カジノ誘致を阻止した91歳「ハマのドン」 ドキュメンタリー映画、神戸・元町で20日から公開

映画の一場面(C)テレビ朝日

 「横浜港にカジノはいらん!」。徹頭徹尾、一歩も譲らず、ついに誘致を阻止した91歳(当時)。市民の筆頭に立ち、誘致を勧める政権と対立した横浜港ハーバーリゾート協会会長、藤木幸夫氏を追ったドキュメンタリー映画「ハマのドン」が20日から神戸市中央区元町通4、元町映画館で公開される。大阪ではまさに今、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)整備計画が進行中。「ドン」の叫びに注目が集まる。(鈴木久仁子)

 藤木氏は戦後の混乱期から横浜港で港に関わる事業を手がけ、横浜港の顔としてその発展に寄与してきた。地元政財界をはじめ、歴代の総理経験者にも人脈を持ち、かつては裏社会ともつながりがあったという。自身、保守の重鎮だ。

 そんな人物が、なぜ、真っ向からカジノ誘致に反対することになっていくのか。映画では、その言動に裏打ちされた哲学、歩いてきた道のりをひもとき、「強面」の風評とは違う素顔をあぶり出していく。

 戦いの舞台になったのは2021年の横浜市長選。IRに積極的だった当時の菅義偉首相が推す候補者に対し、反対を掲げる候補者を擁立。反旗を翻した。

 賭け事で身を持ち崩す港湾労働者を見てきた経験があるからこそ、「博打はダメだ」との一念は揺るがず、市民の反対の動きにつながっていく。

 今回、初監督を務めた松原文枝さんは「テレビ朝日」で報道番組を手がけ、霞が関を長年見つめてきた。

 「藤木さんは裏の権力者とも言われ、しかも自民党員。怖い人だと思っていた。こんな戦いをすれば、大変な不利益を被るだろうし、返り血も浴びるだろうに、勇気がある。尋常ならざる事態にカメラを回し始めた」と松原さん。しかし「いつ権力側に籠絡されるか分からない。ずっとドキドキしていた」とも。

 そんな緊張感とともに進められた撮影では、自民党政治のほころびや夢のような経済効果をうたうカジノ誘致のメッキをもはがしていく。

 大阪では今、政府がIR整備計画を認定した一方で、反対運動も起きている。松原さんは「政治は自分たち手の中にあり、市民が手を結べば、国の政策も、なきものにできるのだと感じてもらえれば」と話している。

 6月2日まで。元町映画館TEL078.366.2636

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