上電の「春のイベント2023」に約1200人来場 昭和初期の電車や鉄道音楽ユニットのライブにファン歓喜【レポート】

西桐生駅に向かうデハ101を大胡駅で撮影。単行(1両編成)で走れるので、保線用車のけん引に使用されることもあります

群馬県前橋、桐生の両市を結ぶ、上毛電気鉄道(上電)の「春のイベント2023」が2023年4月23日、前橋市の大胡電車庫で開かれ、群馬県内や関東一円から約1200人が来場しました。新型コロナによる行動制限の解除を受けた、上電のイベントはほぼ3年ぶりです。

会場では、昭和初期に登場した電車の展示や鉄道音楽ユニット「スーパーベルズ」のライブなどが人気を集めました。鉄道以外の催しも充実させた今回は、鉄道ファン以外の家族連れも数多く来場しました。地元や愛好家団体の上電に寄せる思いも合わせ、イベントの模様をレポートします。

クラシックな電車、EL、貨車を保存

上電は中央前橋―西桐生間の25.4キロ。車両基地と工場を兼ねる大胡電車庫は、前橋市郊外にあります(平成の大合併までは大胡町でした)。現役車両は京王電鉄から譲受された700系電車(旧井の頭線3000系)に統一されていますが、クラシックな車両も保存して正月や春秋のイベントで公開します。

5年後に誕生100年という〝長寿〟にもかかわらず、今も現役で本線走行が可能なのがデハ101。全長16メートルで、角張った車体は、カーブを多用する現代の鉄道車両を見慣れた目には新鮮に映ります。

本線走行はイベントや貸し切り運転に限られ、前橋市のふるさと納税の返礼品としても活躍。今回は午前中は西桐生駅、午後は中央前橋駅で公開され、ファンにシャッターチャンスを提供しました。

黄色い電車、凸型EL、そして貨車も

開業時のもう1両の電車、デハ104はデハ101の同型車。本線走行はできませんが、鮮やかな黄色(カナリアイエローまたはカラシ色とも)に塗られ、ひときわ目立つ存在です。

展示されたデハ104。本線は走れませんが、きれいに塗装されています

凸型電気機関車(EL)のデキ3021は、こちらも戦前の1929年製。東急長津田車両工場で長く入れ換えに使用され、2009年に神奈川から群馬にやってきました。

デキ3021を間近からカメラで狙うファン。午前中の屋外は混雑もなく、車両をじっくり観察するには最適でした

デハ104に連結されたのは、旧東武鉄道の貨車テ241。貨車記号「テ」は鉄製有蓋車、水気を嫌う生石灰輸送に使用されました。

群馬型の上下分離で地方鉄道を維持

イベント紹介に移る前に、少々固い話にお付き合いを。群馬には上電のほか、上信電鉄(高崎―下仁田間33.7キロ)、わたらせ渓谷鐵道(わ鐵、桐生―間藤間44.1キロ)の地方鉄道2社があります。各社、経営環境は厳しいのですが、日々列車が運行されます。

群馬県は地域公共交通の必要性も早くから認識。1998年に上電を対象として「群馬型上下分離」の支援制度を創設。上信、わ鐵にも拡大しました。

一般的な鉄道の上下分離は施設保有と列車運行を分けますが、群馬型は施設、運行共にそれまでと同じ、鉄道事業者が一元的に管理。県や沿線自治体は、施設の維持管理費や車両修繕費を事業者に助成する見なし型の上下分離で支援します。

国は群馬県の制度も参考に2007年、地域公共交通活性化・再生法(通称)を制定。自治体が施設を保有し、鉄道事業者は運行に専念する経営上の上下分離で、地域鉄道の維持・再生を図ります。

デカ11の写真探しにご協力を

大島代表(中央)を囲む上電友の会のトークイベント。戦前の上電に伊勢崎方面への路線延伸計画があったことなどが報告されました

話をイベントに戻して、上電友の会トークショーでは、大島登志彦代表(高崎経済大学名誉教授)と新保正夫、佐羽宏之の両副代表が上電の魅力を語り合い、本サイトをご覧の皆さんにご協力の依頼がありました。

上電が開業時に導入したのは、デハ101~104の電車4両と、荷物室を併設したデハニ50形2両――までは分かっているのですが、実はもう1両、開業翌年の1929年に貨物(荷物)電車のデカ11が製作されました。

上電は2028年が開業100周年で、友の会は記念誌発行などを計画します。ところがデカ11だけ写真がない。上電は貨物需要が少なくデカは1934年、旅客車に生まれ変わりました。ところが電動貨車時代は図面はあっても、写真が見付かりません。

貨車だったのは最初の6年間。車庫で休んでいる時間が長かったのかもしれませんが、ベテランファンの皆さん、もしも情報をお持ちでしたら友の会のホームページから連絡を。よろしくお願いします。

上信、わ鐵、アルピコ、北鉄がブース

会場にブースを構えたのが上信電鉄とわ鐵。群馬県の中小鉄道は県を中心に連携が図られ、3社にJR東日本高崎支社と東武鉄道も加わった5社連携で、「頑張るぐんまの中小私鉄フェア」を定例開催します(2022年は10月に高崎市の上信電鉄本社などで開催)。

さらに、東武博物館、アルピコ交通(旧松本電気鉄道)、北陸鉄道(北鉄)もブース出展。そういえば、アルピコも北鉄も上電と同じ旧京王3000系が主力ですね(最近、アルピコには旧東武20000系、北鉄には旧東京メトロ03系が仲間入りしました)。

「秋のイベントにもご注目」

「春のイベント2023」のレポートは以上。ほかにデキ3021と来場者の綱引き大会、ミニトレイン運転、制服撮影会、運転シミュレーター体験、鉄道模型ジオラマ運転といった鉄道にちなんだイベントが目白押しでした。

「臨時」のヘッドマークを付けたデハ104のミニトレイン。佐羽上電友の会副代表が会長を務める、鉄道や路線バス再生の推進母体「2015年の公共交通をつくる会」が製作しました

鉄道以外でも、ブラスバンド演奏、ピアノとフルートの演奏会などが来場者を楽しませました。来場者には鉄道ファン以外の家族連れも目立ち、バラエティーに富んだ催しが受け入れられたのかもしれません。

最後に、2022年6月に就任した橋本隆社長から本サイトをご覧の皆さまにメッセージをいただきました。「厳しい経営状況が続く当社ですが、公共交通としての使命を果たしながら、ファンの皆さんに喜んでいただける催しを続けたいと思っています。次回は秋のイベントを計画中。その際はぜひ群馬にお越しください」。

記事:上里夏生

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