『セーラー服と機関銃』NYで上映:相米慎二映画祭開催中。ジャパン・ソサエティーで

By 「ニューヨーク直行便」安部かすみ

グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」@ Japan Society (c) Kasumi Abe

映画監督、相米慎二(そうまいしんじ)氏の映画祭がニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催中。

28日のオープニングイベントには、80年代〜1990年代の相米作品を知る世代のみならず、アメリカのローカルの幅広い映画ファン、日本文化ファンが一堂に会した。

言葉のチョイスとして今では誰も使わない死語や山の手言葉も散りばめられ、時代の移り変わりを感じる。また、この時代の日本映画はおそらく今の時代であればNGな表現も大胆に取り入れられている。ネットもケータイもない時代だが、逆に表現豊かな良い時代でもあったなと思いながら鑑賞した。

(以下、多少のネタバレ含む)


85年『台風クラブ』

工藤夕貴が注目されるきっかけになった映画。写真提供:ジャパン・ソサエティー

初日の『台風クラブ』は、思春期の中学生を題材にした85年の映画。

時はエイティース。バービーボーイズや松田聖子など当時の音楽と共に昭和の木造校舎で展開するストーリーは、私世代には懐かしく、若い世代やアメリカ人には新鮮に映るだろう。

相米氏なりの一つの見せ場、後半部分で野球部員の男子が教室で机や椅子を積み上げるシーン。それは映画が何を伝えようとしているのかを我々に考えさせるに十分な、かなり長回しのシーンだった。映画全体の音として、中学生のわちゃわちゃした音や台風や暴風雨の音がメインだが、所々無音になる。この机を積み上げるシーンでも、「台風の音→無音→小鳥のさえずり」が印象的だった。

このような手法は相米氏の特徴なのだろうか? 唯一当時のブームを知っている『セーラー服と機関銃』。中身はさっぱりわからないので、翌日の作品への余韻を残した。

観客に感想を聞いたら「一風変わって興味深かった」という感想のほか、「あのような中学生は強調されたものか?それとも日本に普通に存在したのか?」などの質問も受けた。写真提供:ジャパン・ソサエティー

81年『セーラー服と機関銃』

写真提供:ジャパン・ソサエティー

81年の代表作『セーラー服と機関銃』(完璧版)。私は観たのかどうかも思い出せないが、この作品があの時代に世間で騒がれていたのだけは覚えている。

女子高生(今で言うJK)がヤクザの親分になる奇想天外なストーリーで、身勝手な大人社会に向け怒りを放つ。やはり同作でも長回しで音の調和が特徴的なシーンがいくつかあった(ヤクザの子分が薬師丸ひろ子演じる泉をバイクに乗せ家に送るシーン。翌日、子分は無残に殺される)

この映画一番の見せ場は後半、泉が機関銃を乱射するところ。現代においては物議を醸すであろうアクションシーンだ。特徴的なサウンドとモーションの中、一世風靡したセリフ「快感(カイ・カン)」が放たれる。またマリリン・モンローよろしく泉がセーラー服にヒール姿で雑踏を歩き、人々に囲まれ、地下から吹き上がる風でスカートがめくれ上がるシーンも印象的。相米氏の思惑をあれこれ妄想する。

写真提供:ジャパン・ソサエティー

劇場に足を運んだほとんどのローカルの人は、この映画のブームも「こ〜のまま〜何時間でも〜抱いていたいけど〜」の薬師丸ひろ子のヒット曲も知らない。何人かに感想を聞いたが、受け止めはさまざまだった。

日本語を流暢に話すアメリカ人に話を聞くと、彼の第一声は「興味深かった」ということだった。一方で話をよく聞くと「難しかった」とも言っていた。「おじん」など死語のせいかと思ったら、そういうことでもないらしい。作品はアメリカ向けに作られたものではないし、当時の状況や文化背景を知らない人にこの映画の真骨頂は少し伝わりづらいのかもしれない。私は「快感」のシーンをもう一度観たかったので大満足。

85年『ラブホテル』

写真提供:ジャパン・ソサエティー

『台風クラブ』と同年の映画だが全く異なり、塗れ場が多め。心から天使になりたい、愛情に飢えた悲しい女性の物語。

ラブホテルの内装が、おそらく今の日本ではあまりないのでは?と思わせる昭和な雰囲気で、面白い壁画を長尺で映し出すカメラワークも興味深し。

主人公・名美が前日に身を委ねた男のアパートを訪ね、男の妻とすれ違う。桜が舞い、大勢の子どもが戯れ...。こちらも特徴的なシーンだった。


グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」(Rites of Passage: The Films of Shinji Somai)は、まだまだ続く。ジャパン・ソサエティーで5月13日まで開催中。

Globus Series

Rites of Passage: The Films of Shinji Somai

April 28—May 13, 2023

ジャパン・ソサエティーとは? 

理事長を取材しました↓

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