<社説>防錆施設移設強行へ 地域住民無視の暴挙だ

 在沖米空軍が嘉手納基地の旧駐機場「パパループ」付近に防錆(ぼうせい)整備格納庫を移設する問題で米軍は移設先を変更せず、地域住民や嘉手納町が反対する当初の予定地に移設する方針を決めた。 28日、小野功雄沖縄防衛局長から説明を受けた當山宏町長は「残念であると言わざるを得ない」と語った。玉城デニー知事も「強い憤りを禁じ得ない」と述べた。

 米軍の移設強行は住環境悪化を懸念する地域住民らの訴えを無視する暴挙であり、到底容認できない。基地機能を維持するためなら周辺住民の犠牲はやむを得ないと考えているのではないか。計画は直ちに中止されるべきだ。

 日本政府は移設計画を明確に拒絶するべきだ。米側の決定を嘉手納町に伝達するだけでよいのか。住民の懸念を受け止め、計画撤回を米側に強く迫らなければならない。

 浜田靖一防衛相は昨年9月に来県した際、當山町長から移設計画の撤回を求められている。浜田防衛相は「米側としっかりと協議していく」と返答したはずだ。なぜ、このような結果に至ったのか、協議の過程を含め、自身の言葉で明確に説明してほしい。

 航空機のさびを除去するための施設と塗装用の施設の2棟を建設する計画である。E3早期警戒機など大型機に対応するため、施設総面積は1万4160平方メートルとなる。米軍は遅くとも2019年4月に計画を立てていたが、日本側に通知したのは22年5月である。3年以上、日本側に通知していなかった。

 22年7月に計画が明らかになり、地域住民は強く反発した。移設予定地が住宅地に近く、騒音や航空機の排ガスによる悪臭が懸念されているためだ。大規模施設が建設されれば住民の基地負担は永続的に続く恐れがある。

 住環境への悪影響を避けるため嘉手納町は昨年9月、代替案として住宅地から約400メートル離れた場所に移設するよう求めた。ところが嘉手納基地の第18航空団は町の代替案すらも拒否したのである。

 嘉手納町議会は移設計画の撤回を求める抗議決議と意見書を全会一致で可決した。県議会も計画の見直しを求める決議、意見書を全会一致で可決した。党派を超えた議会意思が示されたのである。日本政府はこれらの意思表明を直視し、毅然とした態度で米側と交渉をやり直すべきだ。

 パパループの東側にあった旧米海軍駐機場は1996年の日米特別行動委員会(SACO)の最終報告によって基地内の別の場所に移転された。防錆施設の移設を強行するならばSACO合意との整合性が問われることになる。

 沖縄防衛局が嘉手納町と県に米軍の方針を伝えた4月28日は、サンフランシスコ講和条約の発効によって沖縄の施政権が日本から分断された日から71年に当たる。民意軽視の「屈辱」が繰り返されたことを許してはならない。

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