劇団四季『クレイジー・フォー・ユー』 笑って笑って、ちょっとほろりの一度は観ておきたいミュージカルコメディ。

ミュージカルコメディの決定版とも言える『クレイジー・フォー・ユー』が上演中だ。
踊りに夢中な銀行の跡取り息子と、その息子が差し押さえにきた劇場の一人娘の恋模様がこの物語のメインストーリー。

1930年代、ガーシュウィン兄弟によって作られたミュージカル『ガール・クレイジー』をベースに、新たにスタンダードナンバーや未発表曲を組み込んで構成。劇中の楽曲はすべてこの2人によるものとなっている。日本語歌詞は、イラストレーターなど幅広く活躍し、2019年に逝去された和田誠と、2014年に映画「アナと雪の女王」の訳詞を手掛け、2016年には劇団四季『アラジン』の訳詞により第23回読売演劇大賞優秀スタッフ賞を受賞した高橋由美子(知伽江)が担う。
ブロードウェイ初演は1992年。トニー賞で最優秀作品賞を含む計3部門を受賞。中でも、電話機・ロープ・パエリア皿など身の回りの道具を使ったスーザン・ストローマンの振付の斬新さは、目を見張るものがあり、最優秀振付賞を受賞。演出はマイク・オクレント、劇作家のケン・ルドウィッグとチームを組んでこの作品を作り上げ、その年のトニー賞のベスト・ミュージカル賞を受賞。
劇団四季では翌年の1993年に上演、以来、上演回数は1,900回超。
オーヴァーチュアーが流れるだけで客席はテンションアップ。そして場面はニューヨークの劇場、踊り子たちのダンス、銀行の跡取り息子、ボビー・チャイルド、本来なら銀行にいなければならないのに、劇場にいる。大プロデューサーのザングラーに自分のタップを売り込み中だが、うまくいくはずもなく。婚約者とは”長年婚約中”、お母さんは息子がダンスにうつつを抜かしているので不機嫌、そしてこの婚約者と母親の反りが悪い。そんなこんなでボビーはうんざり、少々疲れ気味、人生は選べない、母親の言いつけに従うしかなく、ど田舎のデッドロックへ物件の差し押さえに向かう。ちょうど、その頃、その”物件”の持ち主の娘・ポリーは銀行から届いた手紙を読んで怒り心頭、銀行から誰かくる、名前はボビー・チャイルド、「ぶっ殺してやる」と息巻く(物騒な)。そこへタイミング悪く、ヘロヘロになったボビー到着。そしてポリーを見るや否や、恋に落ちる、だが、名乗った途端にぶん殴られる(笑)。そこで考えた、大プロデューサーのザングラーに”なりすまし”。ところが、その”なりすまし”にポリーがぞっこんになってしまっったのでややこしい(笑)。そんなこんなの恋模様がガーシュウィン兄弟のナンバーで綴られる。

とにかく、見どころ、聞きどころだらけで、怒涛のように楽しい場面の連続。初っ端のステージシーン、劇場前で繰り広げられるダンスナンバー、キャラクターの一挙一動が面白おかしく。得意満面でステップを踏むボビー、勢い余ってザングラーの足を踏んだり、デッドロックに到着したボビーのヘロヘロぶり、街の男性陣が繰り広げる西部劇ごっこ(倒れ方が見事)、ロープを使った”コントラバス”のシーン、そしてさまざまな道具を使ったダンスシーンなど、数えきれない。

また、本物のザングラーが現れ、ザングラーもどきとのシンクロした動き、ここは抱腹絶倒。また、小ネタも随所に(一つひとつ説明するとキリがない)。計算され尽くしたフォーメーションだが、それをいかにも”やってます”ではなく、自然にハッピーな気分になってそういう動きになってる感、つまり、優れたダンス、フォーメーションであるには違いないのだが、それ以上、つまり、ダンスシーンもしっかり”芝居”、さらにボビー&ポリーの恋物語だけでなく、脇キャラもしっかり”恋愛”、そして寂れたど田舎なヘッドロックが!日本流でいえばいわゆる”街おこし”。悪者もいない、ヒール役的ポジションではザングラー、だが、この彼、男気があり、二幕後半で、その”漢”な行動に出る。さらにボビーの母親、息子をなんとかしたい、銀行もしっかり経営せねば、というキャラクターだが、最後の最後で(笑)、ここは客席から笑いが起こる。

この作品、始まってすぐに『オチ』もわかってしまうくらいであるのに、なぜか何度でも観たくなる。ちょっとお間抜けなところもあるが登場するキャラクターは”みんないい人”、ボビー・チャイルド役は斎藤 洋一郎、ポリー・ベーカー役は相原 萌で観劇。二人ともダンススキルはもちろん、過去作品でも重要なキャラクターを演じているが、安定感は抜群、拍手が鳴り止まず、何度も登場、その度にきっちりと”ボビー&ポリー”で(笑)、そこで更なる拍手、サービス精神旺盛なカーテンコールであった。

物語
1930年代、ニューヨーク。銀行の跡取り息子、ボビー・チャイルドは、仕事も婚約者も放り出して踊ることに夢中。大プロデューサーのザングラーに自分のタップを売り込んでいます。けれど、人生はそんなにうまくいくものではありません。ザングラーの機嫌は損ねるし、婚約者からは結婚を迫られ、うるさい母親からは銀行の仕事を命じられ……ボビーはもううんざりです。

結婚か、銀行の仕事か。板挟みになったボビーは、結局母親の命令に従って、物件を差し押さえるためにネバダ州のデッドロックへ向かいます。
かつては金鉱の町として賑わったデッドロックは、いまやすっかり寂れ、まるで時間が止まってしまったかのよう。駅から砂漠を歩くこと1時間、フラフラになってやってきたボビーの視界に飛び込んできたのは、町でただ1人の女性、ポリーでした。男勝りだけれどとってもチャーミング! 一目でポリーの虜になってしまったボビーは、得意のダンスで彼女の心をつかもうとします。

最初は嫌々だったポリーも、踊っているうちに彼に心惹かれていきます。ところが、事もあろうにポリーは、ボビーが差し押さえに来た劇場のオーナーの娘だったのです。ボビーはショーを上演して抵当に入っている劇場を救おうと彼女に提案します。しかし彼の正体を知ったポリーは、劇場を乗っ取るための作戦ではないかと勘ぐり、その申し出を拒絶してしまいます。

しかし、そんな事でめげるボビーではありません。数日後、ザングラーが踊り子たちを引き連れてやってくるなり、ここでショーをやると宣言します。突然のことに町は騒然。実はこの“ザングラー”は、変装したボビー。でもポリーは“ザングラー”を本物と思い込み、劇場復活のチャンスと大喜び。早速、町の男たちは即席ダンサーになるべく、踊り子たちと猛レッスン。デッドロックの町は次第に活気を取り戻してゆきます。

ボビーは“ザングラー”としてショーの準備を進めながらも、ポリーの気持ちを自分の方へ向かせようと奮闘しますが、空回りばかり。それどころか、なんとポリーは“ザングラー”に恋をしているではありませんか!

さあ、ボビー、ポリー、“ザングラー”の奇妙な三角関係はいったいどうなるか? 次から次へと起こるハプニングの中、ショーの初日はどんどん近づいてきます……。

概要
日程・会場
2023年4月25日〜7月22日 KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
2023年8月26日〜 全国公演
公式サイト:https://www.shiki.jp

舞台写真撮影:荒井 健

© 株式会社テイメント