バイオインフォマティクスとは? ビッグデータ×生物学で生命の神秘を解き明かす

今世紀中には第五次産業革命が訪れ、生物学と情報科学の融合が進むことが予測されています。

その分野の中心的な学問となるのが今回ご紹介するバイオインフォマティクス(生命情報科学)です。20世紀後半に飛躍的な革新を遂げたコンピュータ技術は、膨大な遺伝情報やタンパク質の解析に導入されることで医学、薬学などさまざまな分野で革新を生み出してきました。

──バイオインフォマティクスは何を生み出してきたのか、そしてこれから何を成し遂げるのか。その歩みと可能性に今から目を向けておきましょう!

生物学×情報学=バイオインフォマティクス

まずは基本情報を押さえましょう。

バイオインフォマティクスは「生物が持っているさまざまな情報を計算機で解析する分野(※)」です。バイオロジー(生物学)とインフォマティクス(情報学)の融合というわけですね。

すべての生物はDNAの情報に基づいて構成されており、そのDNAに含まれる塩基対の数はヒトで約60億個といわれています。さらにDNAが転写されて生まれるRNAや、その情報を変換してつくられるタンパク質、タンパク質を構成するアミノ酸など、生物の成り立ちや差異、機能を知るための情報量はとても人力では扱い切れません。

そこで、計算機(コンピュータ)が用いられるようになったのがバイオインフォマティクスの成り立ちです。

生物学、プログラミング、両方の知識が必要になるためまだまだ専門家は足りていないのが実情ですが、コンピュータの進化とともにその可能性は広がり続けており第五次産業革命期に向けてどんどん存在感を増していく学問です。

※「バイオインフォマティクスの面白さは、計算機を使って生物の法則を解明したり、予測したりできること。」┃東京工科大学より引用

バイオインフォマティクスの研究領域

バイオインフォマティクスの研究領域のうち代表的なものについて簡単に解説します。

ゲノム解析


ゲノム解析とは、DNAの持つすべての遺伝情報=ゲノムを解読することです。

1990年に開始したヒトゲノムの解析は2003年3月に完了し、NCBI Genomeなどさまざまなデータベースで確認することができます。当初は15年かかると予測されていた解析ペースを一気に早めたのがバイオインフォマティクスの発展です。DNAを高速で解読できる次世代シーケンサーがなければそのスピードで解析は進まなかったでしょう。

ヒトとそれ以外のゲノムを比較することで進化の過程を探る際にもバイオインフォマティクスの技術は用いられています。

遺伝子ネットワークの解明


遺伝子は遺伝子同士で相互に作用することで発現します。そのネットワークをパスウェイといい、その構造をグラフ化しデータベースに登録することでタンパク質生成や代謝といった生物の基本的な機能の仕組みを分析することができるのです。

タンパク質の構造解析


RNAにより生み出されたタンパク質はそのアミノ酸配列に基づいた構造によって異なる機能を発揮します。タンパク質の構造をコンピュータによってモデリング、予測するプロジェクトはポストゲノム時代の重要課題として進められ、タンパク3000構造ギャラリーなど過去の研究成果を確認できるサイトも存在します。

バイオインフォマティクスは人類に何をもたらす?

最後はアカデミックな領域からより実際的に生かされるバイオインフォマティクスについてご紹介します。

新たな治療法の確立


ゲノム情報を解析することで最も恩恵を得られるのが、医学・薬学の分野です。

人間の塩基配列には約1,000塩基に一つの割合で個人差が存在し、その結果体質や病気へのなりやすさが決まります。その内容をあらかじめ踏まえることで一人ひとりに最も適した「テーラーメード医療」を行うことも可能になるかもしれません。

また、DNAチップを活用することで薬がどの部分に作用しているのかを解析する技術も研究が進んでいます。すでに開発されているものもあり、より研究が進めば病に効く薬の使い方、組み合わせを的確に選択できるようになるでしょう。

タンパク質の構造予測を用いれば、ウイルスの構造を解き明かし早期のワクチン発見につなげられる可能性もあります。実際、現在イギリスの研究機関が、アルファ碁を設計したディープ・マインド社開発のAIを用いてコロナウイルスの構造分析に取り組んでいるとか。

製造業・農業における新製品の活用


第五次産業革命後に期待されるのが、バイオインフォマティクスで得た生物の構造情報を用いて新たな工業製品を生み出せる可能性です。DNAを解き明かすことで、スマートセルインダストリーの可能性は大きく広がるといえるでしょう。

また、農業においても作物や果樹のバイオインフォマティクス研究が開始されており、その情報を活用することで品種改良を加速させ気候変動や害虫に負けない食物を生み出し食糧危機の解決につなげることが志向されています。

終わりに

バイオインフォマティクスとは何か、そしてその活用の可能性についてご説明してきました。
生物はDNA配列によって構成されており、その秘密を解き明かすことにコンピュータは非常に適しています。一見対極にあるように思われる生命の世界と情報処理の世界が高度化することで重なるのは面白い現象です。

いずれ大きく世界を変えることになるであろうバイオインフォマティクス。今から注目しておいて損はありません!


<span style="font-size: 8pt;">【参考資料】
・岩部直之, 川端猛, 浜田道昭, 門田幸二, 須山幹太, 光山統泰, 黒川顕, 森宙史, 東光一, 吉沢明康, 片山俊明, 藤博幸『<a href="https://www.amazon.co.jp/%E3%82%88%E3%81%8F%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9%E5%85%A5%E9%96%80-%E5%B2%A9%E9%83%A8%E7%9B%B4%E4%B9%8B-ebook/dp/B07MYWYLL6" rel="noopener noreferrer" target="_blank">よくわかるバイオインフォマティクス入門[Kindle 版]</a>』講談社(2018)
・<a href="https://www.iscb.org/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">iSCB</a>
・<a href="https://www.jsbi.org/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">特定非営利活動法人日本バイオインフォマティクス学会</a>
・藤博幸「<a href="https://www.aist.go.jp/Portals/0/resource_images/aist_j/aistinfo/aist_today/vol10_09/vol10_09_p06.pdf" rel="noopener noreferrer" target="_blank">バイオインフォマティクスとは何か?</a>」┃産総研TODAY
・「<a href="https://www.teu.ac.jp/topics/2011/021243.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">バイオインフォマティクスの面白さは、計算機を使って生物の法則を解明したり、予測したりできること。</a>」┃東京工科大学
・詫摩雅子「<a href="http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0205/sp_5.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">特集:発見の科学 生命に迫るバイオインフォマティクス</a>」┃日経サイエンス
・<a href="https://top-researchers.com/?p=3448" rel="noopener noreferrer" target="_blank">バイオインフォマティクス分野で、高度なビッグデータ解析を実現する〜渋谷 哲朗・東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 准教授</a>┃Top Researchers
・<a href="https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200401/k10012361851000.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">次なるカギはAIか ~新型ウイルスで進むAI活用~</a>┃NHK
・<a href="https://www.ddbj.nig.ac.jp/column/genegenome.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">遺伝子とゲノム</a>┃生命情報・DDBJセンター
・<a href="https://www.hpe.com/jp/ja/japan/insights/reports/agricultural-genomics-feeding-a-growing-hungry-world-1711.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">農業ゲノミクス: 進行する世界的食糧不足を解決</a>┃日本ヒューレット・パッカード株式会社
・<a href="https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47178510Q9A710C1XB0000/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">肺がん薬の効果、血液で判別 DNAチップ研が開発</a>┃日本経済新聞
・<a href="https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">NCBI Genome</a>
・<a href="http://www.tanpaku.org/p3k/index.html.ja" rel="noopener noreferrer" target="_blank">タンパク3000構造ギャラリー</a>
・<a href="http://togotv.dbcls.jp/20170703.html" rel="noopener noreferrer" target="_blank">ヒトゲノム計画: その歴史とインパクト @ NIG International symposium 2017</a>┃統合TV</span>

(<a href="http://miyatabunki.com/" rel="noopener noreferrer" target="_blank">宮田文机</a>)

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