サーブ=投球フォーム?! 娘がテニス全国V、飛躍の源は元プロ投手の父 独自の練習法、次々と考案

大西正樹さん(右)の瑠歌さん(左)への指導は、姿勢など基本が中心だ=三木市、ブルボンビーンズドーム

 かつて神戸国際大付高のエースとして甲子園を沸かせたサウスポーが今、テニスの指導に情熱を燃やしている。元プロ野球ソフトバンクの大西正樹さん(35)=兵庫県明石市。長女の瑠歌さん(13)=同市立二見中=を教える根幹にあるのは、現役時代の反省だ。我流だが成果を上げ、瑠歌さんは全国大会で優勝するなど頭角を現してきている。(永見将人)

 大西さんは現役時代、落差のあるカーブを武器に活躍。2005年の選抜高校野球大会では、チームを初のベスト4へ導いた。中でも脚光を浴びたのは2回戦。田中将大(現楽天)らを擁した前年夏の優勝校、駒大苫小牧(北海道)を相手に完封をやってのけた。12三振を奪い、許したヒットは九回のわずか1本。ノーヒットノーランまであと一歩という快投だった。

 同年の高校生ドラフト3巡目で指名を受けてプロ入り。しかし、投手王国の厳しい競争の中、けがもあって10年に引退した。

 娘が5歳でテニスを始めると、野球との共通点が少なくないことに気が付いた。特にサーブと投球のフォームは相通じると感じ、当初からシャドーピッチングを勧めた。黙々と継続した瑠歌さん。サウスポーから繰り出す威力十分のサーブは今や、大きな武器だ。

 ユーチューブや書籍で独学を重ねた大西さんは、播磨町や三木市のテニスコートを借りて指導をするように。山陽電気鉄道の社員として、月に6~8回は朝5時までの勤務。眠い目をこすりながら出かけることも少なくない。

 練習は、基本の繰り返し。プロの世界で重要さを思い知った。ソフトバンク時代、5メートルほどの近距離で投球練習をしたこともある。テニスでも「まずは緩い球を狙ったところに打ち返すところから」。動き回りながら投げて球出しをし、体勢や足の運びを修正していく。

 ランニングなど1時間の「朝練」も日課。合間にバナナや牛乳で作る特製ジュースは、かつて祖父が作ってくれたもので、効果は身をもって知っている。

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 プロの一流選手と過ごす中で学んだ一つが、日常生活からの姿勢の大切さだ。2度の沢村賞に輝いた斉藤和巳さん(現ソフトバンク投手コーチ)を例に、「いつも背筋を伸ばして生活し、身長以上に大きく見えた。自分はおろそかにしてしまった」と大西さん。後悔を胸に、瑠歌さんには口酸っぱく言い聞かせる。けがに苦しんだだけに、ストレッチなど予防にも心を砕く。

 修羅場をくぐってきたからこその助言は説得力がある。「中途半端な準備しかしていないと、大事な場面で不安になる。自信を持てるだけの練習をしなさい」

 深くうなずきながら耳を傾ける瑠歌さんだが、小学校高学年の頃には「なんでテニスをやったことのない人に言われなあかんの」と反発したこともある。やがて試合で感情的になり、本来の力を出せないことが増えた。助けてくれたのは父だった。「お父さんもそういう時あったで」。05年の選抜高校野球大会の準決勝、愛工大名電(愛知)戦で制球を乱した失敗談などを話し、平常心の大切さを説く。

 今では父への信頼と感謝が、瑠歌さんの力の源だ。昨夏の県中学総体の女子シングルスで、1年生にして準優勝。今年2月の全国大会「石黒杯」では、14歳以下の部で優勝を果たした。「仕事終わりのしんどい時にも指導や応援に来てくれる。喜ぶ顔が見たいから、世界に羽ばたく選手になって親孝行したい」と飛躍を誓う。

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