香港国安法違反で留学生逮捕!日本にいても「もの言えぬ」恐怖

飯田和郎・元RKB解説委員長

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日本に留学中だった香港出身の20代の女子学生が香港に帰郷した際、香港国家安全維持法に違反した疑いで逮捕された。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でこの問題について解説した。

デモを支持するスローガンをSNSに転載し逮捕

なんとも言えない悲しさ、怒りに身体が震える。香港以外の外国での言動が、香港国家安全維持法(以下、国安法)に適用された初のケースとみられる。政治に対して、香港という域内だけではなく、処罰の対象になることが、今回、はっきりした。香港を包む、どす黒い雲は、日本を含む外国にも現実に垂れ込んでいるのだ。

経緯を見ていこう。逮捕された女子学生は、日本国内の大学に在籍。春休み中の3月、身分証明証を更新するため一時的に香港に戻ったところ、国安法違反の疑いで、香港の治安当局に逮捕された。逮捕理由は、ふだん生活する日本での言動だった。2年前、言論の自由などを求める学生デモが盛り上がった。その時、彼女は学生デモを支持・支援するスローガンをフェイスブックに転載したという。このことが「国家分裂を扇動した」と問題視された。彼女は、いわゆる民主活動家ではない。

福岡から放送するコメントも処罰対象に?

国安法は、中国政府の主導で2020年6月に施行された。法の解釈権は中国が握っている。①「国家分裂」②「国家や政権の転覆」③「テロ活動」さらに④「外国勢力と結託して国家の安全を脅かす行為」を禁じ、反体制的な活動を取り締まる。最も重い刑は終身刑。ただし、具体的な内容は示しておらず、定義がはっきりしない。そこのことが人々をさらに怯えさせている。

中国本土から香港へ派遣された、取り締まりの職員の行為は、香港の法律の制約を受けない。さらに香港政府への監督・指導を行うことができる。また緊急時などには捜査令状なしで強制捜査できる。こうした強い権限が与えられている。

香港もこの法律によって、すっかり中国本土並みに「もの言えぬ」体制になった。特に問題なのは、この国安法の第38条だ。

「香港に恒久的な居住権を持たない者が、香港以外の場所で、この法律が定める罪を犯した場合であっても、この法律を適用する」

つまり、香港市民でない、われわれ外国人も、さらに香港以外の国や地域で行った行為も処罰対象とするということだ。

この法律が公布された当初、「香港市民だけではなく、日本にいる場合、また日本人の場合でも、法律が適用されるのか」と誰もが不安に思った。だから、国際社会から懸念の声が出ていた。

福岡から放送しているこの番組で発するコメントだって「国家分裂に相当する行為」だと認定されてしまうかもしれない。さすがに日本では逮捕されないだろうが、香港や中国本土へ旅行したら、突然、公安当局者に取り囲まれ、引っ張っていかれるかもしれない。

条文にはこのほか「捜査から判決、処罰に至るまでの全過程を、中国本土の当局が引き継ぐこともできる」ことも定めている。つまり、香港に関する容疑なのに、中国本土で司法手続きが進められてしまう可能性もあるのだ。

逮捕された女子学生は現在、釈放されて香港の自宅にいる。ただ、パスポートを押収されているため、学籍のある日本に戻れない。パスポートの押収は事実上の軟禁だ。そこから推定すると、彼女に重罰を科すというより、このような活動をする者たちに広く「警告」する効果、つまり「見せしめ」を狙ったものではないだろうか。

「自由で開かれた」香港のイメージは過去のものに

1997年に香港がイギリスから中国に返還された際、双方は「向こう50年間、香港の制度を維持する」と約束した。それなのに、その半分しか経過していないうちに、中国はその約束を反故にした。

日本に住む私たちが、香港の現実を知る方法として、香港から学者や、かつてのように民主化に取り組む方を招いて講演会や勉強会を開くことがある。しかし、その中での発言や、提供された資料が「国家分裂を扇動する」と認定されるおそれは当然ある。これでは講演会すら開けない。どこにいても監視されている恐怖がある。日本の「言論の自由」にもマイナス影響を与える。

一方、香港以外の国籍を持つ研究者には日本人も含まれるが、次に香港へ赴いた際に「あなたの研究は国家分裂を煽った」と拘束されてしまうかもしれない。こちらは「学問の自由」への圧力だ。今回の女子学生は、日本で生活していた。われわれも「わが事」として考えていかなくてはいけない。

香港の国安法ができて3年足らず。この間、リベラルな論調で知られた香港の日刊紙、蘋果日報(アップル・デーリー)が、廃刊に追い込まれた。創業者はこの国安法などに違反したとして、長期の禁固刑となり、収監中だ。また、香港民主派の政党、民主党の元トップだった男性が、国安法違反の容疑で逮捕され、裁判を受けている。

香港は人口減さらに国際金融拠点の地位も危ぶまれる

中国の指導部はいま、かつては政府が担ってきた香港政策を共産党直轄で取り仕切っている。習近平主席は昨年7月、返還25周年の式典に合わせ香港を訪れた。そこで「中央(=共産党中央)による全面的な統治権を堅持しなければならない」と演説している。「自由で開かれた」かつての香港のイメージとは、大きく変わってしまった。

今年3月、アメリカに拠点を置くNGO「フリーダム・ハウス」が世界の国・地域別の自由度指数の最新版を発表した。香港は197の国・地域のうち、130位。年々ランキングを下げている。ちなみに、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧3か国が共に1位。中国本土は182位。日本は11位だった。

共産党の統制強化、北京からの統制強化が進む。香港を離れる移民が増加している。かつての宗主国・イギリス政府は、市民権獲得の道を開く特別なビザを発給し、イギリスへの移民を希望する香港市民に便宜を図っている。香港の人口減が進むが、これは少子化によるものだけではない。

国際金融の拠点としての香港の地位も危ぶまれる。コロナ禍が収まりかけたこともあり、日本各地と香港を結ぶ航空路線も元に戻りつつある。日本人の行き来も増えるだろう。今のところ、国安法は経済への影響は顕著化していないが、当然、香港に進出する外国企業は細心の注意を払っているはずだ。

日本政府はどう対応するだろうか。逮捕された女子学生は日本の学校に在籍し、容疑となったフェイスブックの転載も日本で行っていた。彼女は、自由に発言できる日本を信じていたのだろう。政府は今回の逮捕の詳細を調べているはずだ。これは「日本の自由への侵犯」にもみえるのは私だけだろうか。

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、田中みずき、飯田和郎

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