植田新総裁、デビュー戦後の円安はなぜ起きた−−予想以上にハト派だったからは本当か?

4月28日(金)、植田新総裁が初めて出席した日銀の金融政策決定会合が行われると、金融政策の変更などはありませんでしたが、日本の金利は大きく低下し、連れたように為替相場もその日のうちに1米ドル=133円台から136円台まで、約3円も米ドル高・円安となりました。これを受けて、「予想以上に円安に動いたのは、植田日銀体制が予想以上にハト派(金融緩和支持の意味)だったため」との解説も聞かれましたが、いろいろ「間違い」があるかもしれません。


植田総裁「デビュー戦」後の金利低下、円安を検証する

そもそも為替や金利の動きは、本当に「予想以上」だったのでしょうか。日銀の金融政策決定会合は、2023年になってから、これまで1月18日(水)と3月10日(金)にも行われました。この2回とも、日銀が現在行っている10年債利回りという、長期金利の上昇を阻止するYCC(イールドカーブ・コントロール)という政策の見直しが注目されました。しかし、それは見送られ政策変更なし、といった今回と同じ結果でしたが、その日だけで米ドル/円最大値幅は3~4円にも拡大しました。そして今回も上述のように、約3円の米ドル高・円安となったわけです。

要するに、最近の日銀の金融政策決定会合が行われた日の米ドル/円は、とくに政策変更がなくてもよく動くのです。その意味では、今回も「予想以上」ではなく、むしろ「いつもと同じでよく動いた」ということだったでしょう。

今回は米ドル高・円安に大きく動いたわけですが、これは日本の金利が大きく低下したことに連れた円安との受け止め方が多いでしょう。この「日本の金利がよく動く」というのも、最近の日銀会合の後の共通した特徴でした。これは、現在の日銀の金融政策の中でも、上述のように長期金利上昇阻止策であるYCC見直しが注目されているためでしょう。

日銀は、2022年12月の会合で、この長期金利、10年債利回りの上限を0.25%から0.5%に拡大しました。これを受け、10年債利回りはその日のうちに新たな上限に迫る急騰となり、それに連れる形で円相場も急騰となったのです。その後は、2023年1月、3月の会合で、この上限の再拡大が見送られると、10年債利回りは一旦大きく低下するところとなりました。そして今回も、上限の再拡大は見送られ、10年債利回りが大きく低下したので、やはり「これまでと同じ」だったいうことではないでしょうか(図表1参照)。

日本が金利上昇なら円高、金利低下なら円安は本当か?

ところで、1つ気を付けなければならないと思われるのは、日本の金利が上昇したら円高、逆に金利低下なら円安という反応でいいのかということです。言葉の説明だけなら、金利と為替の関係は正しそうですが、実は3月の会合の際は日本の金利が低下する中で、為替相場は円高(米ドル安)へ向かうところとなったのでした。

この3月の日銀会合の当時、米国ではある銀行の経営破綻をきっかけに、金融システム不安が急浮上し、それを受けて金利が急低下に向かいました。もともと日本の10年債利回りは、米10年債利回りに連動する傾向があります。最近こそ、日銀が10年債利回りに上限を設定しているため、米10年債利回りの上昇への連動は限られますが、低下局面では連動が強まります(図表2参照)。

要するに、3月の日銀会合後の日本の10年債利回り低下は、日銀がYCC見直しを見送ったことへの反応以上に、米金利低下に連れた面が大きかったでしょう。日米の10年債利回りがともに低下した場合、金利水準は「米国>日本」なので、普通は米金利の低下幅が大きくなるため、金利差米ドル優位は縮小します。だからこの時は、日本の金利低下を尻目に、為替は米ドル安・円高となったわけです。

では今回はどうか。図表3は、米ドル/円に米2年債利回りという、短期金利を重ねたものです。これを見ると、今回の日銀会合後の米ドル高・円安は、米金利から大きくかい離したものだったことが分かるでしょう。勢い付くと相場は、理屈を超えた動きになるのも決して珍しくありませんが、落ち着きを取り戻すなかで、「行き過ぎた動き」は修正が入り易くなりますから、金利及び金利差と為替の関係は引き続き要チェックではないでしょうか。

為替に限らず株式などにおいても、相場には「行き過ぎ」や「間違い」が起こることが珍しくありません。

「日銀が予想以上の金融緩和を行う」→「予想以上の円安になった」という因果関係はおかしくないでしょう。しかし、「予想以上の円安になった」という結果は、必ずしも「予想以上の金融緩和」という原因で起こったとは限りません。これまで見てきたように、ただ単に「日銀会合の後は相場がよく動く」ということに過ぎなかった可能性もあるし、米金利との関係からすると「行き過ぎた円安」だった可能性もあるわけです。

それにしても、相場においては「結果」から逆に「原因」を類推するといった因果関係の間違いに陥りやすいのは、「結果」が数字で出る以上、それは正しいはずといった前提で考えがちなためではないでしょうか。

数字で明確に示された「結果」でも、行き過ぎや間違いの可能性があることを確認する方法は、この連載でもとくに重視したテーマでした。その上で、「行き過ぎや間違いは珍しくない」という相場の本質を理解すると、相場に対して気持ちが楽になり、長く付き合えるようになるのではないでしょうか。

© 株式会社マネーフォワード