悩ましい“スパ・ウェザー”のタイヤ選択「コールドの難しさは重々理解している」【小林可夢偉&平川亮第3戦決勝直前インタビュー】

 4月29日、WEC第3戦スパ・フランコルシャン6時間レースは、決勝日の朝を迎えた。前日の予選を7号車がポールポジション、8号車はクラッシュによりノータイムで終えたTOYOTA GAZOO Racingは、小林可夢偉と平川亮のリモート取材セッションを行い、GR010ハイブリッドをドライブするふたりが、ここまでの週末の流れや決勝への展望を語った。

 決勝日朝のスパ・フランコルシャン周辺道路は大渋滞となっていた模様で、現地時間9時からの取材セッションには、可夢偉、平川ともにサーキット到着直後に慌ただしく出席する形となった。可夢偉によればこの大渋滞はWECが盛り上がりを見せている証であり、「スパで高速道路まで渋滞するなんて、F1のとき並み」だそう。

 既報のとおり、前戦ポルティマオで7号車が見舞われたトルクセンサーのトラブルについては、オーガナイザー側と話し合いを持ち、極力“強制ピットイン”を避ける対処法を採ることが確認されている。

「だいぶコンサバティブなトルクを出力する『デフォルトモード』みたいな、エンジンのマックスのパフォーマンスではない、コンサバティブな状態のモードを使うということで、決着したということです」とチーム代表も兼任する可夢偉。

 また、そのポルティマオの決勝では可夢偉がピットロード上にマシンを停めてシステムをリセットする場面も見られたが、原因は解明できていると可夢偉は説明する。

「本当に何万分の1という確率で起こることのようで、結局はECU(エンジン・コントロール・ユニット)なのですが、データ同士がクラッシュして、一気に落ちてしまったという。問題としてはヘビーになるものではないと思っていて、本当にこれは時間と距離とともにひとつひとつ潰していくということが必要です。二度と起こらないよう対策済みでここスパにはきていますので、ここで起きなければ、(ル・マンも)大丈夫かなと思っています」

スパ・フランコルシャンサーキットを走る2台のトヨタGR010ハイブリッド

■ミディアムは「Forever」。低温用ソフトの使い方がカギに?

 スパのレースで大きな焦点となりそうなのが、コールドタイヤでのアウトラップだ。8号車のブレンドン・ハートレーが予選で直面したように、今季からタイヤウォーマーが禁止された状況下で、低温のスパを走ることは相当に難しいようだ。

「スパの低い気温でのコールドタイヤの難しさは重々理解しているので、いつ誰に起こってもおかしくないし、本当に難しい局面なので、レースでもしっかり気をつけながら、でもタイムをロスしないように(やっていきたい)」と可夢偉は言う。

 今回はミシュランからの申し出により、ハイパーカークラスでは『低温用ソフトタイヤ(ソフト・ロー・テンプ)』『高温用ソフトタイヤ(ソフト・ハイ・テンプ)』『ミディアム』という3スペックのスリックタイヤが使用できることになったが、雨〜曇りの天候が予想される決勝では、タイヤ選択は難しいものになりそうだという。

「(3種類のなかでは)ソフト・ローが、ウォームアップは間違いなくいいです」と可夢偉はタイヤのキャラクターを説明する。

「ソフト・ローは1周くらいは間違いなくベストなグリップではなく、2周くらいかかります。ソフト・ハイは、今日のこの曇り空の霧の路面だと、たぶん3周。アウトラップは、昨日のブレンドンでも見たように、本当にゆっくり走っていても突然クルマが抜けたり、そもそもピットレーン(エンド)のコンクリートウォールに刺さるんじゃないかというくらい、まずピットレーンから出るところがグリップしない状態です」

「ミディアムに関しては、この路面温度だと『Forerver(いつまでも温まらない)』です。というか、分からないです、本当に。ただタイヤのもちという意味では、ミディアムが一番いいと思っています」

 可夢偉によればソフト・ハイ・テンプのタイヤは冬のテストの間からグレイニングが起きやすく、今回のFP1でも同様の傾向が見られたという。ソフト・ロー・テンプはウォームアップだけでなく、ライフの面でも悪くないとのことだが、相応のデグラデーションは見込まれるようで、タイヤ戦略は「正直、難しいです」と可夢偉は悩ましい表情を見せる。

金曜日のFP3でウエットタイヤを装着するトヨタGR010ハイブリッド

 一方、「自分はたまたま、全部のタイヤスペックを試すことができた」という平川。暫定グリッド表で、8号車は36番手からセバスチャン・ブエミがスタートすることになっているが、「いまは雨が降っているので……スタートはどうなるか分かりませんが、この順位からでも何が起こるかは分からないと思います」と平川は言う。

 今年からインターミディエイトが廃されたミシュランのウエットタイヤは1種類しかないというが、「自分はダンプコンディションのときにウエットを履いたので、フルウエットのときの性能は分かりません」と平川。

 ただし「ソフト・ロー・テンプが、インターミディエイト的な使い方ができるはずなので、今日のコンディションだとそのあたりがキーになるかなと思います」とのこと。

「(土曜朝の)FP3は、最初はそれなりのウエット(水量)だったのでウエットタイヤで行ったのですが、(水量が少なくなると)結構すぐにダメになる感じはあって、数周するとブリスターができるような状況で。スパは結構早く乾くタイプのサーキットなので、早めにスリックにスイッチするというのは、昨日の状況では正しい選択肢だったと思います」と平川が言うように、とくに雨量が少なくなっていく状況では、正しい決断を下すことが重要になりそうだ。

 いわゆる“スパ・ウェザー”が今年もカギを握ることになるのか。注目の決勝レースはこのあと、現地時間12時45分(日本時間19時45分)にスタートする。

FP3までに4種類すべてのタイヤスペックで走行した平川亮

© 株式会社三栄