市民に愛されたパン屋が閉店へ 後継者不在やコロナ禍影響 名残惜しむ客、連日来店も

7日の営業後に閉店するモンマルトル。坂本社長はこれまでの支えに感謝する=2日、境港市元町

 境港市元町の神戸ベーカリーが展開する創業67年の本社工場兼販売店「モンマルトル」と、水木しげるロード沿いにある水木ロード店(同市松ケ枝町)が7日の営業を最後に閉店する。かつて市内の中学校の購買でも売られていた「玉子ロール」や、「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクターを模した「妖怪パン」などが市民や観光客に愛されたが、後継者の不在に加えコロナ禍や燃料・物価高騰などを踏まえて決断。名残を惜しむ客が連日買い求めている。

 店は、神戸市でパン職人をしていた坂本全社長(75)の父が夫婦で営んだパンや菓子の製造、販売が前身。1956年に同市中野町で工場を新設し「神戸ベーカリー」の屋号でパン製造販売を開始した。

 坂本社長は大学卒業後の72年ごろから携わり、店は77年に中野町から「モンマルトル」として移転。創業以来変わらない優しい味わいの「玉子ロール」や「ソーセージロール」、レーズンクッキーの「ロックケーキ」などが人気を集める。

 一方、水木ロード店では、97年に店の目玉として、坂本社長が考案した鬼太郎やねずみ男などの「妖怪パン」が誕生。現在は7種あり、旅行雑誌などで取り上げられるほどのヒット商品となり、窓際に並ぶパンに観光客がカメラを向ける光景がよく見られていた。

 市民や観光客に愛されていたが後継ぎがおらず、事業の引き継ぎ先を探したものの店の規模などで交渉がまとまらないなど、将来の営業展開を模索する日々が続いた。コロナ禍で採算が合わない状況が続き、燃料や材料の価格高騰にあえいだこともあり、閉店を決断したという。

 4月に閉店を知らせる張り紙を店に出すと「残念」「やめないで」などと閉店を惜しむ常連客の声が多く寄せられ、連日通常の倍以上の客が来店しているという。坂本社長は「50年近く、基本を大切に自分ができることを精いっぱいやってきた。さまざまな年代の人が店やパンのことを覚えていて買いに来てくれてうれしい」と感謝している。

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