弁護士・大渕愛子 専業主婦志望だった中高生時代

住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、人生を変えてくれた映画の話。各界で活躍する同世代の女性と一緒に、“あのころ”を振り返ってみましょうーー。

「“結婚して専業主婦になる”のが、高校生になるころまでに描いていた将来像でした。ところが、レンタルビデオ店で偶然手にした『ショーシャンクの空に』(’95年)の影響もあり、弁護士になろうと法学部を受験。親は相当驚いていたと思いますが、あのとき思い立ったから、今の私があるのだと思っています」

こう語るのは、弁護士の大渕愛子さん(45)。母方の祖父は検事、父方の従兄弟が裁判官など、親戚には法曹関係者が多い。

「でも、父は会社員でしたし、母は専業主婦。幼いころは、“女性の社会進出”もさほど叫ばれていませんでしたから、母も私には働くよりも、家庭を守ることを望んでいたのでしょう。そもそも、部屋にこもって勉強したり本を読んだりするタイプではありませんでした」

アイドル全盛の’80年代は、歌番組に夢中になっていた。

「なかでも中森明菜さんや石川秀美さんが大好きでした。明菜さんは不良っぽさというか、ちょっと陰のある雰囲気がカッコイイなと感じていたし、秀美さんは純粋に美しい」

小学校高学年のときに見た、トレンディドラマの原点ともいわれる『抱きしめたい!』(’88年・フジテレビ系)は「私のドラマ史に残る作品」というほど印象に残っている。

「ダブル浅野が人気絶頂のとき。浅野ゆう子さんの都会的なファッションにあこがれました」

物語では、浅野温子が演じるもう一人の主人公が、スタイリストとしてバリバリ働く独身女性として描かれている。

「仕事を持って自立していて、恋愛もしている。すごく自信があるから、言葉にも力があるんですよね。キャリアウーマンになる想定などしていない私にも、“働く大人の女性って、こんなにカッコイイんだ”と思わせる女性像が描かれていました」

中学受験を経験し、都内にある女子大付属の中高一貫校へ進学。

「テニス部に入部して、中1、中2のときは、朝練、放課後の練習と、かなりのめり込んだのですが、中3から高校生にかけては外の世界に目が向くようになって、テニス部の交流試合や大会を通して知り合った他校の友達と遊んだり、友達同士で、他校の学園祭に行ったりしていました。’90年代はカラオケボックスが人気だったこともあって、かなり頻繁に通っていた記憶が」

友人たちはアイドルの曲を好んで歌っていたが、なぜか大渕さんは竹内まりやや中島みゆきなど、大人の女性が聴くような曲が好きだったという。

「中島みゆきさんの『悪女』(’81年)や竹内まりやさんの『シングル・アゲイン』(’89年)、『告白』(’90年)はけっこう暗い歌なのですが、私の知らない世界や感情が描かれていて、想像力をかき立ててくれました。歌を通して、さまざまな“経験”をしていたのです」

■進路に迷っていた時期に転機となった2本の映画

トレンディドラマ全盛だった時代、『振り返れば奴がいる』(’93年・フジテレビ系)も忘れられない作品だ。

「病院を舞台に、織田裕二さんが演じる天才肌の医師・司馬江太郞と、石黒賢さんが演じるチームの結束を重んじる努力型の医師・石川玄との対立が描かれていました。どちらも魅力的なのですが、“いい人”そうな石黒さんにより感情移入。石川先生は病気で亡くなり、司馬先生も過去の対立相手に刺されてしまう衝撃的なラストだったので、いまだに忘れられないドラマになっています」

医療や法廷がテーマの作品を好んで見ることが多くなった高校時代、自身の進路を決めかねていた。

高2の3学期に進路を決めるのですが、そのままエスカレーター式に併設の四大や短大に進んでいいのか……、具体的に将来の夢が抱けずにいました」

そんな時期に見た、2本の映画が大きな転機となった。

「1本は『告発』(’95年)という映画。貧しい少年が妹のためにわずか5ドルを盗んだ罪で25年の刑期が言い渡されて、極悪人が収容されるアルカトラズ刑務所に」

主人公は刑務所でいじめを受け、ついには囚人を殺してしまう。

「そこで弁護士が登場、逆に刑務所内での虐待の事実をつまびらかにしアルカトラズ刑務所を告発。そして、ついには閉鎖に追い込むという実話を基にした物語」

もう1本の映画が『ショーシャンクの空に』だ。妻とその愛人を殺した容疑で刑務所に入れられた銀行員の、ショーシャンク刑務所での過酷な生活が描かれている。

「絶望的な状況のなか、自暴自棄にならず、有能な銀行員としての知恵をフル回転させて立ち回り、仲間や看守の信頼を得ていきます。少しずつ偶然が重なって、脱獄という目的を達成。噓みたいな展開ですが、とてもリアルに描かれていて、難局でも自分の頭脳で乗り越えていく主人公にくぎ付けになりました」

大渕さんも、自分で道を切り開くための知識やスキルを身につけたいと思い立った。

「法律や裁判を扱った映画が好きだったことと、親戚に法曹関係者がいたことが重なり、弁護士になりたいという道を見つけることができました」

併設の女子大への進学をとりやめ、法学部に絞って大学受験。大学在学中に、司法試験に初挑戦し、パスしたのだった。

「今のようにSNSやYouTubeで情報が得られなかった’90年代、映画や本、ドラマなどが世界を広げてくれました。なかには、人生を変えてくれるほどの作品に出合うこともあるのですね」

【PROFILE】

大渕愛子

’77年、東京都生まれ。大学在学中に司法試験に合格し、弁護士として活動。’10年に独立して法律事務所(現アムール法律事務所)を開所した。『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)にレギュラー出演していたことも。俳優の金山一彦と結婚し、3児を育てるママでもある

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