2024年春、東海地区初の建築学部を設置予定 自分が変わる、未来を変える――渡邊慎一新学長、大同大学の未来を語る

2023年4月に就任された渡邊慎一大同大学学長。「こたつ」の研究で博士号を取得されたように、建築学とは、熱や光など、人の生活、暮らしに関わる住環境のすべてを包括したものであるとお考えです。1964年の大学創立以来、産業界との関わりを重視してきた大同大学について、また2024年に新設される建築学部についてお聞きしました。

実学主義のもと、企業で活躍する人材を育成

本学は1964年、中部地区の産業界31社の強い要望に応えて設立されました。この経緯から、建学の精神は「産業と社会の要請に応える人材の養成」、教育理念は「実学主義」です。現在でも、大同特殊鋼株式会社からの寄付で立ち上げた「モータ研究センター」では、共同研究を通して学生を教育し、企業で活躍できる人材の育成、技術者の養成を図っています。

教員構成は、80名の専門学科の教員のうち約半数を企業出身の実務家教員が占め、実践的な教育・研究を展開できる体制になっています。もちろん、実学教育に偏重しているわけではありません。各教員の研究は多様で、社会ですぐに役立つ研究だけでなく、基礎研究にも力を入れています。入学してくる学生の興味も千差万別ですから、実学に捉われすぎることなく、自らのやりたいことに取り組んでもらうよう指導しています。

2020年には、社会の急激な変化に対応すべく、行動指針「DAIDO VISION 2030」を策定しました。2030年における大同大学のあり方、そこへ向けてどのような人材を育成すべきか、私たちが提供すべき学びとは何かなどについて、教職員で議論を重ねて集約したものです。合い言葉は「自分が変わる、未来を変える。」そこに関わってきた一人として、私は学長としての抱負も、この文言に託しました。

本学に入学してくる学生には、少しでもいいので自分を変えることから始めて、大学4年間で自己を変革してほしいと伝えています。そのことで自分の未来だけでなく、世の中の未来も変わっていくはずだから。教職員に対しても同様で、自分が変わることで学生の未来、大学の未来、社会の未来を変えることにつなげてほしいのです。

大学を取り巻く状況は厳しさを増していて、現状維持では立ち行かなくなる。学生にとって少しでも良いと思われることには積極的にチャレンジするなど、できることから一歩ずつ、大学改革を進めていきたいと考えています。

→総合的な建築学の構築を目指して

総合的な建築学の構築を目指して

改革の一貫として2024年春、建築学部(仮称)を新設する予定です。現在、建築学部は全国の11大学に設置されていますが、東海地区では初です。

一般的に建築学は、建築物の構造や材料などを研究するという側面から工学の一分野とされています。しかし一方で、建築物やそれを含む景観を豊かなものにするためには、建築史で古今東西の建築物に学んだり、将来の建築のあり方を文化の側面から考えたり、美しさやデザイン性など、芸術的な側面からアプローチする必要もあります。また近年は、生活や都市の環境に加え、防災や災害からの復興なども視野に入れるといった、社会科学からのアプローチも求められます。このような観点から、これまでの工学部建築学科の枠組みを超えた総合的な学問領域として、建築学の拠点を立ち上げたいと考えました。

2021年には、建築を学ぶために様々な工夫を施した「X(クロス)棟」が竣工、共用を開始しました。素材にこだわり、空調設備や配管など、通常では隠してしまう部分もあえて見えるように設計するなど、すべてが建築学のための≪生きた教材≫となるよう設計してあります。また、学生の動線や、実験材料の搬入経路など、教育・研究活動における利便性にも最大限配慮しました。

文系への門戸をさらに拡大

現在の建築学科においても、文系の学生に門戸を開くため文系型の入試を実施しています。新設する学部では、文系の学生がさらに受験しやすいように文系科目だけで受験できるように入試制度を検討しています。

一方で入学後の授業はもちろん、建築士の学科試験においても「数学」や「物理」など理系科目の知識は必要となります。本学では、「数学」、「物理」、「化学」、「英語」の高校までの履修範囲について、教員1名につき、学生4名程度の少人数によるリメディアル教育を実施する『教育開発・学習支援センター』を設置しており、学生のサポート体制は充実しています。

私自身、これまで文系学生を多く指導してきた経験から、文系だから建築を学べないということはないと考えています。新学部においては、門戸をさらに広げ、入学してくる学生にはこれまで以上に力をつけて送り出したいと考えています。

人気の「かおりデザイン専攻」がさらに充実

建築について総合的に考える時、建築物内部の環境、具体的には熱や光、空気なども研究対象とする必要がでてきます。その中で、「かおり」にフォーカスして教育研究しているのが、2008年設置のかおりデザイン専攻です。

「かおり」には、人の体臭やペット臭をはじめ、建築の材料である木や樹脂の匂いも含まれます。人が快適に感じる≪良いかおり≫をどう作るのか、人が不快に感じる≪嫌なにおい≫をいかに消臭していくのか、あるいはホルムアルデヒドなど、新建材から出るアレルギー物質の問題なども扱っています。

定員は25名と小規模ですが、大学の建築教育で「かおり」について体系的に学べる数少ない専攻で、「かおり」の専門家によるユニークな教育・研究の他、企業との共同研究が多いのも特徴です。

→工学女子育成では時代を先取り

工学女子育成では時代を先取り

最近、工学系の大学・学部では、工学女子を増やそうと、入学者選抜に女子枠を創設する動きが話題になっていますが、本学では25年前から「女子特別推薦」を行なっています。もともと工業大学ということもあり男子学生が多い中、興味関心があれば性別を問わないという考え方からスタートしたものです。

15年ほど前には「女性専用ルーム」を設置、学部・学科を横断した女子学生同士の交流を促進してきました。そのためか、最近では、もともと女子の入学者の多い建築専攻、インテリアデザイン専攻やかおりデザイン専攻だけでなく、機械系、電気系学科でも女子の入学者が増えています。これは、女性が働きやすいように、企業が職場環境の改善を進めてきたことが少しずつ実を結び始めているからかもしれません。

2年次で建築設計の実務体験ができる授業――伝統のDラーニング(Daido:大同、Design:デザイン、District:地域、Dream:夢のD)

建築設計の授業の多くは、架空の敷地に架空の建物を建てるという設定で行われます。そんな中、本学では20年以上に亘って、「Dラーニング」と呼ぶユニークな授業を開講してきました。工務店と連携して、実際に家を建てようと考えているクライアントに協力していただき、現実の敷地で現実のクライアントの要望に基づき、学生が設計・デザインを提案するというものです。

2年次前期の必修科目『建築設計Ⅰ』で実施しています。もちろんまだ2年次ですから、十分な専門知識はありません。しかし多額の資金を用意して土地を購入し家を建てようとしているクライアント相手ですから、図面引きや模型作りには自ずと力が入ります。

そして最終的には、クライアントに向けてプレゼンし、真剣な質問をたくさん受けてそれにきちんと答えるところまでやり遂げます。学生は主体的に学びを深め、しかも建築設計の実務に近い経験の中から、設計の面白さとともに自分に足りない知識やスキルも見出すことができ、以後の学習意欲が駆り立てられます。

ちなみに「Dラーニング」は、2004年に文部科学省による「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」:テーマⅠ「地域活性化への貢献」に採択された建築学科のプログラム(「工住混合地域の街並形成へのデザイン提案」)で、そこに盛り込まれた10のプロジェクトの内の一つ、「街頭沿いの住宅」に始まる息の長い授業科目です。

建築だけでなく、今後、このような取組を他学部、他学科に拡大していくことができれば、本学に入学する学生の多くが、これまで以上に学びの面白さに気づいてくれるのは間違いありません。そんな学びと出会える4年間をいかに提供できるか、これから、これまで以上にそのことに注力していきたいと思っています。

大同大学

渡邊 慎一 学長

学位:博士(工学)

略歴:
1969年、静岡県下田市に生まれる。1991年 名古屋工業大学 卒業。3年間の建築設計の実務に携わった後、1994年 名古屋工業大学大学院に入学し、1999年 博士後期課程を修了。室内および屋外における暑さ寒さの研究を行っている。特に、日傘、炬燵、焚き火、運動会など、ユニークな研究を進めている。現在、日本生気象学会 熱中症予防研究委員会 委員長。大同大学学長。博士(工学)、一級建築士。

研究業績一覧:
https://researchmap.jp/read0055579/

受賞:
1999年にコタツの研究で「日本建築学会 東海賞」を受賞
2015年に日傘の研究で「人間-生活環境系学会 論文賞」を受賞
2018年に運動会の研究で「日本生気象学会 論文賞」を受賞
2019年に着衣人体の日射吸収率の研究で「人間-生活環境系学会 論文賞」を受賞

【連絡先】

〒457-8532 名古屋市南区滝春町10−3

大同大学 入試・広報室

E-mail:

nyushi@daido-it.ac.jp

Tel: 052-612-6117

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