保護の囲い新しく ハッチョウトンボの湿田、古座川町

ハッチョウトンボが生息する湿田を保護するための囲いを新しくする関係者(和歌山県古座川町直見で)

 和歌山県古座川町直見にある「大谷湿田」で、世界で最も小さいトンボの一種「ハッチョウトンボ」が羽化する時季に向け、町教育委員会が湿田を保護するための囲いを新しくした。朝露をまとった姿が美しいことでも知られるハッチョウトンボは例年ゴールデンウイーク明けには見られるが、近年は生息環境に「異変」が起こっているという。

 ハッチョウトンボの大きさは成虫で2センチほどで、雄は赤色、雌は黄褐色と黒色のまだら模様をしている。ネパールやインド、インドネシアなどの東南アジア諸国からオーストラリアにかけての広い範囲に分布し、日本は北限分布地に当たるとされる。県のレッドデータブックでは準絶滅危惧に分類されている。

 大谷湿田では1992年に多くのハッチョウトンボが発見されたことをきっかけに、町が2001年、この湿田に生息するハッチョウトンボを天然記念物に指定。湿田の周囲に木製の柵やネットを設けるなど保護してきたが、老朽化して木が朽ちてきたため、昨年秋から木の撤去を始めるなど準備をしていた。

 今月21日の作業には、町教委の職員や町文化財保護委員会委員の計7人が参加。前回撤去していなかった木のくいを抜いたり、高さ約1.8メートルの新しい木のくい計約70本を湿田を囲うように打ち込んだりし、最後にロープを張って仕上げた。

 保護委員会の辻新委員長(71)=古座川町高池=は「発生数が少なくなっているが、連休明けには見られると思う。捕る人はいないと思うが、まず捕らないでほしいし、写真を撮影する時も手に取ったり、場所を移したりしないでほしい」と話す。

 また、中には朝露をまとった状態に見せるために霧吹きを使う人もおり「どういう影響があるか分からないのでやめていただきたい」と呼びかけていた。

■メダカの影響を懸念

 一方、大谷湿田では近年、環境に「異変」が起きている。

 関係者によると、以前はいなかったというメダカが多く見られるようになり、その反対にハッチョウトンボが減少しているという。

 辻委員長によると、メダカは外から持ち込まれたと考えられ「なるべく元の自然状態を保つという方針でやってきたが、数年前にメダカが入っているのを確認し、その次の年からハッチョウトンボは激減してしまった」と嘆く。

 その後、経過を観察してきたが、ハッチョウトンボの数は回復せずに少ない状態で推移。「対策を考えてみたい」と話した。

 メダカの影響について、県立自然博物館(海南市)で昆虫を担当している松野茂富学芸員(36)は「ハッチョウトンボのヤゴを積極的に襲うというよりも、無防備で栄養価が高い卵を食べている可能性がある」と指摘。「捕獲では完全な駆除は無理。ヤゴは体が完全に水没していなくても体表面が濡れていれば一定期間は耐えられるので、短期決戦で水を抜き、メダカは死に絶えるけど他の水生昆虫が耐えられる程度の乾き具合を一定期間維持するという方法が対策として考えられる」と話している。

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