「清水森ナンバ」商品続々 弘前の研究会 ブランド化奔走20年

観光施設・津軽藩ねぷた村(弘前市)で販売されている清水森ナンバの関連商品群。約20品が並ぶ
弘前在来種のトウガラシ「清水森ナンバ」。栽培技術の向上が普及の鍵を握る

 青森県弘前市伝統のトウガラシ「清水森ナンバ」の栽培・普及に取り組む「在来津軽 清水森ナンバブランド確立研究会」が発足して今年20年目を迎える。一農家がほそぼそと受け継いできたご当地トウガラシは、今では栽培農家や加工業者ら約100人、年間生産量33トンにまで成長した。ただ、効率的な大量生産技術が確立していないため、農家のもうけにつながりにくい面がある。関係者は清水森ナンバの良さを生かした関連商品を次々と生み出し、魅力を多くの人に知ってもらおうと懸命だ。

▼関連商品続々 これまでに約50品

 弘前市親方町の串焼き・冷麺の店「としぞう。」はこの春、自家製のたれに清水森ナンバを加えた万能たれを開発した。製造過程の後半で、一味唐辛子に加工した清水森ナンバを入れ、辛みよりも風味を生かす工夫を施した。

 「清水森ナンバはまだまだ有名じゃないが、県外のお客さまは地元の食を求めている。古くからの在来種であることを説明すると反応が良いんですよ」

 代表の小田桐誠さん(49)は清水森ナンバを使うメリットをこう語った。その土地土地の味や文化を求めてやってくる観光客に受けているという。

 これまで発売された清水森ナンバの関連商品は、ブランド確立研究会が把握しているだけでも約50品。会を中心にさまざまなアイデア食品が生まれてきた。発足から2年後の2006年に生まれたのが南蛮みそなど3品。10年代からは弘前実業高校や柏木農業高校が授業の一環としてその輪に加わった。

 グリーンカレーやチリソースにドレッシング…。ガトーショコラを合わせた「なんばがとー」やチョコレートに混ぜた「清水森ナンバ70%カカオ」などもあり、従来の唐辛子料理とは一線を画した使い方が増えた。まだ、可能性に限界は見えない。

▼生産量と技術力 普及の課題

 普及に取り組んできた「在来津軽 清水森ナンバブランド確立研究会」は栽培農家や加工業者などでつくる任意団体。品質保持のため、栽培は会員に限定している。

 「(研究会の)繰越金を使って、農家向けの苗代を半額にしては」。4月10日に弘前市内で開かれた研究会の総会で、出席者からこんな提案が上がった。ロシアによるウクライナ侵攻以降、肥料代の高騰に苦しむ農家の支援になればとの思いからだ。

 提案は農家にとって清水森ナンバの生産が楽なものではないことを物語っている。今年から清水森ナンバの栽培を始める西目屋村の農業田村裕幸さん(36)は「昨年8月の大雨で園地が相当駄目になった」と顔色を曇らせた。

 活動に長らく携わってきた澁谷長生弘前大学名誉教授は清水森ナンバのこれからについて「生産量と技術力が課題」と語る。単収(10アール当たり収量)はトウガラシ生産の先進地の韓国に比べ半分にとどまる。収量アップに必要な密植技術を教えることができる指導員がいないため。うまみが少なく、農家の裾野が広がっていかないのが実情だ。

 加工商品の大量生産に結びつける方法を取るか、逆に生産量を抑え希少価値を追い求めるか-。研究会の中村元彦会長(津軽藩ねぷた村理事長)は「背伸びはしたくない。長い歴史と豊富な栄養素を武器に、当面はブランド化を着実に進める。販路は段階的に拡大していきたい」と話した。

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清水森ナンバ 弘前に伝わる在来のトウガラシ。「清水森」は弘前市内の地名、「ナンバ」はナンバン(南蛮)を津軽弁風に言い表した表現。約400年以上前に、弘前藩祖・津軽為信が京都から持ち帰って栽培を始めたとされる。辛み成分が穏やかで香りや甘みが強い。安価な輸入品に押され、生産量が一時大幅に減った経緯がある。2020年に農林水産省の地理的表示(GI)保護制度の対象に登録された。

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