につながる」と期待する。

 守る会の小林一郎会長(79)は「貴重な生物を絶滅から守るだけでなく、活動を通じて地域の自然環境を守る機運をもっと盛り上げたい」と話す。

 山陽新聞社は地域の課題解決や新たな魅力創出を図る「吉備の環(わ)アクション」を展開中。守る会の取り組みを紙面掲載などでバックアップする。

 アユモドキ 体の形や色がアユに似たドジョウ科の魚。体にはしま模様がある。体長は15~20センチ。日本固有種で、現在は岡山市と京都府亀岡市の一部にしか生息していないとみられる。環境省のレッドリストでは、絶滅の危険性が極めて高い「絶滅危惧1A類」に指定されている。

アユモドキ

© 株式会社山陽新聞社