平和、男女平等、人権保障…憲法の理念が「いまこそ」問われる 施行76年、あなたの思いは

漁師の内海明大さん

 日本国憲法の施行から3日で76年を迎える。第2次世界大戦への深い反省に立った9条にとどまらず、男女平等や人権保障など、憲法には今日的な課題につながる幅広い理念がうたわれている。ロシアによるウクライナ侵攻や北朝鮮のミサイル発射で国際情勢は緊迫し、男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数で日本が先進国最低レベルに沈む現代。憲法に何を期待し、どう向き合うか-。さまざまな分野で活動する人に思いをしたためてもらった。(上田勇紀、名倉あかり)

 憲法9条は、戦争放棄や戦力の不保持などを規定する。前文とともに平和主義の肝となるが、自衛隊の位置付けや防衛力強化を巡って改憲議論の焦点であり続けてきた。

 淡路市の漁師内海明大さん(38)「時代に応じて変わるべき」と書いた。

 北朝鮮による弾道ミサイル発射が繰り返され、「日本が攻められているみたいに感じる。戦争は絶対にいけないけど、もっと防衛力を高めることが抑止力になるんじゃないか」と話す。

 1歳から15歳まで、男女5人の子どもがいる。高校1年の長男は漁師の仕事に関心があり、よく手伝ってくれる。「『後を継ぎたい』と言い出したら、そうさせてあげたい。そのためにも、豊かな海と平和が続いてほしい」と願う。

 一方、丹波篠山市の栄養士本荘賀寿美さん(59)は9条を念頭に「いまこそ大切なもの」と記した。

 認定こども園や小学校で長年、食育を教えてきた。特産の黒豆やサツマイモを通し、食の楽しさや文化を伝える。「これまで平和に暮らしてこられたのは、憲法が変わらずにあったから。不具合もあるかもしれないが、改憲が少しずつ戦争につながりそうで怖い」と語る。

 小学生の時に見たテレビ番組で、敵に捕まらないよう女性同士が刀で刺し合い自害するシーンが記憶に刻まれている。「防衛費増額のニュースにも不安が募る。子どもたちに戦争をさせたくない、見せたくない」

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 注目されるのは9条だけではない。国民が法の下に平等であることを定めた14条、家族生活の男女平等を掲げた24条などは、夫婦別姓や同性婚といった課題とも関連する。

 甲南大文学部教授の阿部真大さん(46)=神戸市東灘区=のメッセージは「ここが正念場」とする。

 戦後、アニメ「サザエさん」のようなサラリーマンの夫と専業主婦の家庭が急増。性別で役割を分けた家庭の下で、日本は高度経済成長を成し遂げたとみる。

 1990年代以降に女性の社会進出が進んだが、自民党が2012年にまとめた憲法改正草案では「家族の助け合い」を義務付けるなど、伝統的な家族観への揺り戻しも起きたと指摘。「憲法の理念である男女平等を進めていけるか、頓挫するかがいま問われている」

 若い世代はどう捉えているのか。関西大法学部3年の間野亜裕子さん(20)=神戸市灘区=は法律を学ぶ中で「憲法は特に難しく、近寄りがたい存在」と感じてきたという。

 非政府組織(NGO)「CODE海外災害援助市民センター」(神戸市兵庫区)のボランティアとして今春、ウクライナから神戸に避難した家族の支援に参加。古里を追われ、慣れない異国暮らしの中でも前を向く母子に感銘を受けた。自分が一歩踏み出すことで、視野が広がったと感じる。

 「憲法は自分たちの大事なこと全てに関わる。国際平和や男女平等の課題も、もっと考えを深めていきたい」との思いから、「他人任せにせず 自分事として」と書いた。

【憲法第9条】「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定。「陸海空軍その他の戦力」は保持しないとし、交戦権も「これを認めない」とする。 【第14条】国民が法の下に平等であることを掲げ、「人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」と記す。 【第24条】夫婦平等の理念などを規定。配偶者の選択や離婚、婚姻や家族に関する事項に関し「法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」とする。

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