【コラム】マカオのジャンケットプロモーターの現在地と展望(WEB版)/勝部悠人

かつて興隆を誇ったマカオのカジノ仲介業(いわゆるジャンケットプロモーター)だが、カジノ売上のマスシフト、2018年末の大手事業者トップの相次ぐ逮捕、コロナ禍での渡航制限、改正カジノ法による規制強化など、近年は大きな逆風にさらされ、その経営環境は厳しさを増している状況だ。

マカオのカジノ規制当局にあたるDICJが年初に公表した2023年1月1日付の最新リストによれば、ライセンス獲得事業者数は36(個人事業主ゼロ、すべて法人)にとどまった。前年から実に49の大幅減。2014年以降、9年連続で減少となっており、ピークだった2013年の213との比較では実に2割以下まで落ち込んでいる。

直近で最も大きなインパクトを与えたとみられるのが、2023年1月1日に施行された改正カジノ法だ。カジノ経営権契約の更新時期に合わせるかたちで約20年ぶりとなる大幅改正がなされたもので、2021年下半期のパブリックコメント実施時に大枠の方向性が示され、2022年にかけて具体的な法案の内容が明らかとなったが、カジノ仲介業者の経営に厳しい制限がかかった。

具体的に例を挙げると、仲介業者とカジノ運営会社の間でのカジノ売上の分配が禁止され、仲介業者はカジノ運営会社のうち1社としかサービス提供契約を結ぶことができず、またカジノ運営会社から収受できるのはカジノ活動のプロモーションのためのコミッション(純ローリング総額の1.25%)のみで、5%の税金を掛けるといった具合だ。他にも適格要件や担保金といった様々なハードルが設定された。事業者数が一気に減少するのも当然といえるだろう。

とはいえ、事業者数がゼロになったわけではない。経営環境が大きく変化した中でも、36事業者が存在しているのもまた事実だ。リストには、以前マカオの街角で送迎車や看板などを見かける機会も多かったサンシティ、タクチュン、メグスター、ネプチューンカントン、ゴールデンといった大手事業者の名はなく、中小零細が主と見て取れる。これらのうち、どの程度が実際にカジノ運営会社との契約締結に成功したかの公開資料はないが、現地新聞報道によれば多くないという。

マカオのカジノ粗収益(=GGR)はウィズコロナ転換による水際措置の大幅緩和を受けてのインバウンド旅客数の回復に比例して、今年に入って以降は順調に推移している。1~3月累計で前年同時期から94.9%増の346.42億パタカ(約5700億円)だが、コロナ前2019年比では半分程度だ。目下、インバウンド旅客の回復ペースが安定的に持続する中、GGRも追随高が予想される。仲介業者としては、マカオのカジノ市場に活気が戻る日に向け、改正法施行後の新環境に適応しながら、ビジネスチャンスを模索することになるのだろう。

なお、中国本土では、居民を境外のギャンブルに誘引する行為を禁じる法律が施行されている。中国の特別行政区であるマカオが境外の範疇に含まれるかどうか見解がはっきりしていないこともあり、仲介業者の間では中国本土客ではなく、香港や外国人客をターゲットにする動きが見受けられる。

実は、新コンセッションの入札において、政府はカジノ運営会社に対して中国本土以外の海外からの誘客促進を求め、改正カジノ法ではカジノフロア内に海外客専用のエリアとそのエリア限定のゲーミングチップを設け、それらにより産出されたGGRについては5%の減免を認めると規定された。すでに複数のカジノに海外客専用エリアが設けられている。

マカオと競合する東アジアについて、現在もフィリピンでは仲介業者が得られるコミッション率が比較的高く、かつ制限も少ないとされ、マカオで実績を持つ仲介業者の事業展開候補先として注目されている。そこでターゲットとするのは中国本土「以外の」アジア客ということになるが、マカオのカジノ運営企業が求める海外客をしっかり掴むことができれば、マカオでの活路が開けるかもしれない。

日本では、マカオのカジノからVIPルームがなくなったという誤解もあるようだ。確かに、ジャンケットの看板を掲げたVIPルームはなくなったが、カジノ運営会社の直営のVIPルーム(例えば、サンズ系の「パイザ」など)は存在する。カジノ運営会社にとっては、マス(平場)とVIPの両方が直営となり、改正カジノ法で仲介業者へのコミッション率が規制されたことで、利益率は上がるものとみられる。

マカオのカジノ入口のイメージ(資料)=筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。

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