肉食解禁! バーベキューの季節

メモリアルデーを皮切りにバーべキューシーズンが始まる。サマータイムのおかげでゆったりと流れるトワイライト時間を有効利用。裏庭であるいは公園の公式バーベキュースポットで極上の肉を夕風に吹かれながら頬ばる…これぞ米国生活の醍醐味だ。(取材・文/中村英雄)


話題の和風ステーキハウスのシェフに聞いた

家庭でも出来る美味しいバーベキューのコツ

超有名ステーキハウス「P」を上回る評価を得て市内でもナンバーワンと目されるソルト + チャコール。同店でエグゼクティブシェフを務める平場康信さんにプロの焼き手シェフの立場から、家庭バーベキューへのアドバイスをいただいた。

─お店について教えてください。ものすごい人気だそうですね。

おかげさまで木金土は予約で満杯です。当店は、市内で唯一、炭火焼と和牛を売り物にしています。お客さまは、和牛の味わいと炭の直火独特のスモーキーな醍醐味に惹かれるのではないでしょうか。ご存知のように炭火焼の遠赤外線効果があります。真っ赤に焼けた炭火が放つ光線が肉を奥底から調理して旨味を引き出します。

市内でもこの店にしかない特注の炭火焼専用グリル

─ご自慢の炭火焼の技をバーベキューに活かすなら?

炭はブリケット(着火加工成形炭)よりはハードウッド・チャコール(黒炭)を使います。着火までに若干時間を要しますが、白い煙が消えて炭が赤くなり2割程度焼けたら強火の状態になり準備完了。あらかじめ室温に戻しておいた肉をグリルに載せます。

─下味などはつけたほうが良いのでしょうか?

いいえ。塩だけで十分。変なマリネは一切不要です。最初はとにかく強火で5分ほど焼いて外皮がパリッとなったら一旦、火から外し、カバーをして5分ほど冷まします。その後、弱い火力で約8分じっくり炙ります。焼くと言うよりは、肉の内部を温める感覚です。

─焦らずにゆっくり時間をかけて焼くのですね。

はい。2度目の焼きが終わったら同じく5分休ませて、仕上げに強火でもう一度5分ほど焼きます。指で押してみて押し返す弾力があれば食べごろです。心配だったら少しナイフで切って断面を見てもいいでしょう。大事なのは焼き上がり後、さらに2〜3分置くこと。この段階で肉の中はまだ「エキサイト」している状態。ここで切ったらせっかく時間をかけて中に貯めた肉汁や旨みが全部飛び出して台無しです。少し「カームダウン」させて、味を肉に染ませるのがコツです。

焼き始めは強火で。遠赤外線効果で肉の内部から調理する

─ビーフ以外の肉を炭火で焼く時の注意点も教えてください。

バーベキューにラムチョップは最適です。塩麹で一晩マリネしておいたものを焼くと最高に美味しいです。塊で焼くときは、ビーフ同様、ブレイクを入れて、スライスされたものだったら休みなしに中火でストレートに焼きます。

一方、魚や、エビ、貝類などは、弱火でじっくり焼くのがいいです。途中のブレークは必要ありません。事前に少しオイルでマリネしておくとグリルに付着しないできれいに焼けます。

野菜は、ピーマン、エリンギ、サツマイモなど。あと、珍しいところではエンダイブが美味しいです。じっくり焼いて塩とオイルだけでいただけます。

「ポーターハウス」。炭火特有の香ばしさと甘味を帯びた柔らかい肉質が自慢

お話を聞いた人

平場康信シェフ

NY在住14年。ラッパーから飲食業に転向。焼き鳥専門シェフとして活躍したのち6年前から同店へ。「毎回違う肉のキャラクターに合わせて瞬時にベストの焼き方で対応する、その姿勢って音楽と同じ。アートです」と語った。鹿児島県出身。

Salt + Charcoal

171 Grand St., Brooklyn, NY 11249

TEL: 718-782-2087 / saltandcharcoal.com

ニューヨーク最大の和牛を卸す「お肉屋」さんが教える

アメリカン・バーベキューの極意

とかく自己流でやって「盛り上がったけど肉の味は二の次」みたいなバーベキューが多くないだろうか? 失敗しないためのコツを肉の専門家に聞いた。


脱カルビ宣言

ニューヨークの在住日本人にバーベキューでどんな肉を焼く? と質問をすると、ほとんどの人が、「ハンバーガーかカルビ」と答える。カルビは脂分が豊富でジューシーな食感。焼肉レストランでお馴染みなので定番なのは納得できる。だが、牛肉には25以上の部位があり、バーベキューに適した「未知のビーフ」もたくさんある。

「カルビが美味しいのは当たり前、でも脂肪分が多く分量が食べられないので、バーベキューでは最後に少し出すぐらいで十分」と断言するのは、トモエフードUSAの竹重直樹社長。 同社は、ニューヨーク市内の高級レストランを顧客に抱え、和牛のシェアではナンバーワンを誇る精肉卸業のエースだ。

「僕が今いちばん推奨するのはイチボですね。モモ系の部位ですが、適度にサシ(脂肪交雑)が入っていて甘みがある上に、赤身特有のビーフらしい味わいがあります」と竹重社長。

ただし、赤身を美味しく食べるには相応の焼き方を知らなくてはならないという。ならば「ぜひ実戦で」と説得してご自宅の週末バーベキューにお邪魔した。

肉の選び方

バーベキューを美味しく楽しむための大前提は、食材の肉の選別。「正直言って、街のいわゆる「高級」スーパーで売っている赤身肉でもUSビーフでは役不足です」と手厳しい一言。

市内で買える肉は大きく分けて「USビーフ」、「US和牛(和牛とUSアンガス黒毛牛を掛け合わせた混合種)」、「和牛」の3種だが、バーベキューを成功させるためには、せめてUS和牛の赤身を用意したい。「US和牛のイチボ、ミスジ、ハラミと言った部位がとても美味しいです」と竹重社長。高級部位に負けない品質でお値段が手頃なのが魅力だ。

肉の切り方

日本人には網焼きというと薄いスライス肉をちょろっと炙るイメージが強いが、米国では肉を厚く切るのが常識だ。「赤身肉は最低1インチぐらいの厚さで焼いてください。そのために肉は塊で購入するか、肉屋さんで部位指定した時に、厚く切ってもらうことが大事です」分厚く切らないと肉は角の部分から焦げやすく、旨味を損なう。

肉は厚切りが基本。できれば塊で購入して自分で切るのが最良。写真はイチボ

肉の焼き方

火加減が何より大切だ。「最初は強火で、厚く切った肉の表面に焼き色がつくぐらい炙る」と竹重社長。「あとはこまめにひっくり返し、何度も『寝かせる』ことが肝要。」

『寝かせる』とは、焼いている途中の肉を一時グリルから外したり低温にするなどして、加熱に休憩をれること。「『寝かせる』と分厚い赤身肉の中に旨味や脂分が封じ込められ、柔かいけど適度に歯ごたえのある肉になるのです」。

焼き上がりの目安は、肉の硬さ。トングで肉の表面を押してみて反発がなければ、中はまだ生焼け。「多少経験が必要ですがやっているうちにわかります」。加熱から15分。

「これで完璧と」社長が太鼓判を押した赤身イチボ。焼きあがり後、数分冷まして、スライスしていただく。多少抵抗はあるもののゆっくり歯が沈む快感。噛むほどに染み出す肉汁は旨味に溢れ得も言われぬ満足感が口中に広がる。しかも、あとを引く美味しさで、いくらでも胃の腑に入る。夏の週末、バーベキューの真髄に触れた。

バーベキューで色々な部位に挑戦してみよう。写真はハラミ。トングで押しながら焼き上がりのタイミングを弾力で確認

こまめに肉を「寝かせる」のが美味しく焼き上げるコツ。

家庭で大勢の客を招く場合はガスが便利。竹重社長の愛用グリルはガスと炭の併用仕様

いい肉を買うならここだ!

街のスーパーでは、モモ系の良質な赤身肉はなかなか手に入らない。また店頭にあったとしても薄くスライスされていて「厚焼きバーベキュー」には適さない。精肉専門店に出向いて、直接、カットしてもらうのがベスト。例えば、ハーツデールにあるこのお店など。

Frontier Market Japanese Food & Deli

TEL: 914-831-3900

18 N Central Ave., Hartsdale, NY 10530

frontier-food-deli.edan.io

おすすめ部位の紹介

バーベキューといってもどんな種類の肉を購入したらいいか悩んでいる人に是非おすすめな部位がこの3つ!

とにかく柔らかいので、野外で食べるバーベキューに適しているという。


イチボ 英名:Aitchbone

牛肉の王様と呼ばれるサーロインとよく似たキャラクター

部位としてはもも肉だが、脂肪分とのバランスがよく食感は柔らかい。サーロインと同等な味わいと旨味があり、牛一頭から取れる量はわずか2〜4キロで希少部位とされる。H型の牛尻の骨に由来する。


ミスジ 英名:Top Blade

牛の肩甲骨の裏あたりに位置する「ウデ肉」

断面を見ると、真ん中に一本すじが入っているのが特徴的。肩からウデにかけてはよく動かす部位で硬いのが特徴だが、ミスジの位置する、肩甲骨の裏はあまり動かさないため、霜降り豊富。柔らかくとても食べやすい部位。


ハラミ 英名:Skirt Steak

横隔膜にある筋肉の一部を指す柔らか肉

見た目も食感も赤身肉に似ているが、実はホルモンと同じ内臓系に分類され、牛一頭から2~3kgほどしか取れない。肉の味が濃くて旨味たっぷりの牛ハラミは、加熱しても固くなりづらく、ほどよく弾力がありながらも柔らかい。


バーベキューのできる公園はここ!

ニューヨーク市内では公共スペースでの調理や火の使用が制限されている。セントラルパークやバッテリーパークなどバーベキューのできない公園も多い。公園局のウェブサイト(以下参照)に詳しい情報が記載されているので参照のこと。ちなみに、バーベキューは公園内の指定エリアでのみ催行可能、プロパンガスの使用は禁止、18歳以上の成人が監督できること、などなど基本ルールを守って楽しんで欲しい。

(以下参照)公園局のウェブサイト: nycgovparks.org/facilities/barbecue

マンハッタン

ランドールズ島パーク

都会の喧騒から離れて楽しめる自然豊かな公園。マンハッタンやブロンクスを眺めながらピクニックやバーベキューが楽しめる。

モーニングサイド・パーク

独立戦争初期にイギリス軍と戦った「ハーレムハイツの戦い」の舞台となったことでも有名。歴史に触れながらのバーベキューはニュ

ーヨークならでは。

リバーサイド・パーク

ランニングやサイクリングコースとして知られている同公園でもバーベキューは可能。ハドソン川を眺めながら食べる肉は格別!


ブルックリン

プロスペクト・パーク

夏は野外フェスやイベントが開かれ多くの人で賑わう。グリルは早い者勝ちなので争奪戦は早朝から行われるという。

マッカレン・パーク

ソフトボール球場がある同公園のドリッグス・アベニュー側にグリル&テーブルが設置されている。昨年、のパークハウスがリニューアルし、公共トイレは比較的新しい。

ブルックリン・ブリッジ パーク

絶景リバーフロントの公園。ピア4と5の間にグリルが並び、夕陽を眺めながら食べるバーベキューはデートにもおすすめ。


クィーンズ

フラッシングメドウ・コロナ・パーク

大きな地球儀がシンボルの万国博覧会の跡地としても有名な公園。

クィーンズブリッジ・パーク

クイーンズボロ橋のたもとにある公園で、夏には花火を眺めながらのバーベキューも人気なんだそう。


ブロンクス

ペラムベイ・パーク

地下鉄6ラインの始発駅としても知られている。緑豊かで同区の中でも比較的静かなエリア。週末になると地元の人で賑わう。

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