斉藤由貴が歌う谷山浩子の歌詞♪「土曜日のタマネギ」と「MAY」の共通点は?  斉藤由貴と谷山浩子、聴いて感じる “孤独” は同じ?

映画「恋する女たち」の主題歌にもなった「MAY」

私は、斉藤由貴の瞳は、占い師の水晶玉のようだと常々思っている。デビューした時から、あの輝きをウロウロと浮遊させる視線が美しくて怖かった。この世のものではない何かを見つめているようで。

普通の女の子とはちょっと違う、一つの言葉で100の意味を考えるようなキャラクターイメージは、デビューシングル「卒業」から早くも確立していた(「でも もっと哀しい瞬間に 涙は取っておきたいの」という松本隆の詞が見事!)。自分の世界を持っている、頑固で繊細な哲学的乙女。

彼女の歌声も曲も大好きだ。雰囲気も大好きだ。けれど、友達にはなれそうにない。勝手にそう分析し見ていた。

しかしある作品で、彼女がふっと隣に降りてきた気がしたのである。それは音楽ではなく映画。彼女が主演をつとめた『恋する女たち』である。

氷室冴子の原作ファンだった私は迷わず映画を観に行った。すると、画面に広がる、なんともリアルなキャンパスライフ! そのなかで、斉藤由貴は煙草を吸い、女友達と黄色い声を上げ、顔をゆがめながら泣くのを我慢していた。

ふくれっ面が素晴らしく魅力的で、主題歌として流れた「MAY」の、「そんなにふくれないでよ」という歌詞は、彼女のためにあるように思えた。

ああ、友達になれそうな普通の女の子じゃないか! 好感度が爆上がりである。素直に好きと言えない19歳の等身大を描いた、とてもキャッチ―なラブソングに聴こえた。

描かれる「自意識過剰のハイティーン」に共感

しかし、歌番組でこの曲を歌う彼女を見ると、映画とはまた違う親近感がわいてくるのである。彼女の水晶玉の瞳がクローズアップされることで軽やかさが減り、とても心の壁の厚いヒロインが見えてくるのだ。

目の前に好きな人がいる。きれいな噴水のある場所で、どうやら二人きり。相手がしずんでいても、「これ夢だから」「言葉はみんな嘘なの」と、すべてを飲み込んでしまう。そして自分の世界に閉じこもる。

なんと面倒くさい……! そして共感しかない。この超自意識過剰からの現実逃避パンパンモード、覚えがありすぎる。だからこそ愛しいが、とても心配になる。彼女は「この夢」から出られるのだろうか。「鳥籠」を壊すことはできるのだろうか、と。

谷山浩子と斉藤由貴に感じる両極端の孤独

作詞は谷山浩子である。斉藤由貴とのタッグは、6枚目のシングル「土曜日のタマネギ」に続く2作目であるが、「MAY」にも共通していえるのは「自己陶酔」である。

「土曜日のタマネギ」は、冷たい電話が入り、ショックを受ける。が、矛先は相手に向かず、ひとりの自分をみじめだと嘆き、周りをうらやみ、どんどん孤独を深めていく。そしてふるまうはずだったポトフを捨て、鍋の底にはりついた玉ねぎに自分を照らし合わせるのだ。トコトン自分!

「MAY」では、好きな人との美しい時間に、己の立ち位置を考えすぎ、硬直状態となっているし。

この見事な独り相撲の世界! 聴いていると、不思議の国のアリスの穴の如く、心の内面にずんずん落ちていくような感覚になる。その落下感が不思議と心地よいのだ。同じ世界にいるようで、実は周りと階層が違うところにいて、一人で美しい世界にこもることで、やっと自己肯定できるようなイメージだ。

斉藤由貴のムードは逆。素晴らしい個性と才能を自覚しているプライドとオーラに満ち満ちている。けれど、「普通の人とは違う階層にいる」点では同じで、孤独オーラを持っている。そんな彼女が谷山浩子の歌を歌うことで、若さゆえの傲慢とか理想の高さゆえの思い込みが見えてくる。それが、ゾクゾクするほど厄介で、愛しいのである。

斉藤由貴が「MAY」をリリースした1986年11月19日、同じタイミングで谷山浩子も「MAY」をリリースしている。アレンジは大村雅朗。こちらは、「MAY」という歌詞が「ねえ」という響きに似ている。その問いかけがあまりにも儚くて静かで、すぐに消えて届かない予感がする。

斉藤由貴の「MAY」は、武部聡志の軽やかなアレンジと彼女の「戸惑っているけど強気」というムードが重なり、両想いになれるのに、恋の理想から抜け出せない予感がする。

どちらももどかしくて最高。あぁ、両極端の自己完結! 独りよがりの季節は、実は一番美しく、楽しいのかも。

そしてそれは、新緑が湿気をふくみ、青臭い香りのする、5月と似ている気がするのだ。

 

カタリベ: 田中稲

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