「疑似的な監督交代」だった岩政監督の修正力。鹿島アントラーズの勢いは本物か。

どん底に落ちた鹿島アントラーズが、息を吹き返しつつある。

岩政大樹監督が就任2年目を迎えた今シーズンは、もどかしい展開が続いた。特に、第4節のアビスパ福岡戦から第8節のヴィッセル神戸戦まではリーグ戦5試合勝ちなし(1分4敗)となり、第5節の横浜F・マリノス戦からは4連敗を喫した。

しかし、神戸戦の大敗とミッドウィークのルヴァンカップでの敗北でスイッチが入ったチームは、次節のアルビレックス新潟戦でリーグ戦5試合ぶりの勝利を飾る。攻守に復調の気配を漂わせると、続くガンバ大阪戦でも快勝を収めた。

今回の当コラムでは、白星を挙げた新潟戦とG大阪戦の戦いぶりを軸に、今後のキーマンや絶対的エースの活かし方、監督交代の可能性について述べていきたい。

直近5試合の基本システム

まずは、直近のリーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神は足元の技術に優れる早川友基で、最終ラインは右から中に絞る動きが効果的な広瀬陸斗、ともに対人戦に強く、ロングフィードも武器の植田直通と関川郁万、攻撃センスが光る安西幸輝の4人。5年ぶりに復帰した昌子源はクローザーとして役割をまっとうする。

ダブルボランチは正確なプレースキックで好機を演出する樋口雄太と左足のパスでリズムを作るディエゴ・ピトゥカ。ボール奪取力と持ち上がりで注目を集める佐野海舟、アンカーも務める中村亮太朗、期待の若手である舩橋佑が控える。

サイドハーフは走力とハードワークで貢献する技巧派の名古新太郎と確かな戦術眼に裏打ちされた振る舞いでチームを助ける仲間隼斗がスタメンの座を奪取。加速力と積極的な仕掛けが売りの藤井智也、第10節のガンバ大阪戦で2ゴールと躍動した土居聖真、スピードスターの松村優太らもポジションをうかがう。

2トップは攻守に幅広いタスクを担う絶対的エースの鈴木優磨と長期の武者修行を経て逞しく成長した垣田裕暉を、ここまでリーグ戦3ゴールを記録している知念慶がバックアップする形が基本となりつつあるが、1トップ+トップ下という形も採用されている。その場合は最前線に鈴木、トップ下に土居または10番を背負う荒木遼太郎が起用されている。

「強度の高いハードワーク」が今後の生命線に

第9節のアルビレックス新潟戦でリーグ戦5試合ぶりの勝利を手にし、続く第10節のガンバ大阪戦でも4-0と快勝を収めた鹿島アントラーズ。この2試合で見えたのは、「強度の高いハードワーク」だった。

2トップの鈴木優磨と垣田裕暉が、精力的なフォアチェックとプレスバックで相手のビルドアップを制限し、サイドハーフの名古新太郎と仲間隼斗も連動したプレスでボール保持者にプレッシャーをかける。こうした攻撃陣の守備に加え、ミドルサードまたはディフェンシブサードに形成したコンパクトなブロックが機能したことにより、無失点での勝利につながったのだ。

特に、両翼で起用された名古と仲間の働きぶりは素晴らしかった。新潟戦を迎えるまで、ともにリーグ戦では出場機会に恵まれておらず、名古に関しては新潟戦が今季リーグ戦初出場だった。

リーグ戦4連敗中と非常に厳しい状況で迎えたアウェイゲームで、スタメンに抜擢。名古がこの試合に懸ける想いは相当に強かったと推察できる。事実、球際で戦う姿勢とハードワークは群を抜いており、62分にベンチに下がるまで走り続けた。

トンネルを抜けた新潟戦でインパクトのあるプレーを見せた名古と仲間は、次節のガンバ大阪戦でもスタメンに名を連ねる。ともに精力的な動きを見せると、仲間が48分にセットプレーから先制点を挙げ、名古は鈴木のヘディング弾を正確なクロスでお膳立て。ゴールまたはアシストという形で結果を残した。

今後も「強度の高いハードワーク」の継続が予想されるなか、名古と仲間、そして新潟戦での技ありゴールも光った垣田はスタイルのキーマンとなりそうだ。また、プレータイムに恵まれなかった選手たちの躍動により、健全な競争も期待できる。抜擢と勝利を両立できたことにより、「誰でもチャンスはつかめる」という岩政大樹監督のメッセージが熱を帯びたからだ。

次節以降もハードワークを貫き、勝ち点を積み重ねていけるか。連勝で得た手ごたえを一過性で終わらせず、継続していくことが肝要となる。

絶対的エース・鈴木優磨を活かすには

前述したアルビレックス新潟戦とガンバ大阪戦で変化が見られたのは、ハードワークだけではない。採用されたシステムにも変更点があった。

  • 第4節vs:福岡:4-4-2(2トップは鈴木優磨と知念慶)
  • 第5節vs 横浜FM:4-3-3(3トップは右から藤井智也、鈴木、知念)
  • 第6節 vs 広島:4-2-3-1(1トップに鈴木、トップ下に土居聖真)
  • 第7節vs 柏:4-2-3-1(1トップに鈴木、トップ下に土居)
  • 第8節vs 神戸:4-2-3-1(1トップに鈴木、トップ下に荒木遼太郎)
  • 第9節vs 新潟:4-4-2(2トップは鈴木と垣田裕暉)
  • 第10節vs G大阪:4-4-2(2トップは鈴木と垣田)

上記は直近リーグ戦7試合でのフォーメーションと前線の組み合わせである。ここから汲み取れるのは、7試合すべてでスタメン起用された絶対的エース・鈴木優磨をどう活かすか、指揮官が試行錯誤した形跡だ。

鈴木と言えば、様々な役割を担う万能性がストロングポイントである。得点力はもちろん、中盤に降りてのチャンスメイク、時に自陣深くまで戻って体を張る守備などひとりで多くのタスクをこなす。背番号40に全幅の信頼を寄せる指揮官はこれまで、4-4-2の2トップの一角、4-3-3のセンターフォワード、4-2-3-1の1トップで起用し、最適解を探ってきた。

類まれな万能性を最大限活かすにはどうすればいいか。2トップの一角で起用し、セカンドトップ的な役割を担わせるのが一番だと筆者は考える。

例えば、昨季の序盤に上田綺世(現セルクル・ブルッヘ)と形成した2トップは抜群の補完性だった。鈴木がピッチを幅広く動いて組み立てに精を出し、2試合に1ゴールのペースで得点を量産していた上田が仕留める。上田の海外移籍により解消する形となったが、クラブの歴史を見ても屈指の破壊力を誇った名コンビだった。

得点源だった上田の移籍後にチャンスメイクとフィニッシュを両立する形となったエースは、そのバランスに苦心することになる。自身が中盤に降りて組み立てに関与すると、ゴール前での脅威が失われるというジレンマを抱えていたからだ。

その意味で、鈴木の持ち味を最大限活かすには、やはり「2トップの一角で起用する」ということになる。前半3分に決めた豪快なヘディング弾、そして垣田の追加点を演出した浮き球パスで1ゴール1アシストを記録し、全得点に絡んだ新潟戦でのハイパフォーマンスに、最適解が見えた。

とはいえ、鈴木の良さを活かすには、得点力のある“相棒”が不可欠となる。新潟戦で鹿島での初得点を決めた垣田、または加入1年目でチーム2位のリーグ戦3ゴールをマークしている知念が務めそうだが、継続性という面では未知数な部分がある。両名の出来次第では、今夏の移籍ウインドーで外国籍FWの獲得も視野に入るだろう。

監督交代はあり得るのか?

リーグ戦4連敗からの連勝で9位へ浮上したが、決して安堵はできない。ヴィッセル神戸に力の差を見せつけられた2週間前のチーム状態はどん底だった。勝ち点を積み上げて巻き返せるか、真価が問われるのはここからだ。

今後の結果によっては、岩政大樹監督の解任もあり得るかもしれない。なぜなら、近年の鹿島はシーズン途中の監督交代に躊躇がないからだ。まとめると以下の通りとなる。

  • 2015シーズン:7月下旬にトニーニョ・セレーゾ監督を解任、石井正忠コーチが昇格
  • 2017シーズン:5月末に石井監督を解任、大岩剛コーチが昇格
  • 2021シーズン:4月中旬にザーゴ監督を解任、相馬直樹コーチが昇格
  • 2022シーズン:8月上旬にレネ・ヴァイラー監督が退任、岩政コーチが昇格

特に昨季のヴァイラー監督退任は、リリース時点で5位だったこともあり波紋を呼んだ。順位に関係なく、クラブの将来を見据えて迅速に決断する姿勢をフロントは見せており、過去の例を踏まえれば、神戸戦の後に監督交代があってもおかしくはなかった。

だが、アルビレックス新潟戦およびガンバ大阪戦の戦いぶりを見る限り、再び不振に陥ったとしても、監督交代が最善策とは言い切れないと感じる。新潟戦での修正力(戦術面と大胆な選手起用)、そして選手たちのリバウンドメンタリティはまるで監督交代を断行した直後のようだった。つまり、「疑似的な監督交代」だったと形容できるのだ。

また、現在のチームを立て直すことができるのは、クラブの伝統を知る人物に限られるだろう。現役時代に鹿島でプレー、またはクラブOBのお墨付きがある人物でなければ、このクラブの特殊性を理解することは難しい。フロントとサポーターの厳しい視線、“ジーコ・スピリット”と呼ばれる哲学および文化を受容できるか。2007~09シーズンのリーグ3連覇を最終ラインから支えた岩政監督以外に、苦境を脱する適任者は考えにくいはずだ。

さらに今シーズンは、来季からJ1・J2・J3各カテゴリーのクラブ数が20クラブに統一されることに伴い、J2降格は最下位の1チームのみとなる。このレギュレーションを念頭に置けば、終盤戦で残留争いに巻き込まれない限り、岩政監督の解任はおそらくないと見る。

チーム状況をさらに上向かせるには、連勝の勢いを落とさないことが必須となる。次節の北海道コンサドーレ札幌戦、第12節のセレッソ大阪戦とゴールデンウィークの連戦で勝ち点を奪いたい。新潟とG大阪はポゼッション型のチームであり、守備の狙いを明確に設定しやすかった面がある。札幌戦およびC大阪戦は、連勝の勢いが本物であることを証明する場になりそうだ。

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そして、試金石となるのが、5月14日に国立競技場で行われる第13節の名古屋グランパス戦だ。リーグトップタイの6失点(第10節終了時点)と堅牢な守備、切れ味鋭いカウンターで上位につける相手に対し、強度で上回ることができるか。岩政体制の現在地を知る重要な一戦となるに違いない。

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