藻類を使った染料でファッションを持続可能に 米・イスラエル・スウェーデンのスタートアップが取り組むイノベーションに迫る

Image credit: Vollebak

持続可能な代替素材を探る動きが各業界で加速するなか、ファッション業界では、藻類を使った染料やインクを開発するスタートアップが登場している。

製品が持続可能な方法で作られているかを確認するために、品質表示を見る人が増えている。しかし、その品質表示のラベルを印刷するのに使われているインクが持続可能かどうかまで気にする人はあまりいない。残念なことに、こうしたラベルに使われる黒色のインクのほとんどは石油由来の顔料、いわゆるカーボンブラック(黒色顔料)で着色されている。(翻訳・編集=小松はるか)

カーボンブラックは、化石燃料を不完全燃焼することで生じる粉末状の副産物で、安く、効果的なインクとして使用されている。世界では、ゴムやプラスチック、インクなどさまざまな製品を作るために1400万トンのカーボンブラックが生産されているという。別の調査によると、世界のカーボンブラック市場は2021年に約124億5000万ドル(約1兆6600万円)、2030年までに約218億5000万ドル(約2兆9100万円)に達し、その間の年間成長率は5.5%に達するとみられている。

しかし、化石燃料の副産物であるカーボンブラックは、実際は自然生態系に脅威をもたらす存在だ。2021年には、プラスチックの循環利用を促進する米国のプラスチック協定で、2025年までに使用をやめるべき11の「問題があり不必要な」素材の1つにも選ばれた。

そんななか、藻類から作られた新たな種類の「黒」が注目を集めている。従来の炭素由来の黒の代替となることが期待され、環境にも配慮したものだ。米サステナブル・ブランドでは、この水生植物がどのようにファッション産業を変え、さらなる可能性を秘めているのかを突き止めるため、藻類を使った顔料や繊維を製造する3社のスタートアップの創業者に話を聞いた。

Living Ink (米国)

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藻類を原料に使った最初の黒色インクは2013年に商品化された。インクを開発したバイオマテリアル企業「Living Ink(リビング・インク)」は同年、米コロラド州立大学の分子生物学博士課程の学生だったスコット・フルブライト氏ステヴァン・アルバース氏が設立した企業だ。

CEOを務めるフルブライト氏は米サステナブル・ブランドの取材に対し、ギフトカードが並ぶ通路を眺めているときに、ふとインクは何でできているのだろうかと疑問に思ったと語る。その時にカーボンブラックの存在を知り、彼が研究している藻類で簡単に代替できることに気付いた。現在では、特許を取得した「アルジー(藻類)・ブラック」という顔料を製造している。

フルブライト氏は「私たちはリビング・インクを次世代の企業だと思っています」と話す。

リビング・インクが顔料に使うのは、栄養補助食品企業が運営する藻類の養殖場で発生した廃棄物だ。フルブライト氏は「原料はパイプから排出されます。それを独自の工程を通して黒にしています。カーボンネガティブであり、再生可能で、革新的で、安全なインクが作れるのです」と語る。

成長が早い藻類は毎日収穫することができる。「多くて年2回収穫するトウモロコシのような従来の作物にくらべ、藻類は生産性が非常に高いです。100エイカー(40万4686平方メートル)の藻類養殖場を有するサプライヤーが1社あるだけで、数百万キログラムのインクを生産できます」と彼は説明する。

ライフサイクルアセスメントを行うと、藻類を使ったインクは石油由来のインクに比べてCO2排出量を200%削減できることが分かった。同社は、繊維製品に有害化学物質が含まれておらず安全であることを示す国際認証「エコテックス(OEKO-TEX)認証」を取得している。

「最初の頃は、代替インクに変えてもらうよう企業を説得するのに苦労しました。しかし、このプロジェクトは2021年のシードラウンドで140万ドル(約1億8660万円)を確保するほど十分に説得力があるものでした」(フルブライト氏)

それ以降、アルジー・ブラックはパタゴニアの品質表示タグや、アメリカンイーグルと国際環境NGO「サーフライダー・ファウンデーション」がコラボレーションした衣類などに使われてきた。さらに最近では、ナイキのサステナブル・アパレル・コレクションのグラフィックの印刷にも採用された。また、アルジー・ブラックで完全に染め上げた最初の衣服を、5万年先の地球の未来を見据えて服づくりをする未来志向のブランド「Vollebak(ボレバック)」が発売した。ファッションの世界にとどまらず、同社のインクは、COP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で配られた新聞、Coveの生分解性のプラスチックボトルへの印刷にも使われた。

Algaeing (イスラエル)

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一方、Algaeing(アルジーイング)のCEOを務めるレナナ・クレブス氏は、前身となるAlgaLife(アルガライフ)を設立するため、ファッション業界でのキャリアを断念した。バイオテック企業「アルジーイング」は、繊維産業向けに藻類から作った染料を提供するほか、藻類由来の糸の開発も行う。

クレブス氏は、企業名を変更した理由について、「行動を起こす責任」と「人や地球のウェルビーイングを最優先し、有毒な染料が限りなく少ない未来に向けた取り組みの一部になってもらいたい」という呼びかけの意味を込めていると説明する。単に製品を売るのではなく、アルジーイングはサプライチェーン全体について考えてもらうためのプラットフォームだ。

クレブス氏によると、アクセンチュアは、既存の繊維生産と比較すると、アルジーイングのソリューションによって2030年には27億リットルの排水を節水できる可能性があると推定する。さらに、同社を革新的な企業にする要因の一つに、製品の拡張性の高さを挙げる。「特許を取得したイノベーションは既存の生産機を使うもので、特別な設備を必要としません」と言う。

同社は、未来の繊維の代替原料を開発する将来性が評価され、わずか2年でH&M財団のグローバル・チェンジ・アワード2018を受賞した。染色においても、同社は2020年、衛生・医療分野の不織布材料を製造するイスラエルのAvgol(アブゴル)との連携を始めた。

アルジーイングには、ファッションや食、バイオエネルギー、農業などさまざまな産業における消費のあり方を転換できる可能性があると、クレブス氏は考えている。「アルジーイングとは、消費者や地球、当社に関わるすべての人に利益をもたらす生き方のことです」。

Mounid (スウェーデン)

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最近では、テキスタイルデザイナーのイダ・ナズランド氏が設立したスウェーデンのスタートアップ「Mounid(モニード)」がファッション業界で注目を集めている。微細藻類を使った染料インクを製造する同社は、気候変動への現実的な解決策を事業として実装することを目指す企業をつなげるスウェーデンの政府機関「Vinnova(ヴィノーヴァ)」の一員だ。

リビング・インクやアルジーイングと同じく、「従来の石油由来の染料を切り替えることで、ファッションをデトックスすることを目指しています」とナズランド氏は話す。

「今日、われわれの衣服の90%には合成染料が使われており、世界の水質汚染の20%は繊維の染色の工程から発生しています。危険な化学物質は、安全性の低い労働環境を生み出し、消費者にも脅威となります。化学物質の10%は繊維に残り、皮膚炎やアレルギー、環境ホルモンとして内分泌撹乱作用を引き起こす可能性があります」

例えば、カリフォルニア州法のプロポジション65(安全飲料水および有害物質施行法)のように、カーボンブラックは法律上、企業が危険な化学物質にさらされている可能性があることを警告することが義務付けられている。2007年には、国際がん研究機関の発がん性物質の分類で、「発がん性の可能性がある」とされる「2B」に分類された。

モニードは、自社のインクが既存の機械に対応できるよう目指しているところだ。一方で、ナズランド氏は「モニードは資源効率の高い染色工程を実現するために、新たな技術によりいっそう力を注ぎ、エネルギーと水の消費を90%まで削減する新たな染色技術と密接に連携していくことを決めています。毒性のない藻類のインクは循環型のソリューションに適し、今日の繊維・ファッションを生み出している既存の直線的な製造方法からの脱却をさらに加速するでしょう」と言う。

同社の藻類インクはまだ大量生産できる段階にない。しかし、この製品をVinnovaプロジェクトに参画するファッション産業や企業・ブランドのために最適化することを約束する。食品や美容、ファッション、CO2回収を成功させるために微細藻類を使おうとする動きが増えているのは、さらなる持続可能な未来に向けて希望のある動きだ。

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