予選でクラッシュのハートレー、最後方から2位まで挽回も「最速のクルマだったとは思えない」/WECスパ

 TOYOTA GAZOO Racing(TGR)のブレンドン・ハートレーは、4月29日(土)に決勝が行われたスパ・フランコルシャ6時間レースで、セバスチャン・ブエミ、平川亮とシェアする8号車トヨタGR010ハイブリッドがグリッド後方からのスタートだったにもかかわらず、総合2位表彰台を獲得したことに明るい表情を見せた。

 ハイパーカークラスを戦うトヨタの8号車は、WEC世界耐久選手権第3戦の予選でハートレーがラップタイムを記録する前にラディオンでクラッシュしたため、翌日の決勝レースを37台中36番目のグリッドからスタートすることとなった。

 また、33歳のニュージーランド人が起こしたアクシデントは8号車トヨタのタイヤ事情を苦しくした。予選時に使用していたタイヤにフラットスポットができ決勝で使えなくなってしまったことは、チームにとって「大きな打撃」となったのだ。

 さらに悪いことに6時間レースはウエットコンディションで始まり、スタートドライバーを務めたブエミはスリッパリーなコンディションのなか、スリックタイヤでLMGTEアマとLMP2クラスのマシンをかき分けていかなくてはならなかった。

前日の予選でのクラッシュの後、僕たちは本当に劣勢に立たされていた」とハートレーは語った。

「タイヤにフラットスポットを作ってしまったため、1セット少ない状態でレースをスタートした。これが難しいことであることは分かっていたよ」

「セブ(セバスチャン・ブエミ)は最初のスティントで素晴らしい仕事をして、あらゆるトラブルから逃れた。彼はスリックタイヤでスタートしたが、それは間違いなく正しい判断だった。しかし、後方からのスタートというのは、かなりのリスクを伴うものだった」

「2番手に上がり(ピットタイミングの関係で一時的に)首位も走ったが、僕たちのクルマが今日一番速かったとは思わない。しかし、我々は適切なタイミングで適切な判断ができた」

「さまざまなコンパウドが作用した。今回は(スリックタイヤの種類が)3つあったけど、あらゆる種類のミックスがそこで行われていたのかもしれない」

「チームとしては不必要なリスクをとらず、適切なタイミングで適切な戦略を取るために完璧なレースをした」

 彼は8号車が最後方からスタートしなかったシナリオでも、最終的に優勝した7号車(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組)は勝利に値する存在だったと感じている。

「僕たちはセットアップの方向性が違っていて、彼らの方が少し優位に立っていた」と続けたハートレー。

「我々はそれを分析しなければならないが、彼らの方が少しばかり良い仕事をしたように思う。可夢偉は終盤にいい仕事をしていた。彼は新しいタイヤを履いていて、僕たちはタイヤが残っていなかったんだ」

グリッド最後列の36番手からスタートし2位表彰台を獲得した8号車トヨタGR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮組) 2023年WEC第3戦スパ6時間レース

■速度差に不意をつかれた7号車の可夢偉

 6時間のレースの終盤、ハートレーとチームメイトの可夢偉は8号車の最後のピットストップの後、ラディオンで“後に審議対象となる”印象的な順位変動に巻き込まれた。

 ハートレー駆る8号車は、先にピットインしていた7号車の前でコースに復帰したが、“キウイドライバー”がタイヤを暖めている間に可夢偉が急激にその差を詰める。TGRのチーム代表を兼務する7号車のドライバーは直後にハートレーに追いつくと、ラディオンのコース外、右側のランオフエリアからチームメイトを抜き去る荒々しいオーバーテイクでトップを奪った。

 TGRのテクニカル・ディレクターであるパスカル・バセロンは2台の動きについて、ハートレーがアウトラップで細心の注意を払っていたため、可夢偉は2台のスピード差にやや不意をつかれたと説明した。

「可夢偉は驚いていたよ」とバセロン。「ブレンドン(・ハートレー)はニュータイヤでとても慎重に走っていた。我々はそれが重要なことだと知っている」

「(予選の後で)ブレンドンがとくに慎重になっていたのも理解できる。それに対して可夢偉は少し驚いていて、彼がコースアウトするのを避けなければならなかった」

「私たちはすぐに、可夢偉がブレンドン(との速度差)に驚いていたことをレースディレクションに伝えた。我々には問題がなかったこともね。だが、彼らは(7号車に)5秒のペナルティを課した」

 ハートレーは、直前のピットストップで交換した2本のタイヤの温度が上がっていないことから、チームメイトに抜かれることは予想していたという。

「左側のタイヤが冷えている状態でピットアウトしたので、邪魔にならないようにしようと思っていた。彼が後ろに迫っていたら僕を追い抜いていくだろうと予想してたからね」と振り返った。

「予選の一件以降、このようなリカバリーが見られたことは非常に喜ばしいことだと思う」

「昨日も言ったけど、自分だけがあんなことになるなんて思ってもみなかった。アウトラップでクルマを壁にヒットさせるなんて、かなり馬鹿げていると感じていた」

「でも、この寒いコンディションはとてもトリッキーだった。一部ではまるで(路面が)氷のようなところもあったんだ」

僚友7号車に次ぐ2位となった8号車トヨタGR010ハイブリッドの(左から)平川亮、ブレンドン・ハートレー、セバスチャン・ブエミ。 2023年WEC第3戦スパ6時間レース

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