ロックの継承とはなんだ? 鮎川誠は日本で最もロックンロールを愛したギタリスト  ロックンロールの継承に生涯尽力した男の生き様と象徴的なナンバーを語る

日本で最もロックンロールを愛したギタリスト、鮎川誠

2023年1月29日、鮎川誠逝去。突然の訃報は、SNSなどを通じて瞬く間に日本中のロックファンに伝わる。突然の訃報というのは、それまで、癌を患い、余命宣告されていたことを公表せず、ギリギリまでライブ活動を精力的に展開していたからだ。

2022年の5月に余命宣告をされた後も何事もなかったかのようにステージに立ち続け、この年は40回以上のステージに立った。生涯メインギターとして弾き続けた1969年製黒いレスポール・カスタムと共に、ファンは誰もが鮎川誠が永遠だと信じて疑わなかったはずである。

鮎川の逝去から3ヶ月が過ぎようとしているが、訃報を知った時の軽い眩暈というか気が遠くなるような浮遊感がまだ僕の身体の奥底に残っている。数多くの追悼文を読み、鮎川が遺したサンハウスやシナロケ、ソロ作品を日々ぼんやりと聴きながら、最近やっと「あぁ、僕らは鮎川誠のいない世界を生きているんだな」と実感するようになった。

ギター雑誌の老舗『ギターマガジン』では4月13日発売の5月号で急遽鮎川誠の特集が組まれた。表紙に書かれたキャッチコピーは「日本で最も愛されたロックンロール・ギタリスト 鮎川誠」だった。まさに言い得て妙であると同時に、鮎川は、「日本で最もロックンロールを愛したギタリスト」でもあったとも思わずにいられない。

理知的な黒縁メガネがトレードマークだった80年代

鮎川誠は、ライブアーティストとして、ギタリストとしてステージに立ち続けると同時に、自らが愛したロックンロールの継承に生涯尽力した。いや、尽力というのは本人が否定するかもしれない。自由な発想で、誰にも何にも縛られることなく、音楽と向き合ってきた生涯だったと思う。

それは例えば、ロックミュージシャンにとってテレビはご法度という時代から数多くのCMやドラマにも出演。80年代は理知的な黒縁メガネをトレードマークとしながら、ロックにさほど興味のない人にとっても、「鮎川さん、あ、ロックをやっている人だ」という印象を残した。つまり、鮎川自身がロックの代名詞であり、ギターを抱えていなくとも、その姿はロックンロールのアイコンであり続けたことは、80年代にロックが市民権を得るまでの経緯の中で大きく貢献していたと思う。

80年代の幕開けにふさわしい名曲「ユー・メイ・ドリーム」

シーナ&ザ・ロケッツの起爆剤となった「ユー・メイ・ドリーム」のヒットによる数多くのテレビ出演もお茶の間から縁遠かったロックとの距離感を一気に縮めた。

「ユー・メイ・ドリーム」は、ロニー・スペクターが在籍したロネッツやシャングリラスなど60年代ガールグリープのドリーミーで煌びやかな世界観を80年代という新たな時代に呼応すべくマッシュアップされた名曲だ。

作曲者である鮎川がこれまで愛してやまなかった音楽たちの集大成であると同時に細野晴臣の類い稀なアレンジセンスにより、ロックンロールをフォーマットとしながら先駆的な印象を残す。79年の12月にリリースされたこの曲こそが間違いなく70年代から80年代へという新たな時代の扉を開けたことになる。

また、1987年に放送されたジャノメミシンのCMでは真っ白いスーツにサングラスという姿で当時小学5年生だった双子の娘と共演。ロックンローラーであると同時に娘を愛する一介の父親である姿が体現されたその映像は、ロック=無頼というアウトロー的なパブリックイメージを覆した。ロックという檻に閉じこもるのではなく、個人個人が自由な発想、ライフスタイルのもとでロックを選ぶという新たな時代へのメッセージにも感じ取れたものだ。

鮎川誠が遺したロックの継承にふさわしい生き方とは?

シーナ&ザ・ロケッツとしても、公私ともに最愛のパートナーだったシーナを亡くした後に鮎川の横でマイクを握りステージに立ったのは末娘のLUCYだった。シーナの置き土産だったシナロケを継続させ、娘と同じステージに立つ。そして晩年まで鮎川は「ステージに立つとシーナがそこにいるから」と言い続けた。

ロックンロールを愛し、ファミリーを愛し、何も縛られることなく、大好きな音楽と生涯向き合った鮎川誠。地位も名声も、そんなことは端から気にかけずに自分の周りにある宝物をしっかりと見据え、ブレずに生き続けた生涯は、なんてドリーミーなんだと思う。そしてこれと同時に、そういう生き方がリアルにあること忘れずにいることが、今の時代に最もふさわしいロックの継承ではないだろうか。

カタリベ: 本田隆

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