デザインとサービスで生み出す新たな充電インフラ【プラゴCEO 大川直樹氏インタビュー】

EV充電器などを展開する株式会社プラゴ(以下、プラゴ)は、「充電体験・充電時間のデザインをする」企業。周囲の景観との調和を重視した充電器の意匠性は際立つ。また、アプリによる充電予約、EVによる観光の提唱などそのサービスもユニークだ。

充電サービスとデザインを掛け合わせた希少な事業を行うプラゴの大川直樹代表取締役CEOに話を聞いた。

広告会社、自動車部品の製造業を経験、無形×有形で価値創る

――プラゴ設立の背景からお話しいただけますか?

プラゴ以前の私の経歴から話します。私が最初に就職したのは電通で、9年弱勤務した後、30歳でブレーキ部品をはじめとする自動車部品を製造する家業の大川精螺工業の経営に転じました。無形商材の世界からものづくり、有形商材に移ったわけですが、有形・無形の価値を融合させることで世の中に新しい価値を提供できるという思いはずっとありました。

その思いを形にできたひとつが大川精螺工業の新規事業として手掛けた太陽光発電によるLED街灯「TRUST ONE」でした。その時に現在プラゴのCDO(チーフデザインオフィサー)を務めるデザイナーの山﨑晴太郎と出会い、TRUST ONEという名前に込める意味や、なぜ大川精螺工業がこの製品を作るのかストーリーを一緒に考えるところから始まり、ただのプロダクトではない、デザインされたサービスを世に送りました。

使い勝手の悪さ実感から充電をデザイン

――その経験からどのようにプラゴ設立につながるのでしょうか?

CASEが話題になる中で、自動車業界に身を置く者として2017年にEVに乗り始めました。乗り心地も走りもすごくいい半面、充電インフラが整っていませんでした。EVで旅行したとき、道中や宿泊場所に充電器がなく、バッテリーが残りわずかな状態で翌朝どうにか見つけた急速充電器は、充電渋滞で2時間待ちました。この体験は何なんだろうと思ったのがプラゴが生まれたきっかけですね。

――どのように感じたのですか?

充電器の数が足りないだけでなく適切な場所に置かれていないこと、サービスとして使い勝手が悪いことを実感しました。まず泊まるところに充電器があったらいいし、旅行前に充電の予約ができたり、旅先でも検索したり、簡単に決済できたりしたらいい。どうしてこんなにサービスがデザインされていないのかと課題に感じました。

そこで世界の充電サービスを調べ始めると、海外ではニューヨーク市場に上場するような企業が複数生まれる一方、国内の業界は盛り上がっているとはいえません。環境を調べてみると、もともと私がやりたいと思っていた無形・有形の価値の融合、ユーザー体験をデザインすることで新しい価値の創造ができる領域だと思いました。

それで今後の生活や移動に必要なEV充電という新しい社会インフラにはデザインの力が必要だと18年に山﨑に相談をしました。山﨑はデザインで社会をよくしたいという思いを持っていて、私に共感してくれて共同創業者としてプラゴを設立しました。

――多様なパートナーシップを組んで、事業を拡大しています。

サービスとデザインを両立させた新しい社会インフラとしてEV充電を普及させることは、自社の力だけでは成し遂げられません。プラゴの提案に共感してくれる企業さんなどパートナーに助けてもらいながら、またはパートナーが主体となってプラゴのアセットを使う形でもいい。新しい社会を作っていければと思います。

また、事業拡大にあたっての資金調達では、21年にベンチャーキャピタルの株式会社環境エネルギー投資さんから出資いただいたのが最初で、複数の事業会社さんから累計で約7億円を出資いただいています。プラゴ設立後も大川精螺工業の社長を兼務していましたが、周囲から事業への大きな期待も頂いていたので22年1月に大川精螺工業を退任し、プラゴの経営に専念しています。

充電前後で楽しい体験提供、EVユーザー増やす

――現在のプラゴのサービスについて詳しくご説明いただけますか?

プラゴのビジョンは「続けたくなる未来を創る」です。充電機能にとどまらず充電前後の体験もデザインして、EV充電を使い勝手よく提供することが大事だと思います。

ガソリン車の給油とは異なり、EV充電は旅前からどこに充電器があるかを探し、充電器がある場所に行ってみたら、その道中や充電中に新しい出会いがある。そうした体験、新しい旅を提供する。EVに乗ってよかった、楽しかったという体験を創っていければEVを選択する人が増えて、結果としてサステナブルな社会が実現すると考えます。

目指すサービスは、EVに乗る人からも、充電器を設置する施設からも「あってよかった」と言われるサービスです。EVユーザーは充電できる場所に行きたい、施設はお客様を増やしたい、リピートしてほしいと思っている。両者をつなぐ体験を創造しようとしています。

25年度までに充電器1万基という目標はありますが、大事なのは質と満足度です。ユーザー、施設の満足度を上げ、充電器の稼働率をナンバーワンにすることを目標にしています。「●万基を設置」というアプローチをとらない唯一の会社だと思います。

――ユーザーや施設の満足度を高める取り組みとして、例を挙げていただけますか?

ユーザーの立場でサービス設計をしているということです。

アプリ「Myプラゴ」は日本初の公共の場にある充電予約ができるアプリであり、クレジットカードやPayPayなどのキャッシュレス決済で簡単に使えます。そして、アプリでクーポンを配信することにより施設内や周辺の店舗で充電時間を有意義に過ごせます。定額制サービス「プラゴ定額」も、日々の充電をお得で便利に使えるよう提供しています。

また、急速充電器「PLUGO RAPID」の連続使用時間は一般的な30分でなく60分にしています。30分は買い物や食事にも足りない、充電に縛られてしまう短さだと考えているからです。

また、「グリーン充電」もプラゴの特徴です。すべての充電器で再生可能エネルギーによるCO2実質排出ゼロの充電を提供しています。

ハードからアプリまでデザインで築いた地位

――プラゴの強みについて教えてください。

統一したデザインのもと、ハードもソフトもIoT基盤もアプリも作り、デザインもできる、充電前後の体験を一貫して提供している会社は他にありません。充電器はファブレスで手がけながら、プロダクトデザイン、内部の機構設計、普通充電器はモジュールの設計もしています。

トータルで提供する強みの具体例を挙げると、充電予約です。ユーザーが予約したら、駐車スペースにあるバリアが立ち上がる・充電器が赤く光る、こうした機能により、予約していない別の車は止められない仕掛けにしています。アプリだけでも充電器だけでも成り立たず、その両方を開発しているプラゴだからこそ提供できる機能です。私が必要を感じてプラゴを創業し、充電予約は絶対に外せないと思ったこともあって、ハードウエアからトータルで開発しています。

本社近くの駐車場に設置されている急速充電器PLUGO RAPID

充電を開始すると写真左下の黄色いバリアが立ち上がる

都市の充電環境と観光地のにぎわい創出に注力

――現在、力を入れて取り組んでいることは何ですか?

今、集中しているものが大きく3つあり、一番力を入れているのは人口集中地区の商業施設における「マイ充電ステーション」です。例えば東京都内には自宅に充電器がないEVユーザーが4割いるとみられますが、そうした方でも、日々立ち寄る場所でお買い物をしながら、ジムに通いながら確実に充電できる場所として「マイ充電ステーション」の概念を提唱しています。充電という新たな習慣を生活ルーティンの中に織り込むという考えです。

2つ目が観光地、自治体との取り組みです。長野県の軽井沢町や小布施町、埼玉県の長瀞町と包括連携協定を結んでいます。そこで何をしているかというと、我々が「グリーンロードプロジェクト」と呼んでいるEVで行きやすい観光地を増やす試みです。

EVユーザーの67%が遠乗り用のガソリン車も保有していますが、遠方でもEVで行けるほうがいい。何台充電器を置けばEVユーザーが来てくれるかを自治体と一緒に考え、設置をしています。充電中にレンタルの電動自転車や小型モビリティで地域を回遊してもらえば人流を作ることにも貢献できると考えています。さらに、軽井沢ではNTTドコモさんとも協働して充電ステーションを拠点とする回遊性向上の実証実験を行っていきます。

3つ目が目的地施設での充電です。ゴルフ場やホテルに対し、予約しておけば帰るまでに十分充電されている、移動の安心と快適を叶える新しいおもてなしを提供しましょうと提案しています。

――買い物などのスポットと一体化した充電ステーション「PLUGO PLACE」を遊休地に設置する構想もあります。

長野県観光機構と国道沿いの遊休地に充電器を何台か並べた小さなステーションを作り、フードトラックで地元の特産品を食べられたり電動モビリティで近くを回れたりといった土地の活用を提案しています。ビーナスライン沿いに点々と作れば東京から白馬までEVで安心して行けるグリーンロードができます。詳細は検討中ですが、今年中に形にしたいと思っています。

海外展開も視野、新しい社会を作る

――足元の事業の展望をお聞かせください。

したいことはいろいろありますが(笑)、軽井沢や長瀞のEVツーリズムのモデルを日本全国に横展開したいですし、都市型のマイ充電ステーションも必要な場所に適切な数を置き、拡大させたいと思っています。

――3年くらい先の中期展望はいかがでしょうか。

日本だけでなく世界中でEV普及は進みます。プラゴのアセットをグローバルに社会実装していきたいと思います。昨年ロンドン、オスロの展示会に出展し、一定の評価を受けました。海外展開は中長期的に注力したい課題です。すでに海外のパートナー企業と連携し、我々の技術の一部を使う検討が始まっています。いろいろな方法があると思います。

――ところで、多くの自動車部品メーカーがEV対応に直面しています。部品メーカーのとるべき施策、生き残り策についてお考えをうかがってもよいでしょうか?

大川精螺工業で製造しているブレーキ部品は、EVにも採用されているので電動化で仕事がなくなるというものではありません。とはいえ、私は、部品製造だけでいいんだっけ?という危機感はもっていたのでプラゴという新しい事業を始めました。

いろいろなところに事業のチャンスがあり、電動化にもチャンスがあります。部品製造にとらわれず事業を創造していくことが大事ではないでしょうか。オライリーの「両利きの経営」でいうところの「深化と探索」で、部品製造のコストを下げるという深化に加えて探索という視点を持つ両利き経営をしていくといいかと思いますね。

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