社説:再生医療 玉石混交の現状、見過ごせぬ

 「再生医療」の名の下に、安全性や効果が不確かな治療が野放しになっていないか。

 そんな指摘が各方面から出ている。身体に被害を受けたり、高額な医療費を支払わされたりするのは患者である。政府や関係機関は実態を把握し、必要な規制を検討すべきだ。

 再生医療は、主に細胞を培養・加工して、十分に機能していない体の組織や臓器を治療する技術である。京都大の山中伸弥教授が開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って、目の病気や脊髄損傷などを修復する臨床研究は期待が高い。

 問題が見受けられるのは、民間の診療所などが、がんや関節、皮膚などの病気をはじめ、顔のしわなどの美容やアンチエイジング(抗加齢)を掲げて行う「再生医療」だ。

 多様な細胞に変われるiPS細胞と異なり、変化能力が限られ、血液や脂肪などから採取できる幹細胞を用いる例が多い。

 この中には治験が十分でなく、科学的根拠に乏しい治療が少なくないと指摘されている。公的保険がきかない自由診療のため、高額の費用を請求され、トラブルになった報告もある。

 国も手は打ってきた。

 2010年に京都市のクリニックで、脂肪から採った幹細胞を投与された男性が死亡した事例などを受け、13年に再生医療安全確保法を施行。再生医療を提供する医療機関は、治療計画を提出し、事前審査を受ける仕組みを導入した。

 だが、審査を担う国認定の委員会は全国に約160あり、質のばらつきが大きいとされる。医師の専門分野と対象疾患が合っていなかったり、委員に関係者が入っていたりするケースがみられるという。

 共同通信の調べで、顔のたるみ改善などをうたい、本人の血液成分に細胞の増殖を促す薬を混ぜて皮下注射する美容目的の再生医療が、約100のクリニックなどで実施可能とされていた。関係学会が診療指針で「安全性を保証できない」と警告しているものだ。

 国の審査会が承認しているため、違法ではないが、しこりなどの合併症を起こす例もあり、危うさが否めない。

 京都大の研究班なども根拠が不十分な「がん免疫療法」などを多数確認したと公表した。欧米で認められていない治療が日本では合法になっていると、海外からは批判されている。

 医療費は全額自己負担とはいえ、美容目的でない場合は税控除の還付対象になる。

 いいかげんな治療に、ずさんな審査で「お墨付き」を与え、間接的でも公費で支えているなら、見過ごしにはできない。

 審査機関の独立性や公平性、透明性を高めることが不可欠ではないか。政府や関係学会も対策を検討中のようだが、国会で法改正の議論を求めたい。

© 株式会社京都新聞社