国内のフェアトレード市場規模、2022年は過去最高の195億円に――企業の人権、気候変動問題への対応が後押し

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サステナブルやSDGsといった言葉が急速に浸透するなか、サプライチェーン上のすべての労働者の人権を守るため、コーヒーやチョコレート、コットンといったフェトレード商品の売り上げが拡大している。2022年の国内のフェアトレード認証製品の推計市場規模は前年比24%増の195.6億円と、過去最高の伸び率をみせ、日本でも企業の人権、気候変動問題への対応が後押しし、消費者の意識も変わってきていることを表している。(廣末智子)

2013年の89億円から躍進。1人あたり年間購入額も70円から157円に

調査は認定NPO法人「フェアトレード・ラベル・ジャパン」が毎年行っているもので、2013年には89億円だったフェアトレード商品の推計市場規模は2021年には157.8億円、それが2022年には過去最高の195.6億円にまで増えた。1人あたりの年間購入額も2013年の70円から2022年は157円にまで上がっている。

項目別でも紅茶(前年比236%)を筆頭に、コットン(同199%)、バナナ(同142%)、主要産品であるコーヒー(同122%)、カカオ(同110%)といずれも販売店舗と商品数が拡大し、好調な伸びを記録した。コーヒーは業務用、小売用ともに大きく増え、コットンではノベルティ商品としての雑貨に活用されたことが全体の数字を押し上げた。

背景には、ネットやテレビなどの情報を通じ、サステナビリティやSDGsに対する認知度が急速に高まり、消費者にとっては「日常生活の中でできる社会貢献」としてフェアトレード商品に対するニーズが強まっていること、そして企業が環境や社会課題に配慮した責任ある原料調達の観点でフェアトレードの商品化や品揃えを拡充していることがある。

人権問題と環境問題の両方にアプローチできる手段として注目高まる

具体的には、2022年9月には政府がすべての日本企業に国内外のサプライチェーン上における企業活動が人権侵害につながることがないよう求めるガイドラインを策定するなど、政府や市民団体などの間で企業にサプライチェーン上の人権への配慮を求める動きが急速に活発化していることが挙げられる。

フェアトレード・ラベル・ジャパンによると、中でも「特に人権リスクが高いとされる開発途上国の生産地における人権課題に取り組むための数少ないツール」として、原料が生産されてから輸出入・加工・製造工程を経て商品となるまでの各工程で、経済・社会・環境の3側面からなる基準が守られていることを証明する『国際フェアトレード認証』への産業界の注目が高まっていることが大きい。そこには、同認証を通じて、人権問題だけでなく、「気候変動を含む環境課題にもアプローチできる」ことが重要な要素になっているという。

もっともフェアトレード・インターナショナルの本部があるドイツと日本の市場規模を比較すると、ドイツは日本の約17倍に当たる2727億円と、桁違いの大きさだ。また一人当たりの年間購入額が最も多いスイスでは1万2765円と、日本の約101倍となっている。

この差について、フェアトレード・ラベル・ジャパンの潮崎真惟子事務局長は、「人権・環境の両側面のサプライチェーン全体での取り組みにおいて、日本企業は欧米に大きく後れをとっているのが現状で、その差が市場規模の差に表れている」と分析。その上で、日本のフェアトレード市場が今回、大きく伸びたのは、「日本の産業界のサステナビリティ活動の急速な推進を映し出している」とする見方を示し、「今後も『人権と環境に包括的に取り組む手段』として幅広い産品でフェアトレード市場の成長が見込める」と話している。

5月はフェアトレード月間、1アクションにつき1円を支援するキャンペーンも

日本では毎年5月を『フェアトレード月間』と定めており、今年も全国各地でさまざまな企業や団体がイベントなどを予定。フェアトレード・ラベル・ジャパンでは『フェアトレード ミリオンアクションキャンペーン2023』と銘打って、キャンペーンを5月31日までの1カ月間展開。企業や団体からの協賛金を原資とし、フェアトレードの商品購入やハッシュタグを付けてのSNS投稿、イベントの参加など、フェアトレードに関する1アクションにつき1円を途上国の支援金として送る計画だ。

同団体によると、支援金は「国際フェアトレードラベル機構」のメンバー組織である「中南米生産者ネットワーク」を通して、今年のテーマの一つである「環境」に関する取り組みを行う「気候変動基金」として各生産者組合へ届けられるという。

キャンペーンに当たって、同団体のアンバサダーを務めるエバンズ亜莉沙氏は、「気候変動と人権の課題は深くつながりがあり、気候変動に関心が高い方にはぜひ人権やフェアトレードのことにも関心を抱いてほしい。フェアトレードのフェアとは作り手にとってのフェアだけでなく、消費者や企業にとってもフェアであること。企業は透明性をもって商品の生産過程を開示し、消費者はどういったものを選べば世の中に良い影響を与えられるかを考えて行動につなげてほしい」と呼びかけている。

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