「ふりかけ」誕生から1世紀、その奥深き世界 金賞の常連、神戸の企業は「生タイプ」で勝負

澤田食品が手がける生タイプふりかけの数々。マスコットの「いかべえ」(左)も大好物という=神戸市西区高塚台5、澤田食品(撮影・中西幸大)

 最強のご飯のお供「ふりかけ」。熱々ご飯にかけたり、混ぜたり、料理の味付けに使ったり、さまざまに味わえる。生まれたのは約1世紀前とされるが、定番から変わり種まで商品の幅は今も広がり続けている。生産者が自慢の味を競う全国グランプリも開かれ、神戸には何度も金賞に輝いた実力派メーカーがある。5月6日は、ふりかけの日。たかがふりかけ、されどふりかけ。その奥深き世界を紹介する。(横田良平)

 ふりかけの日は2015年、熊本市の関連団体「国際ふりかけ協議会」が定めた。日本独自の食文化であるふりかけは、大正から昭和初期に国内数カ所で考案されたという。記念日は、考案者の一人とされ、熊本の薬剤師だった吉丸末吉氏の誕生日にちなんだ。

 熊本では吉丸氏が、食料難の時代に、特にカルシウム不足を補うため魚の骨を粉にしてご飯にかけたのが始まりとされている。第2次世界大戦中は、栄養食品として軍への納入を強制されたという。

 戦後になると、さまざまな定番商品が生み出された。池田勇人内閣が「国民所得倍増計画」を提唱した1960年には、丸美屋食品工業(東京)の「のりたま」が誕生。高級食材だった卵とノリを使い、大ヒット商品となった。

 70年には、赤シソを使った三島食品(広島市)の「ゆかり」が発売された。大正時代から続く田中食品(同)の「旅行の友」も含め、長く愛されているロングセラーが数多くある。

 元々は子どもの食べ物というイメージが強かったが、89年に永谷園(東京)が大人も楽しめる「おとなのふりかけ」を発売してファン層を拡大。風味を損なわない個包装も評判を呼んだ。

 常温で保存でき、賞味期限も長く取り扱いやすいため、多くの食品メーカーが参入した。専業は少ないが、製造元は全国に500社以上あるとされる。

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 製造法は乾燥した海産物などを砕き、調味料と混ぜ合わせるのが主流。素材を乾燥させる「ドライ系」に対し、そのまま生かす「生タイプ」も誕生した。

 生タイプを得意とするのが、神戸市西区の澤田食品。協議会が2014年から開く全国グランプリの常連で、「いか昆布ふりかけ」「シャキット 梅ちりめん」「ゴロっと北海ホタテの焦がし醤油(しょうゆ)ふりかけ」の3品で、金賞を4度受けた。

 元々は水産物加工を手がけ、「白ご飯に合うものを」と作り始めたという。

 磯の香りが立ち込める工場で、20~30種類のふりかけを製造。従業員が、ちりめんなどの選別や攪拌(かくはん)機で食材を混ぜる作業、包装をこなす。全て生タイプで、食材を混ぜた後、包装までに時間を置くことで味に一体感が生まれるという。

 澤田大地社長(39)は「大手と同じことをしても勝てない。規模は小さいが、生タイプで存在感を出したい」と話す。輸出や地元産素材の活用を念頭に、「ふりかけにはまだまだ可能性がある」と力を込める。

 近年はおにぎり作りに適した「混ぜ込み」用や、料理の味を再現した商品も登場。地場の食材を使った「ご当地もの」も花盛りだ。パスタなどの味付けに使うアレンジレシピも編み出され、裾野が広がる。

 協議会の松江慎太郎代表理事(46)は「日本人なら誰もが知り、開発も簡単。防災食にもなり、使い勝手が良い」と魅力を語る。手軽な栄養補給に役立てばと、コメを主食とする東南アジアなどの子どもにも提供を行う。「日本の身近な食文化を海外に発信していきたい」と今後を見据える。

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