<南風>かりゆしウェアと出張

 どこの書店も取次会社を介して、約4千社にも及ぶ出版社の本を取り扱っているが、そのうち大手出版社には書店への営業部が存在し、書店に自社の本を並べてもらうべく、連日のように営業の人がやってくる。この沖縄にも東京から出版社が出張で訪れるのだが、1社につき年に2回から3回だろうか。どこも沖縄の担当になるのは取り合いになるくらい、皆が行きたがるのだという。

 沖縄だけは社長自ら…なんてこともよくある話である。営業と言えば身なりもしっかりと、沖縄の真夏でもネクタイを締め、スーツを着込んでは担当者と商談するわけだが、こちらは見ているだけでつらくなってくる。「次回はかりゆしで!」と言うのがお決まりのフレーズ。沖縄出張のためだけにかりゆしを着こなす出版社もあり、そうすると書店担当者からの注文数が断然増えたのだとか。

 そういえばいつの頃からか、スーツ姿の人と会うと身構えてしまうようになった。どんな暑い夏でも自分はネクタイを締めていたくせにだ…。沖縄では内地らしくよりも、当然沖縄らしいに越したことはない。ただそれでもスーツでやってくることがほとんど。沖縄はやはり南の島の観光地、仕事半分、上司などから遊びに行くと捉えられてしまうのだろう。せめて格好だけでも、と思う気持ちも理解するところだ。

 「森本さーん! 久しぶりです!」。1人の出版社の男性が笑顔で走ってくる。10年ぶりの沖縄での再会にテンションが高い。やはりスーツ姿だ。ん!? よく見ると背負っているリュックからシュノーケルが飛び出しているではないか! せっかく着込んできたスーツが台無し。もう仕事半分どころか、既に心は青い海、県外からの客人は、もはやこのぐらいが分かり安くてちょうどいいと思ってしまうのであった。

(森本浩平、エグゼクティブ・プロデューサー ジュンク堂那覇店)

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